君に届け[07]

 そうして朝。



 ・・・目が覚めて新一は、窓際で眠ってしまっていた為に身動きが取れないでいた。




















 ―――・・・ど・・・どーしよう・・・・・・




















 さんさんと降り注いでいる朝の光。
 カーテンの隙間から漏れてくるそれは、容赦無く。











 ・・・その明るさが長かった昨日の夜の出来事を思い出させるから堪らない。

 




















 こ、こーゆー時は普通どーするもんなんだ??



 お・・・起きるまで待つもんなのか・・・? それとも、先に服とか着ちゃっていいのか・・・?




















 ま、まてよ・・・下着とか・・・ど、何処に吹っ飛ばしちまったんだ・・・・・あああ~ 何かすげえリアルだ・・・・・・





















 新一のベッドは窓側にくっついてる配置だ。だから、起きるには横で寝ている平次を乗り越えて行かなければならない。
 その上、昨夜のあの事で少し傷がついたのだろうか? 身体を動かそうとすると下腹部の痛みが響く。











 ・・・それに。



 素っ裸のまま動いて途中で平次が起きたらと思うと、どうにも恥ずかしくて出来ないのだ。





















 夜は、ある程度闇が隠してくれていた。
 でも今は――――・・・シーツに落ちている髪の毛の1本でさえはっきり見える。

 ・・・だから新一は寝返りをうつことも出来ず、目覚めてからずっと忙しない心臓の音を聞いていた。




















「――――・・・ん―――・・・」
「!」











 そうこう考えてるうちに、後ろから聴こえた声に身体を跳ねらせる。
 どうやら平次が起きてしまったらしく、新一は何故か緊張して身体を固くした。




















「・・・くどう?」
「っ・・・」
「――――・・・まだ寝とんのか」




















 もぞもぞと。
 背中越しに、平次の体温が伝わってくる。











 ・・・肩甲骨に見た目よりも柔らかい髪の毛が触れた。




















 ――――・・・う・・・うわ・・・っ・・・




















 ぎゅっと目を瞑り布団に顔を埋める。
 ますます高くなる心臓の音。
 
 ・・・駄目だ、このままじゃ聞かれる、気付かれる、こいつにばれる・・・・・・っ・・・
 そうして全身が心臓になったような錯覚に陥った時だった。




















「ひえっ」




















 ・・・冷たい手のひらが、背中から腰を廻り新一の胸に触れたのだ。
 声を出してしまって『しまった』と思ったが、遅かった。




















「やっぱ起きとるやん・・・」
「て・・・てめえっ・・・」




















 その上、つい振り向いてしまった。
 ・・・そこには。











 見ているこっちが恥ずかしくなるくらい・・・・嬉しそうに微笑っている平次がいた。



















ひとくぎり




















 朝日の中のこいつの肌は。
 なんて言うのか、本当に綺麗で・・・・・・











 ・・・寝乱れてくしゃくしゃの前髪とか。
 まだぼけてる目とか。




















 そのどれもこれもが―――・・・本当に・・・・・・




















「ど・・・どないしたん?」




















 振り向いたと思ったら、目を見開いたまま動かない新一。
 次に手が伸びてきてそっと頬に触れてきたから、今度は平次が焦った。











 ・・・何かを求めるように目が細められる。




















「―――・・・バーカ・・・朝からへらへらしてんじゃねえ」
「しゃーないやん。目ぇ覚めて隣に工藤居るなんて・・・まだ夢見とるみたいや」
「夢・・・・・・? お前、俺の夢見てたのかよ」
「・・・そーや」
「だ・・・だから、朝からそんな・・・元気なのか・・・・・・?」
「へ?」




















 新一の声が何だか小さくなっていた。
 見ると顔だけじゃなく、なんだか身体中が真っ赤で熱い・・・?




















 ・・・そして平次は、その時の男特有の自分の状態を知った。
 



















 どくんと。
 下半身が、自覚した事でますます存在を主張する・・・




















「ちょ・・・っ・・・はっとり・・・・・・!」
「キスだけや・・・無理なこと、せえへんから・・・」
「・・・んっ」




















 そう、キスだけ。
 










 昨日の今日で再チャレンジする事を平次はしない。
 まだ痛みは取れていないのだ。だって、さっき腰に触った時・・・・・・凄く辛そうな顔をしたから。











 だから。




























 ・・・だから、長い長いキスをして――――・・・・・・2人は一夜明けた今日も、お互いがお互いを『好き』でいる事を確認したのだった。





























ひとくぎり

























「今夜も冷えそうやな・・・」
「・・・そうだな」




















 そうして、日が暮れ闇が再び支配する時間。
 2人は米花駅までの徒歩約20分の道のりを、ゆっくりと歩いていた。











 楽しい時ほど早く過ぎるとは良く言ったもので。
 本当に、あっという間に平次が帰る時間になってしまった。




















「2月の連休にまた来てもええ?」
「来なくていい」
「へ・・・?」
「俺が・・・行くから」
 



















 車も通らず。人通りも、無く。
 自分達の歩く靴音だけが、響くその道で。











 ・・・新一は、目線を逸らしてそう呟いた。




















「ほ・・・ホンマ?」
「ああ。大阪府警、今度案内してくれるって言ってただろ? 宜しくな」 
「それだけか?」
「・・・何がだよ」




















 平次は新一の目の前に立った。
 2人の足は、止まる。
 










 ・・・風が、冷たく髪を揺らした。




















「―――・・・俺、まだバリバリ工藤アイラヴユーやで?」
「な・・・っ」
「根拠も無い自信かもしれんけど・・・多分、一生・・・・・・こん気持ちは変わらへん」
「だ、だからって・・・声、でかいって・・・・・・」




















 新一の視線が彷徨う。











 人通りが無いとは言え、ここは往来で誰が見てるか解らない場所。
 でも、新一が戸惑っている本当の理由はそんな事じゃない事くらい平次は解っている。




















 ・・・解っているからこそ、その口唇を塞いだ。




















「・・・・・・っ・・・」
「もう行かな・・・間に合えへん」
「―――・・・さっさと行っちまえ・・・此処で、サヨナラだ」
「・・・ほな、またな」




















 すぐに離された温度。
 それはとても熱く、堪えていた新一の想いを溢れさす。











 ・・・やっぱり顔を上げない新一。
 目を細め、平次はそのまま駅へと歩いて行った。




















ひとくぎり




















 ・・・今日はずっと一緒にいた。
 ご飯もあるものを作って食べて、ビデオを見たり小説の話をしたり。











 書斎での思い出や、あの学園祭での事も・・・・・・





















 ・・・目が合う度に触れていた口唇。
 本当に思い出すと恥ずかしくなるくらい、甘い時間を過ごした。





















「・・・・・・行っちまった」




















 やがて気配が消えたのを感じた新一。
 顔を上げ闇に目を細めると―――・・・駅に背を向け、来た道を戻っていった。




















ひとくぎり




















 改札を抜け、平次は丁度来ていた電車に飛び乗る。
 空いてる席に座ると深く息を付いた。











 ・・・隠し切れない想いを隠すため、カバンから帽子を取り出して被る。




















 ――――・・・アカン・・・・・・ほんまにもう止まらん・・・・・・





























 昨日より、今日。
 今日の朝より、今この瞬間。











 ・・・どうしたら、好きという気持ちの大きさを表すことが出来るんだろう?




















 まるで初めて恋を知ったかのような戸惑いとときめき。
 ・・・平次は未だ治まらない動悸を感じて目を閉じた。

 その時、ポケットの携帯が揺れる。




















「―――・・・ん?」




















 それはメール。送信者は新一。件名は、『実は』。
 ・・・そっとボタンを押す。











 そこには。





















 俺も今日見てた。
 ・・・お前の、夢。


 じゃあ、風邪ひくなよ。





















 滅多に来ない新一からのメール。
 ・・・でもきっとこれから増えるのだろう。











 そしてこの箇条書きの文面。



















 ―――――・・・凄く新一らしくて、平次は微笑ってしまった。




















 やがて送信者に返って来るメール。
 帰り道に寄ったコンビニでそれを見た新一は・・・・・・






























「・・・ったく」




















 また、表情に出さず体温を上げるのだった。




















ひとくぎり






























 やっと進展した2人の関係。






 届いた、君への想い。
 




























 それは・・・


























 これから始まる、君への物語。


















Fin