White Lights 第17話



 ・・・・あれ。

 なんか俺、変だ――――――――――・・・・・・ 





 そのとき階段の下から声が聞こえる。

 工藤有希子。
 新一の母親が、息子を呼んでいた。




「あ・・・悪い。ちょっと行ってくる」
「おー」
「飲みもんなくなってるな。他に何か持ってくるから、グラス寄こせ」
「あ、スマン」





 立ち上がり、新一はそれを受け取り部屋を出る。
 
 グラスに残る氷の音。
 耳に響くそれに、何故か少し手が震えていた。








ひとくぎり








「じゃあね新ちゃん♪」
「戸締まり、忘れるなよ」
「・・・はいはい」




 そうして階段を降りていくと、フォーマルに身を包んだ両親は既に玄関だった。
 外にタクシーを呼んであるらしく、赤い点滅が窓から漏れている。

 心配性な父親の言葉に、新一はひらひらと手を振った。



 ゆっくりと閉まる扉。
 同時に、忘れかけていた静寂が戻る。


 時計を見ると19時を回っていた。





「なんや。出かけるてパーティか何かか」
「!?」
「しっかし有希子さんわっかいなー。工藤みたいなデカイ息子いるとは、ほんま思えへんで」
「・・・有希子さん? おい、人の母親、名前で呼ぶんじゃねえ」
「せやかて頼まれてんもん。『オバサンなんて呼んだら許さないわよ?』て笑いながら言うてきて・・・あの怖さは遺伝やな。工藤、そっくしや」




 背後から声がして、新一は驚き振り返る。
 平次が階段を降りてきていた。




 カラン。



 ・・・・まただ。何なんだ。

 さっきから、こいつを見てると――――――――――・・・なんか、変だ。




 これじゃまるで・・・・・





「おえ工藤」
「え?」
「・・・大丈夫か。なんや、具合悪そうやけど」
「!?」





 言いつつ平次は、手のひらを目の前の額に当てる。
 その感触に、新一は身をすくめた。

 ・・・手元のグラスが揺れる。




「ほら。ちょお熱あるで」
「お・・・お前が体温、高いんだよ」
「・・・そおか?」
「それより飲み物だったな。何ならビールもあるけど?」




 疑問を抱えながら、新一はその手から離れた。
 そうして玄関の鍵を閉め、振り返る。

 平次が靴を履き後ろに立っていた。




「ええわ、もう行くし」
「へ?」
「今日は逢うてくれておおきに。嬉しかったわ」
「・・・服部」
「俺、諦めてへんで? こん前の事は反省しとる。せやけど―――――――――・・・やっぱり好きなんや。お前が、誰に惚れとってもな」
「!」
「また遊びにくるさかい、よろしゅう頼むわ」





 ・・・・その時、グラスがゆっくりと手元から離れる。




 氷と共に足下でガラスが割れる音。
 そして。


 新一に――――――――――・・・・・大きく、風が吹いた。





「おえ、大丈夫か?」
「・・・あ、ああ」
「やっぱ熱あるんちゃうか? 今日はもう、薬飲んで寝たほうがええ」
「けどこれ・・・片付けないと」
「こんなん俺がほおっとくし、ええからお前は早よ中入り」



 グラスの破片に手を伸ばす新一を制し、平次は立てかけてあったほうきとちり取りを取り出す。
 慣れた手つきでその場を片付けると、手を洗いリビングへと入った。



「工藤、ほんなら俺・・・・」




 覗くとソファに寄りかかり、吐息を立てている新一。
 平次は小さく微笑うと、静かにその場を後にした。






ひとくぎり







『そうだ。あくまでも今言った俺の気持ちは『現在』の感情でしかない』
『工藤・・・』
『この先の気持ちなんて誰にも解らない。だからな服部―――――――・・・俺が欲しかったら『そう』させてみろ』
『・・・・』
『『友愛』でしかない今の感情を、『恋愛感情』に変えて見せろ』





 ・・・・・そう、させられてしまったのだろうか。

 俺は、服部に。





「・・・・・」





 ゆっくりとソファから起き上がる。


 とりあえず今日は帰ってくれて助かった。
 そう、新一は心から思う。







 ・・・・でも確かに、自分の中に風が吹いた。

 蘭の時とは違う色の、風が――――――――――・・・・・





「うわマジか・・・・・」




 新一は熱くなった顔を伏せる。
 座り込んだまま、ひざを抱えて。

 


 ・・・そしてこれは、快斗を想う感情とも違う。




 苦しくて、どうしてか切ない。
 だけども甘い・・・・信じられない感情。







「・・・ん?」




 その時ふと、どこからか電子音が聞こえた。
 新一は『あ!』と声を出すと、立ち上がり自室へと階段を駆け上った。








ひとくぎり







「もしもし長島さん!?」
『あ。ごめんね工藤君・・・今、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」




 息を切らすが、それを相手に悟らせない。
 今夜は長島から連絡があることを今更ながら思い出し、そのままベッドに転がった。


 ・・・天井を見て息を整える。




『今日はありがとう。楽しかった』
「俺もです。また、近くに来たら呼んで下さい」
『それで・・・なんだけど』
「あ、はい」




 もの凄く言いにくそうなのが伝わってくる。
 確か、当たり障りない断り方とか・・・言っていたような・・・・・・




『工藤君なら、経験あるかと思って聞くんだけど・・・・なかったらゴメン』
「・・・男から告白されたんですか?」
『!』





 少しの沈黙。
 その緊張した間が、当たっている事を証明していた。