LOOK@ME[09]

 ・・・何でお前は俺の前に現れた?




















 どうして―――・・・・・・俺をあの時探しに来たんだ・・・




















ひとくぎり





















 新一は平次の寝顔をじっと見つめた。




















 相変わらず整った顔。


 男っぽい、焼けた肌。




















 どれもこれも、自分とは正反対――――・・・





























「・・・・・・畜生」




















 胸が張り裂けそうなこの気持は、一体どうしたら治まってくれると言うのだ。
 こんなのが、これから一生続くのか?

 拳をぎゅっと握り締め新一は苦しそうに目を細める。
 視界に入る口唇が先程の自分の行為を思い起こさせ、どうにもならない想いを募らせた。




















 ・・・駄目だ。
 本当に、本気で――――・・・コイツに惚れてるのか俺は?












 これ以上そばにいたら、駄目だ・・・・・・





















 目を背け、荷物を置いた部屋に新一は入る。

 さっきまでの強気は何処へ消えたのだろう?
 服部に自分からキスした事が、今となってはもう信じられない。











 ・・・たった数十分前の自分に、もう戻れない。





















「――――・・・はっとり・・・・・・」




















 着替えるのも忘れ、新一はベッドの上に蹲った。
 暑い筈なのに身体は震えが止まらなかった。

 その時。




















「新一~!! もう用意出来たか?」




















 ・・・快斗の呼ぶ声が聞こえた。



















ひとくぎり




















「何や・・・やっと行けるんか?」
「あ、起きたな。あと新一待ち」
「・・・そーか」




















 その声で平次が目を覚ました。
 目をこすりながら起き上がり、冷蔵庫から冷珈琲を取り出し眠気覚ましに飲む。

 ・・・するとドアが開いて新一が現れたのだが、部屋着の姿で暗い顔をしていたから快斗は驚いた。
 



















「ちょ、どーしたんだよ?」
「悪い。なんか気持悪くて―――・・・俺寝てるから、2人で行ってこいよ」
「え!?」
「・・・寝てれば大丈夫。暑さにやられると、よくこうなるんだ」
「おえ工藤、熱は?」
「な・・・ない。少し吐き気するくらいだから」




















 2人が血相を変えてくる。
 言われてみると蒼い新一の顔色に、目を見合わせた。











 ・・・そして。




















「あのねえ・・・新一が具合悪いのに、のん気にメシ食いに行ける訳ねえだろうが」
「せや。俺、コンビニ行って何か買うてくるわ。快斗、何でもええよな」
「魚類以外な」
「解っとるがな。ほんなら工藤、薬も買うてくるし、大人しく寝とれ」
「―――・・・ごめん」











 そう言うと平次は財布を片手に部屋を出て行った。
 快斗は新一の額に手をやり、確かに熱は無い事に少し安堵の息を付く。




















「・・・とにかくソファで横になってろな」
「ホントごめんな」
「いいって。俺は別に外食したかった訳じゃないし、新一と出来るだけ一緒に居たいだけだから」
「・・・快斗」




















 何故か哀しげな表情。
 でも新一は、その言葉の意味がもっと深い所にある事を知る由も無い。




















「話、しても平気?」
「ん・・・?」
「・・・・・・平次の事なんだけどさ」




















 言われた通りにソファに仰向けになった新一。
 持ってきてくれた毛布を掛け、少し大きく呼吸を繰り返していた時に快斗が聞いてくる。

 ・・・出てきた『平次』の言葉に身体が緊張した。




















「あいつが・・・どうかしたか」
「嫌いじゃないよな?」
「・・・え」
「白馬んトコから帰ってきてから平次、変なんだよ――――・・・あの夜ケンカしたってのは聞いてるけど、そんなに後引きずる様な事だったのか?」




















 新一のすぐそばで快斗は座り込んでいた。
 小さく呟くそれは、本当に平次が心配なんだなと解る。











 それが益々――――・・・新一を哀しくさせた。




















「・・・・・・嫌いじゃねえよ」
「本当か?」
「お前に嘘なんか付かない。悪いのは、俺だ」
「え・・・?」
「・・・・・・俺なんだ」
「新一・・・」




















 蛍光灯が眩しいのか、新一は視界を己の腕で隠していた。
 何となくそれ以上聞いてはいけない気がして―――・・・快斗は話題を変えた。



















ひとくぎり





















「あれ? 工藤どないした」
「後ろ」
「・・・お帰り、悪かったな」




















 平次が帰ってきた。
 その時視界に快斗しか見えなかったので聞くと、新一はすぐ後ろのキッチンで水を飲んでいたらしい。











 ・・・青い顔をして力無い微笑。
 やっぱり、具合が悪そうだ。













「新一、ホント寝た方がいいって」
「平気だ。ちょっと腹に何か入れれば」
「んな青い顔して『平気』言うなアホ! ええから部屋行って大人しく寝ろ!!」
「ほら、晩飯だってホントはあんま食いたくねーんだろ? 平次の言う通り、いいからもう寝ろよ」
「・・・・・解った」















 2人に強く心配され、新一は何も言えなくなってしまう。
 本当にそんな気分は悪くなかったのだが、これ以上気にさせてもいけないと思い、部屋に戻ることにした。



















ひとくぎり




















 小さくドアの閉まる音がする。
 快斗は、テーブルの上に置かれたビニール袋の中を覗いた。











「平次どれ食べるんだ?」
「ん~ 好きなヤツ選んでええで」
「・・・あれ。胃薬に風邪薬に・・・・・・頭痛薬?」
「適当に買うて来た」
「それにしても大丈夫かな新一・・・・・・明日、長いフライトなのに」











 明日新一は、ロスへ向かう。
 普通の状態でもあの狭い空間に半日以上の拘束はキツイのに、大丈夫だろうか。











 ・・・快斗は顔を曇らせて適当な物を取ると、キッチン備え付けのテーブルに座った。




















「工藤もコドモや無い。自分の状態くらい判断出来るやろ。駄目やったら乗らんやろし」
「――――・・・俺、思うんだけどさ」
「何や」











 言いながら平次もキッチンに来る。
 冷蔵庫からさっき買って置いたペットボトルを出し、コップに注いだ。











 ・・・・・・快斗は静かな声を出す。











「原因は、平次だぜ」
「・・・へ?」
「お前らの間に何があったかは知らねえし、無理に聞こうとも思わねえけど・・・・新一、精神的なダメージが酷い。俺じゃどうにも出来ない」
「せやからて、何で俺やねん」
「俺も同じ状態になった事がある。だから、多分、『俺』じゃ駄目だ」
「・・・どういう意味や」











 平次には快斗の言ってる事が解らなかった。
 温められているプラスチック容器のふたを開け、パスタをくるくると巻いてる手元をじっと見る。

 視線を感じ、彼は微笑った。




















「――――・・・手に届く位置にいる『幸せ』って言うのはさ、離れてみないと気が付かないんだよね」
「・・・・・・?」
「なあ平次。俺ら、明日も『生きてる』保障なんて何処にも無いんだぜ? 後悔なんて、行動起こしてからだって出来るんだ。何もしないでグダグダ考えて・・・・・・取り返し付かなくなっても知らねえからな」
「お前・・・・・・」




















 快斗は何処まで知っているのか。
 それとも、過去に彼に何かあったのか。











 ・・・兎にも角にも真っ直ぐに平次を睨んで紡ぐその言葉には、いつもの人懐っこさは何処にも感じられなかった。



















ひとくぎり




















 部屋に戻ってから平次は再び考えた。
 新一に言われた言葉の意味を。そして、行動の真意を。

 都合良くとってしまうのは簡単だ。
 でも、今までの経験と違いこれは相手が『同性』だ。











 ・・・新一相手では、勝手が違うのだ。





















 今まで『友達』として『仲間』として付き合ってきて、それが突然『恋愛感情』に発展しただなんて――――――・・・どう考えても、おかしな道筋で。
 決して自分はそういう趣味の持ち主では無いと思ってきたし、今でもそう思っているのに。




















 しかしこれは『恋』だ。

 間違い無く彼に対して・・・・・・そういう意味での『好意』を持っている。




















「・・・・・・いまそばに居る事の幸せ、か」




















 快斗の言葉を思い出す。
 彼は新一の体調不良の原因が、自分にあると言った。











 それが本当だったら――――――・・・




















「ん?」











 その時遠くで音がした。それは、ドアの閉まる音。
 不思議に思って平次が部屋を出る。

 すると、快斗の居る筈の部屋の扉が開いたままだった。
 でも中に彼は居ない。











 ・・・玄関の方から流れてくる温い風。
 足りない、靴。











 だから平次は、彼が外へ出て行ったのだと悟った。



















ひとくぎり























「・・・・・・快斗?」











 こんな夜中に、自分たちに何も言わず何処へ行ったのだろう。
 消えた先を見つめながら呟く。

 刻は23時過ぎ。
 平次は深く息を付くと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
 




















 ・・・明かり?











 ふと、微かな光を感じる。
 その先が新一の寝ている部屋だと解り、動きを止めた。











 起きて、居るのだろうか?
 それともただ、常夜灯を付けて眠っているだけなのだろうか・・・?




















 ・・・明日になれば暫く逢えない。
 自分は大阪へ帰るし、新一も海外へと行ってしまう。











 ならば―――・・・
 












 平次は水をゴクリと飲み込む。
 そうしてそのままグラスとボトルを持ち、光の方向へと向かった。



















ひとくぎり




















 ・・・眠れない。











 新一はベッドの中で何度も寝返りを打ちながら、息を付く。

 横になってから30分。
 普通ならすぐ眠りにつける筈なのに、今日は一向に眠くなる気配が見えない。





















「畜生・・・・・・情けねえなホント・・・」




















 まだ少し胸がムカムカする。でも、こうして寝ていれば大丈夫な筈。
 一晩寝れば、大抵は。

 だから眠りたいのに。早く、明日になって欲しいのに、寝付けない。
 でもそう思えば思うほどに目は冴えてしまう様だった。




















 ―――・・・水、飲んで来ようかな。




















 喉が渇いた。確か、ミネラルウォーターも買ってきてあった筈。
 だから新一は枕元の常夜灯を付け、ゆっくりとベッドを降りた。










「・・・工藤!?」
「服部―――・・・何してんだ」




















 平次が今まさにノブに手を掛けようとした時だった。
 そのドアは奥に引かれ、中から新一が現れたのだ。




















「そらこっちの台詞や。まだ起きとるん?」
「眠れなくてさ・・・・・・喉も渇いたし、水でも飲もうと思って」
「水?」











 すると平次は手のボトルを見せた。











「なら丁度ええ。今、様子見に行こ思てたんや。これ水」
「・・・あ」
「グラスもあるし、そっち行ってもええ?」
「い、いいけど」




















 強引な平次に少し戸惑う。
 けれどもさっさと部屋に行ってしまったので、軽く深呼吸して新一も元の部屋へ戻った。



















ひとくぎり




















「気分・・・どや?」
「ああ、飲んだらスッキリした」
「そら良かった」











 水を飲ませた後、平次はさっさと新一を寝かせた。
 そうして意味ありげに微笑う。




















「・・・何だよ」
「工藤て似合うな。病弱そうなツラ」
「バカにしてんのか――――――・・・もういいから、お前は戻れ」




















 新一は背中を向け、目を閉じる。





















 ・・・どうしてこんな展開になってしまったんだろう。
 それに、何でか快斗の気配がしない。




















 こういう時、あいつが居てくれれば間も持つと言うのに。
 そんな事を脳細胞を総動員して考える。




















「なあ」
「今度は何だよ・・・」
「・・・お前、俺にどないして欲しいんや」
「え・・・?」




















 突然の問いかけだった。
 その言葉に、新一は固まる。
 



















「快斗に言われたんや―――・・・お前の不調原因、俺やて。それホンマか・・・?」
「・・・関係ねえよ」
「なら説明してくれや・・・あん時、『俺と同じ思いしてもらおうかな』て言うた意味。そんで・・・そん後の、キスの意味」
「!?」
「なあ・・・・・・『お前の思い』て、どんな思いや・・・?」




















 ・・・新一は何も答えられなかった。

 言ってしまえば、それは告白になる。
 でも言ってどうする?











 真面目に言ったって―――・・・叶う想いじゃない。
 だから。




















「馬鹿じゃねえの? 意味なんかねえよ」
「え・・・?」
「具合悪いのは暑さのせいだ。それにあれは、男にキスされるのがどんな気分か―――・・・お前に解らせてやりたかっただけだ。気色悪かっただろ? お前は白馬の家で、あれを俺にしたんだ・・・記憶にねえみたいだけど」
「・・・工藤」
「気が済んだら出てけ・・・・・・眠くなってきたから、俺は寝る」





















 ・・・・・・そう精一杯、悪態を付いた。