White Lights 第12話

 しかし、内緒にしていてもバレる時はバレるものだ。
 新一は珈琲を飲みながら、息を付いた。





「工藤、聞いとんのか」
「・・・・聞いてるよ。黙ってたことは謝っただろうが」





 米花町。
 駅前の、スターバックス。

 いつもの場所で、二人は向かい合って座っていた。


 ・・・平次の声に新一は眉根を寄せる。







「そら、まあ・・・」
「なら良いだろ。阪神が負けて機嫌悪いのは解るけど、俺にあたるな」
「・・・」
「ほら珈琲、飲め。冷めるぞ」







 ゴールデンウイークも終盤。
 今日は、前から約束していた野球観戦の日だった。





 巨人対阪神戦。
 人気が低迷してるとは言え、さすがは連休。


 たくさんの人でドームは盛り上がっていた。
 ・・・そんな中。





『あれ・・・工藤君? 偶然やなあこんな所で』
『うわ、稲尾さん!? な、何で?』
『何でて――――・・・まあ今日は親父の付き合いなんやけどな。せやけど、この前は大阪まで来てくれて楽しかったわ』

『・・・・よお一久。珍しいトコで会うやないか』
『あれ~平次やんか。何や2人、一緒やったん?』
『ちゅうか今の話・・・・もー少し詳しく聞きたいもんやな』





 どうしてか。
 帰り際、ドームを出た所で稲尾一久と会ってしまった。

 そして。





 ・・・・ついこの前、稲尾一久と甲子園へ行ったこともバレてしまったのだ。








ひとくぎり







「・・・せやけど」
「俺は今日、楽しかった。お前は楽しくなかったのか? いいじゃねえか、俺はただ野球の事で稲尾さんに会ってただけだ・・・・その件でお前に了解とる必要ないと思うけど? 俺たち、そういう関係でもないんだし」







 スターバックスを出る。



 今日は風がぬるい。
 天気も良かったから、星も見える。



 ・・・二人はてくてくと夜道を歩いていた。











「・・・せやったな。すまん」
「本当に反省してんのか」
「しとる」
「解ってればいい。お前の努力は、認めるけど」







 ・・・・・残念ながら、今のところ俺にそういう感情は芽生えてないんだ。



 そう新一は、目の前の背中に呟く。








「あ。ちょおココで待っとって」
「ん?」
「予約しとるんや。すぐ戻るさかい」
「・・・ロンシャン?」







 工藤邸へ戻る道筋。
 その途中で、平次はある店へ入って行った。


 そこは美味しいケーキで有名な『ロンシャン』。
 甘いものが苦手な新一が、唯一食べられる洋菓子を作っている店だ。



 けれど、予約・・・?
 しばらくして平次が戻ってきた。





「何、お前こそ甘いもんダメじゃなかったか? 珍しい」
「・・・やっぱ忘れとる。工藤、今日何の日や」
「今日? 何の日って・・・・・・あ!」
「ジブンの誕生日くらい覚えとけ。アホウ」







 言いながら、平次は小さな箱を新一へ差し出した。
 ぶっきらぼうな物言いと、共に。







「あ、ありがとう」





 その時、新一は不思議な感情を覚える。
 と同時に。

 平次がしばらく見惚れるほど、鮮やかな笑顔を見せた。






ひとくぎり







「あ。快斗からだ」
「ん?」
「不在配達票が届いてる・・・それにこれ、白馬か?」
「あいつらもホンマに工藤スキやなー」





 ようやく家へ辿り着くと、ポストに宅急便の不在配達票があった。
 差出人に快斗と白馬・・・更に大量の郵便物があり、全てが新一へのお祝いだった。







「なあ服部」
「ん?」
「・・・・人を好きになるって、何なんだ」







 突然、ある一通の手紙を見て新一が顔色を変えた。

 平次もそれを覗き込む。

 差出人に、女性の名前が記してあった。




 それは『毛利蘭』。







「何やろ――――――――――・・・それ解ったら、ノーベル賞もんちゃう?」
「・・・」
「ホレ。さっさと行ってケーキ食おうや、時間も遅いんやし」
「・・・ああ」
「確かワインあったやろ。持ってくるわ」






 そう言って平次は奥へ進んだ。
 玄関で立ちつくす新一を、そのままに。



 毛利蘭。
 数年前まで、新一にとって誰よりも何よりも大切な存在だった、同い年の女の子。









「元気でいるんだな。蘭―――――・・・」









 ・・・でも今は、そばにいることが出来なくなった『幼馴染み』だった。







ひとくぎり










 守りたかったから、離れた。
 好きだから、離れた。



 ・・・俺にはどうすることも出来なかった。
 だって。








 俺は―――――・・・まだ何の力もなかったんだ。










「元気そうで良かったなあ、蘭ちゃん」
「・・・ああ」
「まあ安心しとき。おんなし大学には、和葉もおるさかい」
「そうだな・・・って、え?」





 ケーキを取り出しワインを開けたときだった。
 リビングで向かい合い、座った途端に平次が口を開いた。


 知らない事実を聞かされ、ついフォークを落としそうになる。





「あれ。知らんかったんか」
「初耳だ!」
「俺も聞かされたの最近やけど・・・・和葉もスポーツ特待生でな。空手の枠に、ねーちゃんが居って驚いた言うてたわ」
「・・・そうだったのか」
「お前らの事があって以来、アイツ、ねーちゃんとも連絡取りづらくなってしもたんや。せやから・・・見かけた時は嬉しかった言うてた。今は、前みたいに仲良うしとるみたいやし」
「そうか・・・」





 新一は微笑った。


 頻繁にに連絡を取らなくなってから、どれくらい経つだろう?
 それでもこうして誕生日にプレゼントをくれる。年賀状も、届く。





 ・・・素直に嬉しかった。







「なあ工藤」
「ん?」
「今は無理かて、時間が経てばまた蘭ちゃんと・・・」
「悪いな、心配かけて」
「・・・・」
「蘭に和葉ちゃんがいてくれる様に、俺にも―――・・・お前がいてくれて良かった。本当に、そう思うよ」







 新一は目を閉じた。



 コナンから新一に戻れはしたものの・・・・・・
 黒の組織との決着は、付いていなかった。


 だからこそ危険。



 未だにその全貌が明らかになっていない今。
 油断は、禁物だった。





「・・・どこまで残酷なんや」
「え?」
「何が『いてくれて良かった』や。誰が心配しとるって?」





 その時。
 平次が、突然吐き捨てる様な物言いをした。



 ・・・そして新一の目を見る。







「服部?」
「工藤は全然解ってへんねんな・・・・蘭ちゃんとまたヨリ戻るん、俺が願っとる思うんか」
「!」
「俺がお前に惚れとんの知っとるクセに――――――――――・・・そーいうんは、思とっても口に出して欲しないわ」





 小さく囁かれる声。
 それは、胸に突き刺さる。


 ・・・しかし新一の表情は冷静なまま。

 平次は直ぐに『しまった』という顔をした。





「スマン、八つ当たりした・・・・・工藤は何も悪ない。俺が、勝手に惚れとるだけやのに」
「・・・服部」
「アタマ冷やしてくるわ。風呂、借りるで」





 新一の視線を背中に受けたまま席を立つ。
 平次は、そのまま振り返ることが出来ず奥へと歩いて行った。








ひとくぎり









「・・・やっぱり前みたいな関係には戻れないのか」





 遠くで聞こえた扉を閉める音。

 続けて、水音。

 ・・・改めて気付いた、平次の想い。






 ・・・好きになれたらいいんだろうな。

 あいつを、好きに。







「・・・・」









 もう誕生日は終わっていた。
 とっくに12時は過ぎて、静けさだけが残っていた。


 そうして。

 




 ・・・それから、新一は平次に対して距離を置くようになった。