LOOK@ME[03]

「あれ? 工藤?」
「・・・よう」

 予想通りだった。目の前に現れたのは服部平次だったのだ。

 新一は軽く視線を向けたが、その後すぐ手元の雑誌に戻す。

「やっぱり君だったんですか。服部君」
「おう。まさかお前がこいつの知り合いやったとは知らんかったで」
「それはこっちの台詞です」

 後ろで久方ぶりの会話を楽しむ彼等。
 でも、新一は何となくその中に入って行けない。

「おう白馬。お前いつまで日本いんの?」
「暫く居ますよ。向こうはひと段落着きましたので」
「じゃ、めいっぱい遊ぼうな~・・・と、誰? 俺に逢わせたいのって」
「ああそうでした。工藤君、彼が・・・」
「工藤?」

 探が後ろを向き、新一に視線をやる。
 すると快斗はこっちに背中を向けて雑誌を読んでいる人物だと気付いて、その視界に回り込んだ。

 ・・・ふわりと明るい髪が、突然目の前に現れる。
 驚いたのは新一だ。

「!?」
「うわ。ホントに『工藤新一』じゃん!」
「・・・な、何」
「当たり前です。なに呼び捨てにしてるんです? 失礼ですよ、黒羽君」
「あ、わりぃわりぃ。俺に似てるっつーからまさかと思ったけど・・・『工藤君』の方がずっと綺麗じゃん。テレビで見るよりカッコイイ」
「そ・・・そりゃどうも」
「けど何で眼鏡? 顔隠すなんて勿体無いな~。度、入ってんの?」
 

 次々と話し掛けられ、新一は少したじろいだ。

 メディアに出ていて多少顔の知れてる自分。
 だから初対面の相手からこんな風に話し掛けられる事が少なくない新一は、でもやっぱり気分の良いものでは無かったから、いつもこうして帽子を被り眼鏡をかけているのだ。

 ・・・まあ眼鏡は、コンタクトが元々合わない体質なのも有るのだが。

 そして。
 新一は目の前の人物を見て驚きを隠せなかった。

 身長や体型・・・きっと靴のサイズまでも自分と同じだなのだろう。目線が高くも低くも無いのだ。
 それに骨格までも似てるのだろうか? 髪の色や髪質が少し違うくらいで、それはまるで鏡を見ているのかと思うぐらい自分と似ていたのだ。

 でも。

 ・・・似てるけど、やはり『違う』。

 多分―――――・・・自分と彼を間違える人間は居ないだろう。
 それは・・・

「アホウ。お前と違ごて工藤は有名人やからな。こーゆう格好でもせえへんと色々面倒なんや」
「――――・・・うーん。2人一緒に居たら見分けつかないかとも思ったんですが・・・こうしてみると、全然違いますね」
「へ?」
「・・・?」
「そやな。俺もそう思とったんやけど、雰囲気ちゃうな」

 そう、雰囲気。その人間の発するオーラの色が違うのだ。
 すると快斗は『当然だろ~』という表情をした。
 

「当たり前じゃん。兄弟じゃ無いんだぜ? な。」
「工藤、すまんなこいつ昔っからこんな調子なんや。おえ快斗! お前初対面なんやぞ? 馴れ馴れしい口利く前にちゃんと自己紹介せえ!」
「あ! そーだよなあ、わり。俺、黒羽快斗ってんだ。宜しくな」
「・・・工藤新一。どうも」

 人懐っこい笑顔。それは、彼の髪の色と比例してとても眩しく新一の目に映る。
 でも、少し引っかかった。

 ・・・新一は、彼と何処かで逢った事が有る気がしたからだ。

ひとくぎり

 

 結局この日、みんなで白馬邸に泊まる事になった。

 久しぶりに帰ってきた自分の為に白馬の家では結構なご馳走が用意されてるらしく、ならば皆で食べた方が美味しいだろうと探が提案し、ついでに夜通し酒でも飲もうという話になったのである。

「本当にいいのか?」
「ええ。是非」
「久しぶりだな~ お前んち泊まんの」
「・・・俺は初めてやけど、想像通りでかい屋敷やな~」

 迎えに来た車の中。
 もうすっかり日が暮れた街並みを眺めながら、目の前に現れた白馬邸に平次はカラ笑いする。

 その時、隣に座っている新一が何か考え事をしているのに気付いた。

「どないした?」
「え?」
「何か気になる事でもあるんか?」
「・・・・・・ちょっとな」

 視線の先にあったのは快斗。
 新一は、あれからずっと感じていた『何か』が気になっていたのだった。

ひとくぎり

「部屋割りはどうしましょうか。僕の部屋同様、大体が一部屋に2人は泊まれますが」
「あ。俺、平次に話あっから一緒がいい」
「話?」
「じゃあ工藤君は僕の部屋ですね。いいですか?」
「ああ」

 とんでもなく豪華な夕食が終り、4人は満足な顔をして階段を上がっていた。
 窓から月が覗く長い廊下。その突き当たりが探の自室だ。
 

「黒羽君たちはこっちです。部屋は使えるようになってますから」
「そうそうココ! ここの窓から見える月がさあ、すげえ綺麗なんだよね。じゃあ後でそっち行くからな」

 探の部屋の、ひとつ手前の扉。

 平次の腕をひっぱり、さっさと快斗は探の示した部屋の中に消えてゆく。
 ゆっくりとその扉が閉まるのを確認すると、探は新一を自分の部屋に招き入れた。

ひとくぎり

「・・・ホントにお前の部屋って、『部屋』っつーかもう『家』だよな」
「そうですね。殆ど、ココだけで事足ります」
「暫く使ってなかったんだろ? なのに―――――・・・なんか、凄く綺麗にしてあるんだな」
「いつ僕が帰ってきてもいいように、みんな良くしてくれてます。掃除なんか毎日しなくて良いと言ってるんですけどね」
「愛されてんな。ま、お前見てれば解るけど」

 ショルダーを肩から外し、近くのソファに新一は置く。
 この家はいつも居心地良い。ばあやさんも、屋敷で働いている人達も皆良い人達ばかりで、いつも優しい空気が流れている。

 ・・・一年の殆どを日本と海外を行き来する白馬家の一人息子。

 あまり両親とも会う機会が無いという事だが、放任されていてもココまで真っ直ぐ育つのはこういう環境が物を言う。

 それに窓辺に飾られている四季の花々。
 これを見れば一目瞭然だ。

 ・・・どんなに、この部屋の主が大切にされてきているかは。

「じゃあワインでも持ってきましょうか。選んで来ますから、ゆっくりしてて下さい」
「つまみある? 俺、なんか作っとこうか」
「大丈夫ですよ。キッチンに適当に入ってます」
「そっか」
「・・・そういや半ば無理矢理連れて来たから着替え無いんですよね。クローゼットから適当に楽なの選んで着てて下さい」
「サンキュ。そうする」

 探の部屋はトイレは勿論、キッチンやシャワールーム、そしてゲストルームまで一緒になっている豪華なものだ。
 それは多分、何処をどうとっても文句のつけようの無い部屋。でも。

 ・・・ひとつだけ、残念なのは。

「ホンマでっかい家にでっかい部屋やけど、靴のまんまっちゅーんがどーもなあ」
「そーいや平次んちって典型的な日本家屋だもんな。畳に裸足が最高?」
「当たり前やん。なんか落ち着かへんわ」

 ―――・・・!?

 その時聞こえて来た声。
 新一は正面にある大きいガラス窓を開け、バルコニーに出た。
 

 すると案の定、隣のバルコニーに出ていたのは平次と快斗。

「お。工藤」
「ど~も~。白馬は?」
「・・・今、ワイン取りに行ってる」
「じゃあ俺達もそろそろそっち行くか。平次、ジャージ持ってきたろ? 着替えようぜ」

 慌しく、隣の2人は部屋へと戻って行く。
 新一はひんやりとした空気に帽子を取ると、その外気に髪の毛をさらした。

 眼鏡が僅かに曇り昼間との気温の差に驚く。
 いや。それよりも驚いたのは・・・・・・

『靴のまんまっちゅーんがどーもなあ。なんか落ち着かへんわ』

 さっきの平次の言葉。
 それはまさに、その時自分が思っていた事だったからだ。

「・・・なんだかなあ」

 小さな以心伝心に少しおかしくて新一は笑う。
 そして1度伸びをすると、再び部屋の中へ入って行き探のクローゼットに向かった。

ひとくぎり

「・・・あれ? ひとりか?」
「自分で飲みたいワイン、選ぶんだと」
「へえ。結構この家に慣れてんだな」
「俺もビックリや。あんま共通点あると思えへんのに」

 しばらくして扉をノックする音が聞こえ、新一はドアを開けた。
 けれども其処に居たのは平次ひとりだったのだ。
 

 どうやら黒羽快斗はこの家に来慣れているらしく、ちょっとワインセラー行ってくる~ と飛び出して行ったらしい。

 お互い今日初めて知った、友人の意外な交友関係。
 取りあえずどうぞ? と新一は中へ案内した。

ひとくぎり

「工藤ていつも眼鏡しとったっけ?」
「ああこれ。最近ちょっとコンタクト辛くてさ・・・仕事済んだらさっさと外してんだ」
「似合うやん。『コナン』思い出すわ」
 

 中央にある大きなソファ。
 大きなテーブルを囲んでいるそれに、2人は向かい合わせで座っている。
   

「・・・あいつと仲ええんやな。知らんかった」
「白馬? ああ―――・・・最初はちょっと苦手だったんだけど、話してみたら共通点多かったんだ。今は結構付き合いあるかな」
「俺は今でも苦手やな~」
「何でだよ? あいつ良い奴だぜ」
「解っとるがな。嫌いやなくて、苦手なだけや」
「――――・・・そーなのか」

 その時の平次の表情は何を示していたのか。
 けど新一はさして気にも留めず『あ。』と言葉を出すと身を乗り出した。

「そーいやお前、俺に届いてたぞ。間違いメール」
「ん?」
「何か約束の時間に間に合わないとかどうとか・・・大丈夫だったのか?」
「ああ!! それ、やっぱ工藤に行っとったんか」
「しっかりしろよな~」
「スマンスマン。快斗と工藤、アドレス帳やと並んどるからつい、ボタン押し間違えてしもた」
「・・・ぷっ」
「へ?」
 

 突然新一が微笑う。
 平次は自分がなにか変な事を言ったかという顔をしたから、『違う違う』と新一は言葉を出した。

「いや。偶然なんだか知らねえけど・・・お前と白馬もさ、アドレス帳だと並んでるんだよ。それ思い出した」
「・・・せやな。同じ『は』やもんな」
「クロバカイト・・・つったっけ? あいつ」

 天井に視線を移し、新一は静かな口調で呟き出す。
 平次は不思議な顔をして目の前をじっとみた。

「ああ・・・気になるん?」
「べ、別にそんなんじゃねえけど」

 バツの悪そうな表情。
 珍しい新一のそれから、まだ目が離せない。
 でも声は出した。

「快斗はえっらい工藤ん事気に入っとったで? 後で相手したってな」
「――――・・・仲、随分良いんだな」
「へ?」
「あ、いや・・・俺、あいつと何処かで会った事ある気がしてさ。あれだけの存在感、1度見たら忘れねえと思うんだけど――――・・・」

 何かぼそりと聞こえた気がしたが、その後の言葉で流されてしまう。
 

 顎に手をあて考える新一。
 しかし平次が次の言葉を出そうとしたその時、扉が開いて探と快斗が入って来た。