White Lights 第13話

「最近アイツ、見ねえけど・・・ケンカでもした?」
「・・・あいつって?」
「またまた。大阪の探偵って解ってるクセに」





 あれから季節は過ぎ、世の中は夏を迎えていた。

 冷夏と言われているが夏は夏。
 前期の講義日程を全て終え、あとは週末からの夏期休暇を待つだけだった。





「知らねえよ。忙しいんだろ」
「あれー・・・何その反応。服部に何かされたのか」
「だから違うって」
「そんな顔されて『違う』言われてもねえ」

 




 快斗は小さく息を付く。



 確か、気づいたのはゴールデンウイーク明け。

 ポーカーフェイスはいつもの事だったけど。

 ・・・最初に出会った頃の『工藤新一』を、思い出してしまうこの態度。





「なあ新一」
「なに」
「相談してよ。俺に」
「・・・」
「ああもー、そんな可愛い顔されたらキスしたくなるだろ」
「!?」
 





 その時。
 新一の視界が、フッと暗くなった。





 ・・・口唇に感触。

 すぐに、驚き顔を離す。





「お、お・・・お前、なんて所で何てことするんだ!?」
「いーじゃん。昼のスタバでいっちばん奥だし、空いてるし誰も見てねえし」
「だからってな!」
「はいはい。まあ座って珈琲飲んだら? 冷めちゃうし」





 そう。
 ここは、良く通っている駅前のスターバックス。


 休日ともなれば混み合うけれど。
 平日の午前中は、人もまばらだった。



 ・・・快斗は微笑う。






「お前、変わったな・・・」
「ん?」
「前は――――・・・アイツの話になると、その・・・」
「うん、まあ。俺も色々あってさ」







 その時の快斗の視線は。
 自分に向いていながら、違う誰かを見ていた。



 ・・・やっぱり新一は悔しくなる。





「ひとりだけ先に行っちまいやがって」
「えー何ソレ。俺が新一、置いてくわけないじゃん」
「どうだか」
「・・・あのさ新一。この際だから言っとくけど、むやみやたらにそんな顔すんなよ」
「は?」
「そうだな。あの野郎、いい加減ぶっ飛ばすか」
「快斗?」





 意味不明な言葉を残し、快斗はまた微笑う。
 そして次の日の夜。



 ・・・新一は意外な人物から電話を受けた。








ひとくぎり







『工藤君? 久しぶり』
「・・・・和葉ちゃん?」
『そ。なんかケータイ出てくれへんし、家の電話なら出るやろ思て。正解やね』





 それは遠山和葉。
 平次の幼馴染みであり――――――・・・平次を、ずっと、きっと今でも好きな女の子。



 別に彼女が嫌いな訳じゃない。
 ただ・・・蘭と関わりが深かったから。


 だから、何となく避けていた。





『蘭ちゃんにな、頼まれてん』
「え?」
『ちょお待っとって』





 そう言うと、少し声が遠くなった。
 新一が「まさか」と思うと同時に、受話器からの声が変わる。



 ・・・心の準備もないまま、それは耳に届いた。







『新一・・・?』
「・・・っ」
『ごめんね、何か・・・自分から掛けられなくて。和葉ちゃんに、頼んじゃった』
「蘭・・・」





 懐かしい声。



 甘い想いが胸を満たす。
 もう、何ヶ月も聞いていない声。


 新一は、ぎゅっと目を閉じた。





『もう、大丈夫だから』
「え・・・」
『新一が好き。きっと、一生ずっと・・・でも、だからそばにいちゃいけないんだよね』
「蘭」
『・・・新一が辛そうな顔なんて見たくない。ごめんね、あたし・・・気付くのに1年かかっちゃった』







 好きだから離れた。
 自分が新一の身体に戻れたことで、より危険は増したから。



 ・・・そばで守りたかった。
 けど。



 いつしか、そばにいることの『嬉しさ』よりも『危険』だという焦りばかりが強くなり・・・・・・


 笑うことを、忘れていった。







「・・・蘭、俺は本当に」
『あたしね、和葉ちゃんといっしょなんだ。推理してる時のキラキラしてる新一の顔や声が、本当に好きだったの――――――・・・なのに、そばにいられる様になってからはいつも不安そうだった。笑顔、見せなくなった』
「お前が・・・」
『新一には、そんな顔させない誰かが必要だと思った。あたしじゃ、ダメだけど・・・それがようやく解ったの。だから、大丈夫』





 新一の告白を遮る様に、蘭は言い切る。
 


 そばにいることだけが全てじゃない。
 『好き』な想いは、別に消えるわけじゃない。


 気持ちは重荷になってはいけない。
 彼の、不安材料になっては――――・・・いけないのだ。





「・・・そうか」
『うん。でも、休みに帰った時はいつも通り相手してよ? 和葉ちゃんとも、服部君とも・・・また一緒に遊びに行ったりしたいし』
「そうだな」
『じゃ・・・そろそろ切るね』
「―――――・・・電話、ありがとな蘭」





 受話器を置く。
 深呼吸を、する。



 ・・・新一はそのまま書斎へと入った。






ひとくぎり







 大きな窓から、月が見えている。
 哀しいぐらいに綺麗な月。





 どうしようもない自分の想いに―――――――・・・なんだか似ている気がして・・・





 ・・・新一はそのまま目を閉じた。






 目が覚めると板の上。
 あのまま書斎で眠ってしまったらしく、いつもと違う天井に驚き跳ね起きる。





「いってー・・・」



 さすがに身体が痛い。
 新一は思いっきり伸びをし、窓の外を見た。



 ・・・ものすごく良い天気。
 今日も、暑くなりそうだ。





「メシ食って―――・・・図書館にでも行くか」





 何だろう。
 身体は痛いけど、こんなにスッキリした目覚めは久しぶりだ。


 もやもやしていた感情が一区切りついたからだろうか・・・
 そう思うと、何だか笑ってしまった。







「ん?」





 新一は耳を澄ます。
 遠くで、聞き慣れた音がする・・・?





「あ。携帯か」





 2階の自室から聞こえてくる着信音に向かう。
 しかしベッドに転がっているそれを手に取ると、音は止まってしまった。







「・・・快斗」



 リダイヤルを押す。
 相手は、ワンコール終わる前に出た。





『新一? いま平気か』
「ああ。どうした」
『・・・もしかしてアイツそっち行ってる?』
「あいつ?」
『服部だよ。せっかく大阪来たのに、いねえんだ』
「・・・」





 まさかとは思ったが本当に行ったのか。
 新一は、携帯に向かって息を付く。


 するとその様子を察したのか、快斗がハハハと笑った。





『大阪にホントに用事、あったんだってば。んでそのついでにアイツに会っとこうと思って電話してみたんだけど・・・朝から出かけてるって言うし』
「朝から?」
『そう。だから東京に行ってんのかと思って』





 その可能性もあるかもしれないが・・・
 新一は、あの夜を思い出す。





「・・・もしそうだとしても俺に連絡来ねえと思うぞ」
『なあ新一。お前ら本当にどうした?』
「今度、話すから」
『・・・そうか』
「ところでお前、どのくらい大阪いるんだ」
『んー。ちょっと調べたいことあってさ』





 新一もそれ以上は聞かない。
 例の、仕事絡みなのだろう。


 それじゃあと電話を切る。






 ・・・また深く、息を付いた。







 と、その時。
 手元の携帯が鳴る。



「・・・高木さん」





 それは警視庁の高木刑事。
 何となくの予感を抱きつつ、ボタンを押した。





「はい、工藤です」
『工藤君? 高木だけど、いま大丈夫?』
「平気です。何でしょう」
『申し訳ないんだけど・・・ちょっと見てもらいたいものがあるんだ。これから、時間あるかな』
「わかりました。どこに行けばいいですか?」





 噂をすれば何とやら。

 暑くなり始めたこの時期、世間では奇妙な事件が続いている。

 未だ犯人が捕まっていないのも多く、そろそろ連絡が入るかもしれないと思っていた。





 ・・・謎解きに没頭しよう。

 余計なことは、考えず。





 新一は自分の頬をパンと叩くと、着替え始めた。