君に届け[06]

 ・・・それは予想していたよりも熱く。


 遥かに、気持ちのいいもの――――・・・・・・
 




















 単なる触れ合いのキスしか新一は知らなかった。
 何度も吸われては離れ・・・やがて舌が絡んでくるこんなキスは。

 段々、身体の芯が疼いてくる―――――・・・・・・




















 ・・・・・・っ・・・す、げー・・・気持ちイイ・・・・・・




















 コイツが今までどんな生活を送ってきたか解らないけど・・・
 今まで、どんな経験をしてきたのか―――――・・・興味無いと言ったら嘘になるけど・・・




















 ・・・どーしよ・・・・・・俺、何か・・・今、すっごく・・・・・・




















 新一は更に腕の力を強くする。
 やっと手に入れた場所。此処は、この想いに気付いた時から焦がれて止まなかった場所。





















 ・・・・・・嬉しくて・・・たまんねえ・・・・・・






























「・・・・・・っ・・・」
「工藤・・・」




















 この時。
 このままもつれ合い、先へ進むものだと思っていた新一。











 ・・・しかし。
 次の瞬間、がばっと平次が身体を離した。




















「!?」




















 驚いた新一。
 突然舞い込んできた冷気に、目を見開く。




















「・・・ど・・・どうしたんだよ」
「ちょ、ちょおタンマ・・・」
「え・・・?」




















 自分が何かしたかと、新一は不安を表情に出す。
 でも平次は顔を背けたまま何故か震えているのだ。











 ・・・そして。





















「―――・・・っくしょい!!!」











 
 書斎中に響いたのは、平次から発せられた大きな『くしゃみ』だった・・・・・・



















ひとくぎり




















「鍛え方が違うんじゃ無かったのか?」
「・・・スマン」
「ま・・・風邪引かれても困るし。部屋に戻るか」




















 ・・・一気に思考が正常に戻ってしまった。
 あの後の気まずい雰囲気と言ったら、恥ずかしいやら情けないやらで。











 だから、結局2人は書斎を後にして部屋に戻った。





















 月の光。変わらずそれはベッドに降り注ぎ、幻想的な色合いを醸し出している。
 扉が閉じたのを確認して新一は布団に潜った。

 ・・・背中で平次の様子を伺いながら。




















「・・・・・・」




















 だが、気配は近づいて来ない。
 そのうちに敷いてあった客用布団の捲れる音がしたから、慌てて布団から顔を出した。

 すると。




















「うわ!」
「・・・やっぱ振り向いたな。」
「お、お前・・・っ・・・?」
「書斎の板の上やと痛くて寒そうやし・・・此処ならシーツでぬくいし平気やろ?」
「―――・・・っ・・・まさか、お前わざと・・・・・・」




















 確かにあそこは窓の下。
 少し風が入り込む、寒くて板張りの書斎。











 ・・・あんな所でいくら良い雰囲気になったからと言って、平次はあれ以上進める事が出来なかったのだ。




















 抱きしめて解った、思ったより細くて薄い身体。
 本当に冷え切っていたらしく――――・・・触れた口唇は氷の様に冷たかった。











 だから・・・・・・




















「・・・隣に入ってもええか?」
「い、いいけど・・・・・・その、え・・・と・・・・・・」




















 自分の為に此処へ向かわせたと知り、最高潮に新一は体温が上がってしまう。
 人からの好意というか想いを与えられた時に―――・・・どういう表情をしたらいいのか解らないのだ。

 相手が『想いの通じた』平次なら尚の事。
 特に今まで誰かと付き合った経験の無い新一は戸惑うばかりだった。




















 ・・・『いい』という許可が聞こえたと同時に平次は素早く入り込み、新一を組み敷く。
 



















 眼前に再び平次。
 薄暗闇の中で、鋭い眼差しだけが月明かりに反射していて・・・少し身体が震えた。




















「・・・そんな怖がらんといてや。ホンマいつもと全然ちゃうから、どないしたらええんか俺も困っとるんやで?」
「え・・・?」
「綺麗とは思とったけど―――・・・まさかこない可愛ええとは知らへんかったし・・・・・・」
「か・・・可愛い・・・・・・!? ・・・っ・・・ん・・・・・・」




















 言葉の途中で覆い被さりその口唇を塞ぐ。
 今まで想像するしかなかったこの感触を味わう為に・・・もっともっと自分を刻み付けるために・・・











 ・・・やがて微かな掠れた声が漏れてくる。





















「―――・・・せや。可愛ええ」
「・・・マジな顔して言うんじゃねえ」




















 激しいキスが生んだ息切れを押し込め、新一は何とか声を出す。
 それでも熱く火照る身体の興奮は抑えられず・・・それが表情に出てしまい、平次の最後の理性を断ち切った。




















「アホ―――・・・今日いきなりは止めよ思とったのに」
「・・・?」
「でも・・・俺、明日帰らなアカンし・・・・・・今度まで待って・・・工藤の気持ち変わってしもたら・・・嫌やし・・・・・・」
「・・・おい・・・?」




















 平次は本当は迷っていた。
 だから、書斎で1度躊躇したのだ。











 でもやっぱり触れたくて堪らなくて・・・そしてその先へ進みたかった。




















 もしかしたら新一は雰囲気に流されてるだけかもしれない。ああは言ってくれたけれど、本当は・・・・・・



 考え出したらキリが無くて・・・でも・・・その度に『好き』と気付かされるだけで。




















 ――――・・・やっぱ俺・・・お前が・・・・・・欲しい・・・・・・





























「・・・・・・しい」
「何・・・? 聴こえない」
「欲しいって言ったんや・・・・・・ちょお痛いかもしれんけど、我慢せえや・・・」
「・・・っ!?」




















 だから。
 平次は口唇を今度は首に這わせると・・・・・・右手を新一の中心へと滑らせて行った。



















ひとくぎり























それは確かに覚えのある感覚。
 ・・・でもそれは、こんな風に人から与えられるものでは無かった。




















 ちょ・・・っと、うわ・・・っ・・・・・・つ、冷た・・・っ・・・





























 下着と寝間着を膝まで下ろされ、纏わりつく冷気と共に平次の手が新一の中心を軽く包んだ。











 ・・・最初は冷たいだけのそれ。
 でも、微妙な刺激を与えられるうちに段々と熱を帯びてくる。




















「――――・・・っ・・・は・・・っとり・・・」
「・・・何や?」
「・・・・・・・・・・・・・・ん・・・っ・・・」




















 自分以外の人間が、そんな所を触っているという事実。
 そしてその相手が欲してやまなかった相手だからこそ、沸き上がる感情は口から言葉となり溢れ出てしまう。











 一生懸命それを押し殺そうとする新一。
 それが余計に表情に出て、平次を更に煽ってしまうのだ。
 



















「工藤・・・声、出して」
「い・・・やだ・・・」
「・・・恥ずかしいん?」




















 ほんの少し前までは確かにこいつは『友達』で。
 その男に今秘部を弄られ、感じてしまっている自分が堪らなく淫らに思えてならないのだろう。
 
 伝わる温度は溶けそうに熱く。
 その大きく骨っぽい手のひらは、確かにさっき自分の頬を包んでいたものだった。




















 ・・・・・・益々、新一は体温を上げる。




















「ったり・・・まえだろ・・・っ・・・・・・」
「なら・・・我慢出来へんようさしたる」
「!?」




















 そう耳元に囁くと、平次は寝そべっていた新一の両足の膝を立たせた。
 引っかかっていた邪魔な下着類を取り去り、驚く身体を押さえつけその間に自分を割り込ませる。

 ・・・にやりと微笑い、その口元が向かった先は――――――・・・




















「なっっ・・・・・・!! は、服部・・・?」





























 ・・・・・・既に固くなりかけた新一自身。



















ひとくぎり




















 耳に伝わるこの音は、何の音だ・・・?
 いやらしく響くこの――――・・・粘膜特有の・・・・・・纏わりつくような音は・・・




















 ・・・そして、この妙な甘ったるい声を出しているのは・・・・本当に・・・俺、なのか?






























「―――・・・ん・・・・・・・っ・・・・・・」




















 気が変になりそうだった。
 足の感覚が、麻痺していた。











 寒いはずなのに・・・・・・
 ・・・身体の芯が、もの凄く熱くてどうしたらいいのか解らない。





























 あいつの舌や指が俺のを掻き回している・・・



 ドロドロとした訳の解らないものが――――・・・肌に纏わりついている・・・・・・











 ・・・それが何故か異常なまでに気持ち良くて。
 自分で口を抑えても、漏れる言葉は部屋に淫らに響いてしまうのだ。





























 これは―――・・・自分ひとりでは決して味わえない快感だった。





























「・・・そろそろやな」
「んっ・・・・・・しゃべ、んな・・・っ・・・!」




















 小刻みに震える身体が、それを物語っている。
 舌を動かす度にシーツの上で敏感に反応する肌が楽しくて、平次はつい動きを止めた。

 すると、途端に表情の変わる新一。
 解放寸前の所で止められ、行き場の無い火照りがくすぶったまま哀願に似た目で平次を見た。











 その姿にぞくりとする。




















「―――・・・そん顔、他の誰にも見せたらアカンで」
「はっと・・・り・・・」
「・・・今、イカしたるから」
「って・・・そ、そのままじゃ・・・・・・お前の・・・っ・・・ぁ・・・・・・!」




















 口ん中に・・・・・・っ・・・




















 新一は解放を躊躇していた。それもそうだ。このままだと、自分のいわゆるアレは平次の口の中に入ってしまうのだ。











 舐められてるだけでも恥ずかしくて堪らないのに。
 その上、その結果まで・・・・・・?




















「・・・なに我慢しとるん?」
「嫌だ・・・頼むから、口離せ・・・・・・っ・・・」
「そんなん気にすんなや」
「だ、だって・・・」




















 解放をためらう新一に、平次は『しゃーないな』と言われた通りに離す。
 
 さっき想いが通じ合ったばかりで。
 今すぐこんな生々しい事に慣れろという方が無理だったと思ったのだ。特に、元々の新一の性格から言えば。




















「・・・工藤、好きや」
「え・・・」
「好きや・・・・・・」
「な、なに・・・」
「・・・好きで好きで気ぃ狂いそうや・・・・・・」





















 再び新一に覆い被さりその耳元に囁く。
 甘く、低く―――・・・言葉巧みに雰囲気で攻める。











 ・・・それは案の定、新一の性感帯を思いっきり刺激した。




















 瞼にかかる、平次の前髪。
 思ったよりも長い睫が不安げに新一を見下ろしている。











 ―――・・・バカヤロウ・・・気が狂いそうなのは、俺だよ・・・・・・




















 新一は堪えきれない焦燥を表情に出した。
 滑らかな色素の濃い肌を滑り、手は首を撫で・・・




















 ・・・そして両手でその頬を引き寄せキスをした。




















「お前の好きにしていいから・・・・・・俺、こういうの・・・どうしたらいいか、ホント解んねえんだ・・・」
「・・・工藤」
「ただ・・・やっぱまださっきみたいなのは―――・・・駄目、だと思うけど・・・・・・ごめんな」




















 申し訳なさげな新一が本当に可愛いと思った。
 上目遣いの表情が、益々平次の胸を焦がした。




















 ・・・・・・だから。










 今度はその先へ進むべく、まずはさっきの熱を呼び覚ます為に再び新一のそれへの刺激を開始した。



















ひとくぎり

























 熱は充分だと思った。体温もかなりだし、汗ともソレともとれるものが肌に貼り付いて・・・何より瞳の潤みが準備万全な事を物語っていた。
 だけど。




















「・・・・・・っ・・・い・・・痛つっ・・・」
「工藤・・・力、抜い・・・っ」
「―――・・・・・・っ・・・・・・・」




















 ・・・新一の辛そうな表情に、平次はそれ以上押し進める事が出来なかった。



















ひとくぎり




















 もう、何時なんだろ・・・・・・
 新一は自分から何かが抜けた感覚に安堵し目を開ける。




















「はっとり・・・」
「・・・すまん。急ぎすぎたわ」




















 目の前に覗き込んでいる平次。その表情は、酷く心配そうだ。
 新一は力無く微笑う。




















「―――・・・何でお前が謝るんだよ」
「せやかて」
「いいって言ったのは俺だし・・・それより、途中で止めさせちまって、ごめん」




















 ある程度予想はしてたのに。
 俺のが狭いのかこいつのがデカイのか―――・・・・・・











 ・・・取り合えず入ったはいいが、とても『気持ちイイ』なんて状態には程遠かった。




















 自分は何度も気持ち良くさせてもらったのに。
 自分が、今度は気持ち良くさせてやるはずだったのに・・・・・・




















「・・・情けねえな俺」
「工藤のせいやない、俺が無理に・・・・・・」
「だーかーら・・・」
 



















 男同士以前に、新一にはこういう経験は無く。
 平次は女相手ならある程度の知識はあったけれど、男相手なんて知るわけも無く・・・・・・











 そんなお互いが、最初から上手く事が進む方が変では無いのだろうか?
 ・・・・・・新一は微笑った。




















「何がおかしいねん」
「・・・俺も焦ってた」
「へ・・・」
「だって、今度いつ逢えるか解かんねえし―――・・・そん時まで俺を好きでいてくれる保証も無いし。だから、早くお前が欲しかった・・・・・・」




















 枕に頬を寄せ、新一は呟く。
 未だズキズキと痛む下半身に少し表情を曇らせながら。




















「俺は工藤の事ずっと好きやで?」
「知ってる筈だ。気持ちが、どんなに不確かで変わりやすいか」
「・・・工藤」
「今この瞬間の気持ちだけが本物なんだ。俺も・・・お前も」




















 男同士だからとか。
 そんな事、本当は関係ない。

 ・・・『気持ち』はカタチのない硝子細工と同じだ。
 とても壊れやすく、明日も同じカタチを保ってるかなんて誰にも解らない・・・・・・











 『名探偵』が聞いて呆れるよな。
 そんな表情をする新一に、平次も微笑い返した。




















「―――・・・も、寝よ。工藤」




















 今までで一番近くに居るのに。やっと、お互いの想いが通じたのに。
 ・・・通じたからこそ生まれる感情に2人は気付いたのだ。




















「ん・・・」
「明日は最終で帰るつもりやから―――・・・それまで、ずっと一緒に居ようや。話したい事、聞きたい事・・・・・・ぎょーさんあんねんで?」
「・・・俺も」




















 そう呟き新一は目を閉じた。
 布団に深く潜り、顔を少しだけ出して。

 色々な事が有り過ぎて。夜が長すぎて苦しくて、でも。
 ・・・今は、こうして隣に。





















「おやすみ、工藤」











 返事は既に吐息。
 今日は上手く行かなかったけど。でも、想いはちゃんと届いて手に入れた。だから、今度は・・・




















 ・・・・・・そんな事を考えながら、平次は暫く新一の寝顔を眺めていた。