君に届け[02]

・・・やばい。
 俺、そろそろ理性が保てへんで・・・



















ひとくぎり




















『この狭いベッドにどうやったら2人並べるんだ? 常識で物事言え』











 新一の冷たい一言。
 相変わらずのその表情に、少し平次は苦笑する。











『・・・高校生の時と今を比べんな。お前も俺も、あの頃とは違うだろうが―――――・・・』




















 とどめの言葉。
 それは遠まわしの拒絶。

 逢う度に怖いほど綺麗になってゆく新一は、比例して眼光の威力も衰えること無く呟いた。




















 ・・・・最初に会った時は同じくらいの背丈だった。
 新一は『コナン』として存在していたけど、何度か元の姿に戻る時があった。











 それは自分が今まで新聞や雑誌、テレビの中で見てきた『工藤新一』そのままだったけど。
 










 想像していたよりも遥かに顔立ちは整い。
 脆そうな外見とは裏腹に、凛として何者にも媚びず意思を貫き通す潔さが彼の存在感を際立たせていた。

 最初からその何もかもが、平次を捕えて離さなかった。




















 ・・・それにずっと気付けなかった。
 ずっとずっと、こんなに焦がれる存在が居た事に。

 でも気付いた所で、それを伝えはしたけれど・・・
 あれから平次は怖くて新一に返事を聞けないままだった。





















「可能性が無いワケないとは思うねんけど・・・」




















 アルバム。貼ってあった写真。
 その新一は本当に綺麗で――――・・・事の成り行きを知らない人が見たら、まるで『眠っている姫』を童話の如く『口付けで目覚めさせようとしている場面』にしか見えなかった。




















 ・・・それを大事にしていたとしか思えないさっきの新一の行動。
 










 どうみても困った顔で。
 どう考えても顔を真っ赤にしていた気がするあの時の新一・・・



















「―――――・・・自惚れてもええんやろか」





















 少し、強引な行動を起こしてみても良いのだろうか?





















 ・・・あの薄い身体に触れてみて。











 もし、逃げなかったら。
 あの瞳が俺を映したら・・・・・・




















 その時扉が開いた。
 其処には布団を取りに行ったはずの新一が、ただ枕だけを持って立っていた。

 そして次に聞こえて来た声に、平次は耳を疑った。


















「悪い。夏用の布団しか無くてさ―――・・・しょーがねえから、俺のベッドに入れてやる」



















ひとくぎり



























 新一が音も無く部屋へ入ると、扉が閉まった。
 平次のそばに来ると枕を差し出す。















「・・・その前に、フロ入って来いよ」
「ふ、風呂?」
「じゃねえと俺のベッドには寝かせねえ」











 じろりと見上げられる視線。
 月の光に反射してそれは、また平次の鼓動を誘う。











 そう言えば新一は、どんなに遅く帰って来た時でも風呂に入ってから寝るのだと聞いた。
 髪や身体は必ず一日の埃や汗で汚れているから、そのままではとても布団に入る気にならないらしい。






 だから、それを平次に強要するのも当然だった。













「・・・そやな。ほんなら遠慮なく」
「後で寝間着持ってくから」
「おおきに―――・・・あ!」
「どうした?」















 部屋を出ようとした平次。
 でもその時、声を出す。

 新一が聞き返ってきた答えは・・・・













「下着。替えあらへん」
「――――・・・お前、俺んち泊まるって解ってんだから何で買ってこねえんだよ。さっきコンビニも寄っただろうが」
「忘れとった~ 工藤。新しいのあったらくれへんか?」
「解った解った、一緒に持ってくから早く行け」















 そうしてやっと去った平次。
 新一は耳をすませて階段を降りる足音を確認すると、大きく息を吐いてその場に崩れた。















ひとくぎり




















 ・・・だ・・・駄目だ俺―――・・・何が『夏用の布団』だ? そんな言い訳普通するか?? あああ~ ばかばか情けねえなも~~




















 顔に手を当てる。かなり熱い。汗もかいてる気がする。
 心臓なんて、飛び出そうな勢いだ――――・・・











 決心した筈だった。
 あの直前までは、言おうと思ってたのだ。『どうして俺の隣で寝たいわけ?』と、単刀直入に。




















 ・・・あくまでも主導権は自分であるが為に。




















「ホントどうしよう俺――――・・・」




















 新一は改めて頭を整理する。
 平次の気持ちを受け入れる意思を示せば、次に起こると考えられるのは肌と肌の接触だ。




















 ・・・それはきっとキスに繋がる。




















「俺が、服部とキス・・・・・・?」




















 自然に指が自分の口唇に触れた。
 乾いたそれはまるで何かを求めているかのように、熱い。




















「~~~~~っっっ!! ちょ、ちょっと待て俺! なんで想像してんだ? つーか、何で想像出来んだよ――――――――――・・・信じらんねえ。やっぱ変だっつーのこんなの」





















 目を閉じても駄目だった。
 それどころか、余計にリアルに浮かぶのだ。











 このままじゃ身体がもたない。
 心臓にも悪い。







 自分と平次のキスシーンが想像出来てしまうなんて、普通じゃ考えられない状況だ。
 しかもその想像は頭の中でキスの先へと発展してきたから・・・いい加減に新一は『ああああっ! 散れ妄想!!』と叫ぶと立ち上がり、クローゼットから平次の着替えを取り部屋を出た。



















ひとくぎり




















「・・・服部、ここ置いとくぞ」




















 バスルーム。その隣の、脱衣の為のスペース。
 新一はでも水音がしないのに「?」と思った。




















「服部? 居ねえのか?」
「おー 工藤、スマンな」
「!」




















 その時、背後から現れた平次。



 ・・・既に上がってトイレに行っていたらしいが――――・・・その姿が一糸纏わぬ姿だったから、新一はつい目を見開き手に持っていた衣服を落としてしまった・・・・


























ひとくぎり



























「ん? どないした」
「・・・・・き、着替え持ってきた、んだけ・・・ど」
「そら解るけど、何固まっとんねん」




















 平次は全く隠そうともせず落ちた服を拾う。
 尚も新一は止まったままだったから、その顔を覗きこんだ。

 ・・・次の、瞬間。
 



















「工藤?」
「そ、そんなカッコでうろうろすんな!」
「どわっ!!」




















 新一は平次を押しのける。
 そしてその足音は、もの凄い勢いでリビングの方へ走って行ってしまった。



















ひとくぎり




















 今のは、何だったんだろう。
 ――――・・・あんなに顔を真っ赤にした新一を、未だかつて平次は見たことが無い。




















「・・・・・恥ずかしいのはこっちやっちゅーに」




















 そう。実はかなり恥ずかしかった。
 でもあの場面でアソコを隠したりしたら、余計に恥ずかしいから平気なフリをした。











 まあ男同士だし・・・とは言っても友達の裸なんて普通、あんまり見たいもんでも無いだろう。大きさの興味はあるとしてもだ。
 ・・・しかし。




















「ホーンマ――――・・・正直やのー 俺って・・・・」




















 じっと下を見る。象徴が、存在を主張している。
 ・・・・それは明らかに新一に対して湧き上がっているものだ。











 平次は息を付く。
 少し考えそこに散らばっている衣服をカゴに入れると、自分のそれを静めるべくまた風呂場へ入っていった。



















ひとくぎり




















 バカかあいつは―――っ!! 何で素っ裸で歩き回ってるんだ!?? し、心臓一瞬止まっちまったじゃねえか畜生~~~っ!!




















 新一はソファに倒れこむ。
 ばくばくと鳴る鼓動は忙しなく、口から飛び出そうにそれは息づいている。











 褐色の肌が。
 思ったよりも遥かに滑らかな肌が、鎖骨が腹筋が・・・・・目に焼き付いて離れない。




















「・・・本当に全身があの色なんだなあいつ」




















 綺麗な身体だった。
 流石にスポーツをしているだけあって、無駄な肉は何処にも見当たらなかった。

 腰のラインから太股にかけてがまた綺麗で・・・・やっぱり足も長くて。
 身体は固まっていたのに、見るところはちゃんと見ていた自分が堪らなくイヤラシイと思った。











 同じ人間なのに。同じ男なのに。
 でもやっぱり俺とは違う身体・・・・・・




















「・・・・あれ・・・」




















 新一は自分の身体の変化を感じる。
 これは・・・・・




















「え―――・・・マジで・・・? うそだろ・・・・」




















 じっと下腹部を見る。そこには明らかに今の状況で変化した自分の・・・・・











 ちょ、ちょっと待てよ。
 普通は女の身体とかに反応するもんだよな? 女の胸とか足とか口唇とか・・・・い、今までそうだったよなあ俺・・・・



 じゃあ、何でだ? これは一体何に対して反応してるんだ??











 赤くなりながら焦る新一。
 そうしてよく考えて・・・・ひとつ疑問を持った。




















「・・・待てよ・・・俺達って男だよな・・・その俺達がセックスする場合、どっちかが女役に廻るんだよな・・・・? って・・・・どっちだ・・・・?」




















 ソファの上に転がしてあったクッションを両手に抱え、うつ伏せになる。
 そうして血の気が引いた。











 ――――・・・何故なら、どう考えても組み敷かれ挿れられる立場なのは自分だからだ。
 肩幅も体重も服部の方が上。体力的・身体的にどう考えても女役なのは自分・・・・











 でも、でもだぞ?? 別にどっちだって良いよな?? 挿れるのに、体格差なんて関係ねえよな??
 そうだよ冗談じゃねえよ・・・・・いくら好きだからっつったって、あんなトコにあんなのブチ込まれたら痛いじゃ済まねえよな・・・・・あああああ~~そうだよな、男同士のセックスってそれがあったんだよな~~!!











 真っ赤から真っ青になってしまった新一。
 確か乙女ちっくに恥らっていた筈なのに、結局は生々しい問題に辿り着いてしまう所が探偵たる所以なのだろうか?




















 好きだ。俺は服部が好きだ。それは認める。

 欲情もしてる。ヤバイ気分にもなる。けど!




















 ぜ、絶対引き返せねえな・・・ヤッちまったら・・・・・どうする・・・どーすっか・・・どーしたらいいんだ・・・




















 まだキスもしてないのに、その先を心配する新一。
 それも仕方の無い事だ。だって物事はある程度の予測を踏まえて行動するものだ。特に探偵と称する彼等は。











 でも新一はまだ知らない。



 どんなに悩んで考えた所で、『その時』になれば自然と物事は進むという事を。身体は正直に反応するという事を。











 大事なのは、この鼓動が誰の為に忙しないかという事だけ・・・・




















「・・・・工藤? お前何しとんこんなトコで」
「へ?」




















 その時だった。
 平次が風呂から上がってリビングに入ってきたのだ。




















 新一は身体を起こし―――――・・・・そうして、『湯上り平次』の色っぽさに瞬間息を飲んだ。