LOOK@ME[02]

「・・・周り中連れだってんなあ。1人で居んの俺くらいじゃん」
 



















 スターバックスは満員御礼だった。
 待ってる人間の数も二桁くらいだったから、新一は他を探した。




 別に珈琲が飲めれば何処だって良い。
 味も美味いに越した事は無いが、拘っている訳でもない。




 ただ、並んでまで『其処で食べたい』という執着がないのだ。
 だから少し先に歩いた所の、喫茶店に入った。











 しかし流石休日。
 あっちもこっちもグループばかりで、自分の様に1人で珈琲飲んでる人間なんて見当たらなかった。




















 ・・・隣はカップルかな。仲良さそうだな―――――・・・




















 もう冷めたカップ。
 時間は、3時を過ぎ。











 窓際のこの席は、暖かい日差しが気持ち良い。











 ・・・耳に入ってくる隣のテーブルの彼女の声。
 何処となく蘭に似ていたから・・・新一は目を細めた。




















 ――――・・・蘭・・・




















 それは、幼馴染の彼女の名前。小さい頃から一緒に居た、かけがえの無い存在。
 好きで好きで、守りたい存在・・・

 けれども数年前。
 新一がある事件に巻き込まれ、蘭の前から姿を消した時から何かが狂ってしまった。











 ・・・何があっても守りたかった。だからそばに居ながら本当の事が話せなかった。
 けれども。


 離れていた時間や距離は、やっぱり少なからず2人の心に変化を生み出してしまった。




















 好きだ。
 確かに、相手のことが大切だと思ってる。











 でも。



 ・・・それと同じくらい、こうしてカラクリを紐解いていく事が好きでたまらない。




















「――――・・・」




















 解ってる。

 蘭は、事件に走っていく俺がまた居なくなるんじゃないかと不安なのだ。
 それくらい新一は解ってる。




















 ・・・昨日それでまたケンカをしてしまった。
 










 そう。
 本当は今日は――――・・・蘭と横浜へ出かける予定だったから。





















「・・・服部の奴、ちゃんと友達と会えたのかな」




















 手元の携帯を眺めながら新一は呟く。
 そうして画面を戻し、電話帳をスクロールしようとして―――・・・その名前のひとつ上にある名前でそれを止めた。




















「そういや、こいつって今何処に居るんだっけ」




















 暫く忙しくて逢ってなかった、もう1人の探偵。
 英国と日本を行き来し国際的に活躍している今、たまに戻ってきても連絡は入れど逢える事は滅多に無く。











 ・・・けれども本音を言い合える、数少ない友人のひとり。




















「―――・・・そろそろ行くか」




















 新一はその名前にメールを送ろうとしてやめる。
 そして、それと同時だった。
 










 ・・・その携帯が震えたのは。




















「え!?」




















 つい大きな声を出してしまって、隣のカップルが一瞬振り向いた。
 だから新一は帽子を深くし背を向け、その表示された名前をもう一度見て確かめて・・・・・・小さな声でそれに出た。



















ひとくぎり























「何お前、いつ戻って来たんだよ」
「実は成田から直行です」
「うっわー。そりゃご苦労さん」
「・・・・元気そうで。と言いたい所ですが――――――・・・・疲れてますね。ちゃんと寝てるんですか?」




















 栗色の少しクセのかかった髪。
 新一よりも白い肌をした『お前』と呼ばれた人物は、目の前の顔を覗きこんだ。




 少ししゃがむ格好になる仕草。
 僅かに、眉を寄せる。




















「・・・・・・」
「何ですか。そんな恐い顔して」
「別に」
「ああそう言えば、僕また背が伸びたんですよ。ええと今は・・・185くらいだったかな。いやあ、ハタチ過ぎても伸びるもんなんですねえ」
「うるせえ! その覗き込む体勢が嫌味だっつーんだお前は!!」




















 こっちは怒鳴ってるのに何だか嬉しそうなその人物。
 名を白馬探と言い、新一とは『東の双璧』と謳われている同い年の探偵だ。

 ただ、あまり日本に居ない彼は新一と現場を同じくする事は殆ど無く。
 それというのも殺人事件など謎解きの分野ではなく、泥棒などを対象とした『犯行予測』を主としていたからだった。




















「工藤くん。食事は済んだんですか?」
「・・・ああ。さっき食った」
「食後の珈琲をご馳走しますから、少し付き合ってくれませんか。僕はこれからなので」
「しょーがねえなあ・・・・・・けど、どっか静かな所がいいな。新宿詳しい? 俺、やっぱこーゆー騒がしいトコ落ち着かねえ」




















 此処は新宿駅。
 ひっきりなしに人が行き来する、忙しない場所。来る事は良くあれど、長居をした事は無い街だ。




















「じゃあ僕の家に行きましょう。ただ、Franc francで買い物したいんですけど」
「あ。それなら俺も行くから丁度いい」




















 そう言えば行こうと思ってたのを新一は思い出す。

 突然の白馬の登場に、すっかり忘れていた。
 










 空は、青。
 遠くに残像の残る飛行機雲を目で追いながら、2人は少しの坂道を登って行った。



















ひとくぎり




















 ・・・まだ2人は出逢わない。



















 この時はまだ『友人』だった。


 ほんの少しの秘密を共有していた『仲間』でしかなかった。




















「そうそう。話ましたっけ? 僕、高校時代の友人に、君と似た人を知ってるんです」
「似た人・・・?」
「ええ。背格好もそうですが雰囲気というか・・・人の持つ『気』が似てるんですよ」
「・・・・・・へえ。興味あるな」
「きっと気が合うと思いますよ。そうだ、ちょっと今連絡してみましょうか―――・・・・・都合良ければ、紹介出来ますし」




















 歩きながら探は携帯を取り出した。そして数箇所のボタンを押し・・・




















「―――・・・相変わらず騒々しい出方ですね黒羽君。ええ、今日着いたんです」




















 その形の良い薄い口唇から『クロバ』という名を聞いた新一は、ぼんやりと聞いた事のある名前だなと思った。



 会った事も無いのにどうしてだろうか―――・・・?





























 ・・・・・・そしてもうすぐ2人は出逢う。



















 それは『出会い』では無く、『出逢い』になる。
 




























 これから2人は・・・自分でも知らない『自分』を知ることになる。





















ひとくぎり























「誰なん?」
「高校ん時の同級生。平次は知ってんじゃねえ? ハクバっつーんだけど」
「・・・ハクバ?」
「うん。親父は警視総監つってたから」
「え!? じゃああのキザでイヤミったらしい白馬探? お前、あいつと知り合いだったんか!?」




















 東京駅の地下街。
 中で食事するような所は何処も混んでいたので、2人は1度改札を出て地下の食堂街に入った。











 『コムサコムサコムサ』
 そんな名のついたカフェが快斗のお気に入りだったらしく、10分程待って通路側の席に座り、ケーキセットを頼む。











 男2人にはちょっと小さすぎるテーブルだったので、通路に足を組み投げ出した状態に成らざるを得ない。
 しかし元々見栄えの良い彼らは、その姿がまるで雑誌の表紙の様だったから行き交う人々の視線を思いっきり浴びていて、かなりの集客を呼んでいた。











 ・・・多分、その時奥の席も空いていたのに此処に案内されたのには、店員がこういう効果を狙っていたのに他ならない。



 そして丁度ケーキが運ばれてきた時に、電話が鳴ったのだ。




















「『キザでイヤミったらしい』か。当たってやがんな~」
「これから逢いに行くとか言うとったけど・・・ええんか? お前、今日はこれから・・・」
「滅多に帰って来れねー奴だしな。それに誰かと一緒らしくてさ。なんか会わせたいみたいなんだよね」
「・・・ほー」
「名前は言ってくんなかったけど――――・・・俺に似てるんだってさ」
「へ?」




















 珈琲の香りが揺れた。
 平次は、その湯気の中にある1人の人物を思い浮かべる。




















 ―――・・・快斗に似とる奴・・・? まさかなあ・・・・・・




















 喧騒の中。一瞬平次の頭から一切の音が消えた。
 ふと目の前の快斗と目が合う。











 ・・・さらりと流れる前髪。覗く、碧色の瞳。



 平次と視線が合ったと解った時に、緩む口元――――・・・そのイヤミな程魅力的な微笑は、本当にあいつに似ている・・・・・・




















「やだなあ。そんな熱い目で見られても、そりゃあ平次は好きだけど、その気持ちには答えらんないぜ?」
「アホ。んな視線投げとらんわ」
「・・・・・・じゃあ誰の事考えて俺を見てたのさ?」




















 顎に手を当て、斜めの視線で微笑う。
 そんな表情も本当に・・・




















「いや――――・・・もしかしたら、そいつ俺の知っとる奴かも」
「へえ。誰?」
「ハズレとったらアホやし。今は言わへん」
「ふーん。じゃ、そろそろ行く? ギャラリー増えてきちまって、うざってーや」




















 残っていたミルクティーを飲み干すと、快斗は席を立った。
 空きの席を待っている女達の視線や目の前を通り過ぎる人間達の視線が、いい加減煩くなってきたのだ。

 相変わらずやなあと平次は微笑う。
 そして後に続き、明らかにこっちを見ていた入り口で待っている女の子達と目が合うと、ニッコリと微笑いかけた。











 清算を終えた快斗がその様を見ていて、歩き出した時に息をつく。




















「・・・天性のタラシだね」
「オンナの視線はオトコの活力源やんか」
「そうか? あんまジロジロ見られんのも腹立つけど・・・・・・だから彼女つくんねえの?」
「だからって何やねん。惚れる相手が見つかったら、何が何でも手に入れるで」
「お前、結構理想高いもんなあ――――・・・どんな女に惚れるのか想像も付かねえよ」
「それ言うならお前の相手も想像つかへんな」




















 お互いに微笑い合う。
 そうして人込みの中を進んでいくと、新宿に向かう為に再び駅構内へと入っていった。



















ひとくぎり




















「ええ、紀伊国屋に居ますよ。1階の入った所に居ますから」




















 新宿の紀伊国屋書店。
 探と新一は、此処でその彼を待っていた。

 掛かってきた電話に今の場所を告げると、探は新一の所へ来る。




















「もう着いたって?」
「今駅を出たそうです。あと、5分くらいですかね」
「あ、そ」




















 新一と待ち合わせをする時、1番良いのは本屋を待ち合わせにする事だ。
 此処なら多少遅れても、彼の機嫌を損ねる事はまず無い。




















「・・・それと。もうひとり一緒に来るみたいです」
「誰?」
「黒羽くんの友達だそうです。今日、大阪から出てきたらしいんですが」
「大阪・・・?」




















 探の言葉に新一の視線が泳いだ。
 『大阪』と聞いて浮かぶ名前は、さっき間違いメールが届いた相手だ。




















 ―――・・・服部?




















 新一はどうしてか緊張した。
 元の姿に戻ってから逢う事も少なくなり、前にあったのは去年の秋頃だった筈の関西の探偵。











 何となく―――・・・来るのはあいつだ。そう確信している自分に少し驚いた。