White Lights 第21話



「昨日はありがとな。来てくれて、助かった」
「具合は・・・もう、ええんか」
「ああ。シャワー浴びてくる」




 相変わらずの日差し。
 突き刺すような光の中、新一はそう言いベッドから降りる。




「ほんなら、何か飯でも作っとくし」
「服部」
「ん?」
「・・・上がったら、話がある」






 ぽつりと漏らす言葉。
 きちんと、目を向けて。

 新一は着替えを用意すると、そのまま部屋を出て行った。






ひとくぎり








 ――――――――――・・・話って何や。

 昨日の事は、まさかホンマに気の迷いて言わへんよな・・・・・・?






 一気に悪い方向へと思考が進む平次。
 それも仕方がないだろう。

 たった今目が覚めたばかりの自分が、まだ信じられないでいるのだ。







「・・・そしたら暫く立ち直れへんかも」




 目を閉じずとも鮮明に思い出せる、昨夜の出来事。
 そしてあの感触。



 もう――――・・・知らなかった頃には戻れないのに。







「せやけど、今いろいろ考えてもしゃーないか・・・」




 そう。
 とにかく、話があるというなら聞くしかない。




 否が応でも時間は過ぎてゆく。
 彼の両親が、いつ帰ってくるかも解らない。





 どちらにしても、きちんと新一の気持ちを確かめて。

 それで、やはり両想いならば嬉しいし――――――――――・・・
 違うのなら、また今までと同じように頑張っていくしかないのだ。





「よっしゃ。まず、メシつくろ」




 時計を見ると10時を過ぎている。
 目が覚めたと同時に、腹も鳴る訳だ。

 平次は空を見上げる。
 降り注ぐ容赦ない日差しに目を細めると、空気を入れ替えようと窓を開けた。










ひとくぎり










「・・・今頃あいつ、変な心配してんだろうな」




 湯を全身に浴びながら、新一は微笑った。
 程よく熱い雫が心地よい。

 だいぶ思考もスッキリし、改めて昨夜の事を思い返す。







 あの不安そうな顔が『可愛い』と思っちまう時点で――――――――――・・・
 やっぱ、『そういう感情』で見てるって事になるのかな。



 『上がったら話がある』
 そう告げた時の平次を見た時、自分でも驚く感情に気付いた。

 






 ・・・・・・面倒だけど、面白そうだ。





 新一は窓から空を見上げる。
 雲ひとつ無く、文句のつけようのない快晴。

 まだまだ夏はこれからなんだよなあ・・・・・・
 そう呟き、バスルームを出た。








ひとくぎり









「お、すげえな」
「工藤」
「・・・味噌汁なんて久々だ。へえ、いいにおい」




 Tシャツに短パンというラフな格好で現れた新一。
 キッチンの後ろ。平次の首もとから、ひょいと覗き込む。


 気配は感じていた。
 だから、平次はさほど驚かず言葉を出す。




「食欲まだないやろ。あったかいもん入れて、ゆっくりせえ」
「え」
「・・・ちゅうか頭、乾かしてこいや。水滴、ボッタボタやぞ」







 逆光。
 彼の背中から差し込む光に、新一は一瞬目を閉じた。

 ・・・・・そしてゆっくり、まぶたを開ける。





「工藤?」



 肩に掛かっていたバスタオル。
 それをはぎ取り、平次は新一の頭に乗せた。







ひとくぎり









「・・・・・な、なんだあいつ」





 サニタリーの鏡の前。
 新一は、大きく息を付く。





「あんな目で・・・いつも俺のこと見てたのか? あんな・・・全身で、俺に惚れてるって―――――・・・言ってたのか?」





 視線を合わせた途端、頭が真っ白になった。
 さっきまでは、確かに思っていたのだ。

 好きになっても振り回されたりしない。
 振り回すのは、この自分。


 なのに。







 ・・・こんな風に・・・・・・あいつの一挙一動が、俺のために動いていることは知っていた筈。
 だけどそれは、自分に『そんな感情』がなかった頃で・・・・・・




 まさか、こんな・・・・・・
 







「ちくしょう・・・俺が、先に腰砕けにされてどうする」





 深呼吸。
 吸って、吐いて、もうひとつ。

 


 ・・・そうだ。
 髪、乾かさなきゃ。

 新一は気を取り直し、ドライヤーを取り出した。







ひとくぎり









「ずいぶん時間かかったな。まあええわ、座り」
「・・・なあ服部」
「ん?」
「キス、しようぜ」





 味噌汁を盛る直前だった。

 突然の提案。
 平次は、真顔のまま椀を落とす。




「へ・・・?」
「お前に主導権なんて取らせてたまるか・・・」
「ちょ、工藤??」





 からんと床に響く音。
 近づいてくる、新一の顔。



 なんて、綺麗な薄茶色の瞳―――・・・・・・

 




「・・・っ」
「味噌汁の味がする・・・」
「しゃ、しゃあないやろ」
「悪いなんて言ってねえ」
「・・・工藤」





 シンクに手を付き、少し背伸びしての接触。
 僅かな間だったけれど、平次がその真意を悟るのには充分だった。



 だから・・・その身体を、抱きしめる。





「な、ちょっと・・・」
「俺コロス気か。アホウ」
「は?」
「・・・クチビル震えさして慣れんことするなっちゅーねん」
「え!?」





 心を読み取られたことに驚いたのか、慌てて腕から離れる新一。
 その表情は、もう隠しようもなく耳まで赤く・・・・・・

 たまらず平次は目の前の頬を引き寄せ、今度は自分から新一の口唇を塞いだ。









ひとくぎり











「・・・さっきは心臓止まるかと思ったぜ」
「ホンマやな・・・」




 昼過ぎ。
 駅前のスターバックスで、項垂れる新一と平次。



 ・・・二人とも頭を抱え、ため息。







「母さんたちが帰ってくるってこと、すっかり忘れてた・・・・・・」







 そう。
 暑い、日差しの中。

 平次の指先が新一の肌を滑ろうとしていた、その時だった。






『たっだいま~♪ 新ちゃん、服部くん起きてる~??』







 ――――――――――・・・現実に引き戻される声が、玄関から聞こえてきたのだ。






 そりゃもう、焦ったなんてものではない。
 二人は互いを突き飛ばすと、平次はシンクの方へ反転し、新一はバスルームへと飛び込んだ。










「せやけど良かったわ」
「良かった?」
「あんまま進んどったら――――・・・工藤、どっちにしろ俺んこと突き飛ばしたやろし」
「・・・え?」





 窓際。
 外の通りを眺めながら、平次は目を細める。

 新一はその小さく呟かれた声に、表情を止めた。




「あ。俺、そろそろ行くわ」
「おい、服部」
「後で連絡するし」




 憎らしいくらいの笑顔を平次は向ける。
 囁くような最後の言葉に、新一は体温を上げた。







「・・・わかった」






 ひらひらと手を振り、平次は店を出て行く。
 一日のうちで一番陽の高い時間帯。

 眩しい光の中、その背中は駅の方へと消えていった。