White Lights 第18話



「・・・しかも同じ野球部とか」
『ど、どうして』




 解るのかと、携帯の向うで驚いている姿が浮かぶ。
 新一は、続けた。 




「だから困ってるんですよね」
『・・・そうなんだ。大会前だし、試合にも影響する』




 野球はチームプレイだ。
 他の誰にも、相談なんて出来ない。


 ・・・もちろん、一久に知られる訳にも。



 その相手に友愛以上の感情はない。
 でも、信頼できるチームメイト。




 ・・・どうしてこんな事になっちまったんだろう。

 長島は、深く息を付いた。





「読み通り、男から告られた経験はありますが・・・俺の場合はサークルにも入ってないですから、参考にならないと思いますよ」
『いいんだ。工藤くんの、考えを聞きたい』
「・・・そうですか」
『頼む』





 真剣な声。
 だから新一も、真面目に答えた。





「ハッキリ、言った方がいいです」
『・・・やっぱり。そうだよね』
「こんな時期に告白してくるくらいですから・・・真剣なんでしょう?」
『あ・・・う、うん。そう、見えたけど・・・』
「どっちにしろ断るからには―――――――――・・・少なからず相手にダメージは与えるでしょうし、心配なのは・・・・・」
『心配?』
「長島さん」





 冷静に、低く新一の声が響く。
 今まで聞いたことのないそれに、長島は息をのみ、そして。


 次の言葉に一瞬思考を止めた。





「・・・・・思い詰めた相手が、長島さんに怪我を負わせる可能性があるって事です」






ひとくぎり







 それから程なくして電話は終わった。
 最後の言葉が少し回りくどかったのか、しばらく無言だったが――――――――――・・・・


 『怪我を負わせる可能性』の意味を理解した途端、あたふたしている様子が伝わってきた。



 でもまあ、細そうに見えても野球選手だし。男だし。
 考えすぎだとも思うけど・・・・・

 
 マジで、ガタイのいい野郎はキレると、力じゃ敵わないのも事実。






「女にフラれるよりキツイだろうなあ・・・・」




 それでも、同じ野球部にいたいと思うのだろうか。
 一緒にいられるだけでも、いいと思うのだろうか。

 だけど。



 ・・・・・大会前なのに、長島さんに告白して悩ませてるそいつに腹が立つ。







 本当に相手を想ってるなら、試合前に言える訳がない。
 言ってしまえば、そりゃ言った本人は気が楽になるのかもしれない。

 だけど伝えられた相手は・・・・・・




 ・・・・確実に両想いだと確信があれば、違うのだろうけど。







「あ。今日って満月か」





 見上げた夜空。
 窓から差し込む月の光が、眩しかった。


 ベッドの上で転がしてある携帯を見つめる。





「そう言えば、服部の番号・・・・」





 新しいのを教えてもらったんだっけ。
 思い出し、メモを探す。





 ・・・あれ。



 新一は、はたと気付く。
 俺は、あの紙をどうしたっけ・・・?





「・・・・・・」





 あたりを見回しても見つからない。
 新一は、明日ゆっくり探そうとそのままベッドに転がった。







ひとくぎり







「はあ・・・」



 21時過ぎ。スターバックス。
 米花駅前にあるその場所で、平次は深く息をついていた。

 ガラス越し。
 流れる車のライトに視線を置きながら、考える。





「・・・これから俺は、どー頑張ればええんやろ」





 新作メニューのフラペチーノを飲みきる。
 店内のポスターを見ると、今日から出たものらしい。 



 ・・・・・工藤、好きそうやなコレ。



 なんて。
 何をしてても、新一の事を考えてしまう自分。





「アホやな俺はホンマに・・・」





 ぐるぐるとストローを回す。
 ガラスから見える人波の中には、可愛い女の子たちがたくさんいると言うのに。


 店内を見渡しても・・・魅力的な女性はいるのに。



 ・・・どうして、男に惚れてしまったんだろう。





 だけど。



 彼が同じ性だったからこそ、出逢えた。
 友人として知り合えたし、同じ時を過ごして来られた。


 ・・・どちらかがもし『女性』だったら不可能だった。






「よっしゃ。明日、もっかい行くか」





 夜も遅い。
 駅前のホテルに泊まるのだし、また明日にすればいい。


 ・・・だけど何だろう。
 この、胸騒ぎは。





「まさかなあ・・・」



 平次は手のひらを見つめる。
 新一の額に当てた時の、あの熱を思い出した。





「・・・・・・」





 考え過ぎならば、それでいい。
 インターホンを押して彼が現れれば、それでいいのだ。



 アカン。気にしだしたら、止まらん。




 とりあえず、新製品のコレを手みやげにすれば行く理由も出来るし・・・
 そう考え、平次はトレイを片付けると再びレジへ並んだ。






ひとくぎり






 それは大学へ入ったばかりの桜の頃。
 小中、高校の頃とは違い、人との関係も新しくなった季節。


 『工藤新一』は既に有名人だったから。
 好奇な目を持つ人間が、多く寄ってくるのは仕方のない事だった。





「・・・っ」





 息が苦しい。
 頭が、痛い・・・




 もう、ほとんど忘れかけてたのにな・・・・・・
 ・・・・・長島さんと話してたら、思い出しちまった。








「・・・アタマ、痛てえ」




 どうしたんだろう。
 酷く、頭が重い。


 潜っていた毛布から顔を出し、窓の外を見る。





 月の光。

 ・・・それはいつにも増して眩しく、耐えられずに新一は目を閉じた。







ひとくぎり







「出てけえへん・・・」





 そうして工藤邸。
 平次は、土産片手にインターホンを押していた。



 ・・・しかし何度押しても反応がない。







「部屋の電気は1階も2階もついとるし・・・風呂でも入っとんのかな」





 そう考えつつもドアノブに手をかけ、ゆっくりと引く。
 すると。




「!」



 ・・・まさかホンマに?





 鍵が掛かっていなかった。
 再度呼びかけても、何の反応もない。


 だから慌てて中へ入り、その姿を探した。








ひとくぎり








「やっぱりかい・・・」





 自室のベッドの中。
 新一は、薄い毛布にくるまっていた。





「せやから熱――――――――――・・・ある言うたのに」




 再び触れる額。
 伝わってくる熱は少し高い。


 ・・・身体を、震わせていた。




「工藤、おえ工藤」
「・・・」
「寝るならちゃんと寝えや。戸締まりもせんと不用心やで? 俺みたいなんが、こーして上がり込んで悪さしたらどないするん」
「っ!? は・・・服部?」
「おう」




 突然の服部に、新一は飛び起きる。
 ・・・・瞬間、頭に響いたらしく顔をしかめた。




「っつ・・・お前、何しに・・・」
「ああ。夜這い?」
「!?」
「冗談や。まあ、何や・・・ホテル取れんくてな。廊下でもどこでもええから、泊まらしてもらお思て」
「え・・・?」
「あ。これスタバの新商品や。今は飲めへんみたいやし、冷蔵庫入れとくわ」



 わざとらしい言い訳をしつつ、スターバックスの紙袋を新一に見せる。
 何か言いたげな新一に、平次は満面の笑みを浮かべながら更に続けた。




「その様子やと何も食うてへんな。粥でも作ったる」
「・・・」
「出来たら持ってくるし。ちゃんと布団かぶって寝とき」





 言うだけ言うと、平次はさっさと部屋を出て行く。
 

 ・・・新一はその背中を見えなくなるまで見つめていた。