White Lights 第10話

「ちょっとまて新一・・・」
「よおメールもらてるて何や? お前、何がどーして一久と?」
「驚いたな・・・工藤君から連絡したんですか」
「へ?」





 平次は本当に訳がわからないと言った表情をする。
 
 それもそうだ。
 あの冬の日に、一久たちと会った事を、あの時いなかった平次は知らない。

 

 ・・・・しかし一緒にいた快斗や探も、この事は初耳だったから驚いた。






「え? 快斗はしてないのか」
「するかよ。てか、フツーする?」
「挨拶のメールしただけだ。けど、それから結構気があっちゃってさ。野球の事とか・・・俺よく知らねえから、教えてもらったりしてる」
「はあ?」
「――――・・・これは、一久の作戦勝ちの様だな」





 感心したように探が微笑う。





 知っていた。
 一久が、この2人に興味を持っているのを。


 でも彼は決して自分に『紹介して欲しい』とは言ってこなかった。



 一久はいつも言っていた。
 その時が来たら、人と人は逢うものだと。



 ・・・人から与えられた機会ではなく、自分から機会を引き寄せるのだと。




 しかし・・・・







 探はちらりと快斗を見る。
 どんなメールをやりとりしているのかと、新一の携帯を覗き込んでいた。





「うわ。ホントにしてんだ」
「工藤、野球の事やったら何で俺に聞かんのや?」
「それは・・・」
「ん? なんだよ白馬」
「いや。髪の毛に花びらが付いてる―――――・・・工藤君も服部も。本当に風が強いね」







 言ってるそばから再び突風。
 うわ、と声を出しながら4人は公園を出た。








ひとくぎり







 白馬邸。
 相変わらず豪華な家だと感心しながら、新一たちは廊下を歩いていた。

 大理石の足元。

 コツコツという足音が、響く。





「しっかし慣れへんな。家ん中でクツ履くんは」
「家じゃなくて、ホテルだと思えば違和感ねえぞ」
「あ。なーる」





 平次の呟きに新一は微笑う。
 快斗も、そんな事を言っていたのを思い出したからだ。



 自分はというとロスの家で慣れてしまっている。

 しかし逆にここを個人の家と思うほうが難しいかもしれない。

 それだけ、白馬の本宅は大きなものだった。



 暫くするとロビーらしき場所へ通される。
 すると、太陽の光が降り注ぐ壁一面ガラスからは―――――・・・何本もの、桜の樹。





「こちらです。どうぞ」
「うわ」
「何や? ここ、個人の家の庭か??」
「白馬んちの桜は絶景だぜ。夜になると、ライトアップもするんだ」
「・・・良く知ってるな快斗」
「え!? いや、この前、ちょっと用があって、ここ来たことあったからさ」
「へえ・・・」





 珍しい。
 快斗が、こうもあからさまに焦るとは。





 あの冬の日から、どうやらわだかまりは無くなっているらしいが・・・・・・





 新一は思い出す。
 自分が服部に会いに行くのを、しつこいくらい快斗に引き止められた日を。


 しかし、白馬のおかげで行動は実行に移すことが出来た。





 ・・・あれから数ヶ月。

 口では変わらずとやかく言われるものの、前ほど服部の事は言ってこない。

 そればかりか、行動もべったりしてくる事もなくなった。





 解ってる。
 こうなって欲しいと、思って引き合わせたのは他ならぬ自分自身。


 白馬を、快斗のいる家へ連れて来たのは自分。

 





 でも正直――――――・・・淋しいなあ、ちくしょう。







 好きな事には変わりない。
 自分にあまりに似すぎていて、だからこそ気になってしまう存在。

 





「おーい新一! ばあやさんが桜餅くれるってさ。中庭で食べようぜ」
「・・・・」
「おえ工藤、黒羽が呼んどるで」
「え? あ、ああ今行く」





 平次に呼ばれ、新一は我に返る。
 見ると快斗はさっさと外へ出ていったようだ。



 ・・・・探が、こちらを見ていた。







「・・・何」
「どうかしましたか。何か、不都合でも?」
「いや。あまりに綺麗だから驚いてたんだ。ほんとすげえな」
「良かった。来てもらった甲斐があります」







 探は微笑った。
 新一も、共に。





 ・・・・表情に少しだけの寂しさを秘めて。







 そしてその様を見ていた平次は。
 悟ったように『そんでな工藤、一久の事やけど・・・』と話題を他に振った。







ひとくぎり








「しつこいな服部。何でそんなに気にするんだよ」
「するっちゅーねん。お前、俺ん気持ち忘れとるんや無いやろな?」
「・・・あ。そ、そうか」





 本当に天気が良い。
 ばあやさんが用意してくれた桜餅。そしてお茶。絶好の、花見日和だ。





 更に見事に咲いている一本の樹。
 その下の、椅子とテーブルが用意されている場所。


 ・・・あんなに吹いていた風が、どうしてかこの白馬邸ではない。




 周りの建物がガードしてるから、風を感じないのだと。
 さっき、そう探は言っていた。





「しかも野球? サッカー狂の工藤が何でじゃ」
「・・・だってお前。ゴールデンウイーク、ドームに連れてくって言ってたから」
「は?」
「それだったら、少しくらい勉強しとこうかなーと思ってさ」





 餅をほお張りながら、新一が桜を見つめている。
 視線は平次には向いていない。



 ・・・けれどもその言葉は、平次にヒットした。





「く・・・工藤、それて俺のためなん?」
「何でだ」
「へ?」
「うぬぼれんな。生で見るんなら、きちんとルール覚えたほうが楽しいだろ。だからだ」
「・・・あ、そ」
「ホントお前、都合良いように取っちまうんだな。こっちが照れる」

 



 すると両手で茶わんを抱えた新一が、平次を向いた。
 
 湯気で僅かに揺れた前髪。
 少し視線を外したその姿が、再び平次の心臓を跳ね上がらせる。





「せ、せやかて」
「稲尾さん親切だな。素人の俺に、丁寧に教えてくれるし・・・・・おかげで結構、詳しくなった」
「ほ、ほー・・・」
「・・・どうした」
「やっぱ解らん・・・・俺に電話せんで、何でわざわざ一久や」