LOOK@ME[04]

「すみません。お待たせしました」
「極上の持ってきたぜ~」












 揃って現れる2人。
 それぞれ抱えているワインを中央のテーブルに置くと、快斗は平次の隣に座った。













「平次、これすっげー美味いって」
「なんや。もう飲んで来たんか」
「へ?」
「ニオイで解るわ。みんなで飲むんやから抜け駆けはホドホドにし」
「・・・そ、そうだな、わり」













 快斗は何故か焦ったように苦笑いする。
 そんな2人のやり取りから視線を外し、新一は立ち上がり部屋に備え付けのキッチンへと向かった。

 探がグラスの準備をしている。




















「これ持って行けばいいのか?」
「良いですよ。座ってて下さい」
「――――・・・お前・・・血、じゃねえよな。どうしたそれ」















 戸棚の前で振り向いた探。その着ている真っ白なシャツに赤い斑点が落ちているから、新一はぎょっとした。
 ぱっと見は血かと思ったが、色と匂いでワインだと悟る。
 










「目立ちますか? さっき試飲した時に零してしまって」
「いや目立つっつーか・・・脱いで来たほうがいいだろ」
「ええ。運んだらそうします」
「何言ってんだ。時間経つとシミは落ちねえんだから、ほらよこせ」
「ちょ、ちょっと工藤くん!?」













 すると新一はいきなりそのシャツのボタンを外し始めた。
 驚いたのは探だ。


 グラスを落としそうになり、間一髪でテーブルの上に置いた。











「何だ。大声出すんじゃねえよ」
「わ、解りました、自分で脱ぎますってば!」
「あ。そ。じゃ脱いで」
「も~・・・相変わらず強引な人ですね君は」
「どうせ染み抜きするのはばあやさんなんだろ? 時間が経てばそれだけ苦労すんだからよ。お前もちょっと考えろ」
「・・・はい。すみません」











 大人しく脱いだそれを新一は受け取ると、キッチンを出た。
 ぱたぱたと部屋を出て行く後姿に平次は気付き、ふと出てきた方向へ目をやると・・・・・白馬探が突然、上半身ハダカで現れたからぎょっとした。




















「な、なんじゃい!?」
「うわ! 白馬露出狂??」
「ん~。工藤君に剥がされてしまいました。ワイン、零してたのバレまして」
「へ?」
「ああ・・・B型なのに変なトコ神経質だもんな。ってゆーか、お前がさっさと着替えりゃ良かったんだろ」




















 そんな会話を交わしながら、探は奥へと入って行く。
 すぐにラフな格好で現れるとまたキッチンへ入り、途中だった酒の支度をし始めた。



















ひとくぎり




















 アルコールには強い4人。最初に持ってきていたボトルは早々と空け、時間を見てまだ24時前なのを確認すると探は追加を調達しに行こうと立ち上がった。




















「あ。俺ワインセラー見たい。一緒に行く」
「ええな~ 俺も興味ある~」











 すると他の探偵2人も腰を上げる。
 ちょっと考え込む仕草をして、探は「じゃあ2人で適当に選んで来て下さい」と言うと再びソファに座った。













「何選んできてもいいのか?」
「とりあえずは。本当に高価なものは鍵の掛かってるセラーにちゃんとしまってますんで」
「うわ。ちゃっかりしとんのー」
「んじゃ、4・5本頂いてこようぜ~」
「飲めるだけの本数にしてきて下さいね」













 涼やかな目線で釘を刺された2人は『は~い』と声だけ行儀良く返すと、やっぱり少し酔った足取りで揃って部屋を出て行った。



















ひとくぎり





















 ひんやりと涼しい。

 新一と平次の2人は、白馬邸地下のワインセラーに降りて来ていた。
 場所は知っていたが入るのは新一も初めてだ。でも、セラーの構造自体はロスの家と大体同じだった。













「うわ。大したもんやな」
「お前は甘くない方が良いんだっけ・・・だったらこの辺かな」
「任すわ。工藤のが詳しいし」











 平次はキョロキョロ見渡しながら先へ進む。
 やっぱり、これだけ物が揃うと壮観だ。











「おい服部、そこ段差あるぞ!?」
「へ? どわっ」











 新一が言った途端に平次はぐらりとバランスを崩した。
 自分が思う以上に酔いは回っているらしい。でも、倒れる事なく壁に寄りかかる。











「危ねえなあ」
「ん~ 結構足に来とるみたいやなあ」
「笑ってる場合かよ・・・」











 息を付き新一は選別の続きを始める。
 でも、くるりと背を見せ奥へと入って行こうとしたその時だった。




















「工藤―――・・・」
「!?」
「くどうの身体て・・・冷たくて気持ちええなあ・・・・・・」
「ちょっ・・・な、何してやがんだ!! 離せっつーの!!」
「―――・・・」
「おい服部!? はっと・・・り・・・?」




















 背中から感じたのは、体温。



 ・・・実は新一よりも酒に弱かった服部平次の体温だった。



















ひとくぎり





















 はがそうとしたのだが、問いかけに答えない。



 どうやら此処まで歩いて来て酔いが回ったらしく、新一にもたれ掛かったまま動かなくなってしまった。




















 ・・・耳元から聴こえる吐息。



 それで、眠ってしまったのだと悟る。




















「ふ、ふざけんなよ!? こんなデカイ身体運べねーぞ!? おい、起きやがれコノヤロウ!!」




















 意識の無い人間の身体は重い。それに、新一は今手に2本もワインを抱えていた。
 はっきり言って動ける状態ではない。











 ・・・そのうち耐えられなくなって座り込む。



 首にまとわりつく手は、そのままに。




















 ―――・・・熱い手ぇしてんなあコイツ。でもま、この温度ん中じゃ気もちイイかも・・・・・・




















 ワインセラーの温度は大体15度程度に保たれている。人間にとっては、ちょっと寒い温度だ。
 新一はワインを静かに脇に置くと、そのまま壁に寄りかかった。











 今だ、平次はくっついたまま。




















「あ。つむじ」











 肩に乗っかっている平次の頭のてっぺん。見えたそれに、新一は微笑う。
 つついてみると、少し身じろぎしたからまた微笑った。




















「おもしれ~」
「・・・ん―――・・・」
「服部? やっと起きやがったな」
「・・・・・・」
「ん?」




















 上げた顔の眠そうな目が新一を見た。
 だが、その様子はまだ寝ぼけているらしく――――・・・呆けた表情のまま数秒が過ぎ。











 ・・・次の瞬間、信じられない事が起こった。



















ひとくぎり




















「・・・・・・」




















 静かな空気。



 人肌が気持ち良い、ひんやりとした空間。




















 ・・・新一は口唇に感じる熱さに目を開けたまま暫く動けずにいた。





































ひとくぎり























 ・・・な、何だ?? 今俺に、何が起こってるんだ?




















 目の前にあるのは友人の顔。



 そして口唇に当たっているのは―――――・・・その友人の・・・・・・



















「――――・・・ぐう・・・」
「・・・っ・・・」




















 やがて平次の身体は新一にもたれ掛かる様に崩れる。
 レンガの天井。それに視線を投げたまま・・・新一はしばらく放心状態だった。











 約数分後、冷えてきたらしい身体からの『くしゃみ』。



 ・・・それで平次は再び気付き、上半身を起こした。





























「あれ・・・工藤」
「っ・・・」
「・・・俺・・・なんでこんなトコで寝とんの?」
「覚えて・・・ねえのか?」
「へ・・・何をや・・・? ・・・っつー、ちょお頭にキとんのー・・・飲み過ぎたみたいやな」











 頭を押さえながら平次は新一から離れてゆく。



 ふわっと消えた体温。

 それでやっと新一は今まで起こった流れを理解した。











 ・・・その途端に新一の右足が宙を舞う。
 不意打ちに食らったそれに、平次は地面に沈んだ。











「っだー!!? な、何すんねんや??」
「うるせえ・・・このスットコドッコイのスケベヤロウ。自分の胸に聞きやがれ」
「はあ!?」
「酔い覚ますまで戻ってくんじゃねえぞ・・・いいな?」
「ちょ、ちょお工藤?」




















 新一の極寒の視線。淡々とした口調。この室温だけじゃない冷たさが平次を包む。
 そして壁際にあった2本のワインを持ち上げると、それを抱えて背を向けセラーを出て行った。



















ひとくぎり




















 ・・・信じられない。




















 新一は早足で長い廊下を突き進む。時間が経つにつれて怒りが増してくる。
 口唇に残る熱さが悔しくて・・・何度も拭いながら。




















 ――――・・・寝ぼけてたのは解る。誰かと、もしかしたら・・・間違えてたのかもしれない。けど・・・




















「記憶がねえだと・・・・・・俺にした事を、覚えてねえだと・・・? ふざけんなよ畜生・・・っ・・・!!」
 




















 階段を上がった途中。そこで新一は足を止める。
 座り込んで乱れた息を整え・・・そのまま壁に寄りかかった。
 










 ・・・今日、俺は蘭と出かけている筈だった。
 横浜で――――・・・すれ違っている心を何とかしようと思っていた。



 それなのに。




















「・・・・・・蘭ともまだしてねえんだぞ・・・なのに・・・何で・・・・・・何で服部にやられなきゃならねえんだよ・・・っ・・・」




















 大切すぎて、相手を考えすぎて。だから触れ合うのも怖くてここまで来てしまった。
 それが余計に蘭の不安を募らせていた事も解っていたのに。
 



















 ・・・その不甲斐なさがこの結果を招いたのかもしれない。






 そう思えて新一は自嘲気味に微笑い、ワインを抱いたまま・・・窓から見える月を暫く眺めていた。



















ひとくぎり




















「なあアイツら遅くねえ?」
「そうですねえ」
「・・・2人でどっかで酔い潰れてたりしてな~」
「工藤君が一緒ですから、それは無いと思いますけどね」




















 その頃。
 探の部屋でワインと彼等を待つ2人は――――・・・大きなソファであくびしながら寝そべっていた。