White Lights 第22話






 『話がある』

 確かに新一はそう言っていた。







「・・・なんやろ話て」

 






 つい逃げるように帰ってきてしまった。
 そりゃあ、いい雰囲気だった所を両親の帰宅で駄目にされはしたが・・・

 改めて『話』と言われると、どうも悪いように考えてしまう。







「どないしよ~ つい帰る言うて東京駅まで来てもうたけど・・・別に早く帰る用もないし、ホンマは工藤から何とな~く話、聞きたなかっただけやし・・・・・・」







 両想いにはなったと思う。
 でも。






「何、隠しとんのやろ――――――――・・・・・・」







 当の本人は、本当に『同性と付き合う』ということがどういうことか、解っているのだろうか?

 キスだけじゃなく、異性と同様に身体の関係に進む可能性がある・・・
 という事を理解しているのだろうか。








 ・・・・・・想いが通じて更に悩まなアカンのか。










 大きく息をつく。
 

 目の前を通りゆく人たち。
 きっとそれぞれが、何かに悩み、そして乗り越えているに違いない。






 そうだ。
 工藤が言っていた『話』も、もしかしたら―――――・・・・・・







 平次は携帯を取り出す。
 そうして、元来た道を戻りながら短縮を押した。








ひとくぎり










「さーて、どーすっかな・・・」







 時は15時過ぎ。
 平次の去った後、すぐに家に戻る気にもなれず、新一はまだスターバックスにいた。







 快斗は大阪だし。
 今は特に、読みたい本もないけど―――――・・・

 ・・・本屋にでも行こうかな。
 そう時間をもて余しつつ、携帯の電話帳をスクロールしていたその時。


 着信が、入った。








「!」








 服部?



 新一は急いで外に出る。
 日陰になる場所で、それに出た。







「・・・何だよ」
『工藤、今どこや』
「まだスタバだけど・・・」
『そうか。ならもおちょお待っとって』
「え?」





 とっくに帰路についているはずなのに、何を言っているのだろう。
 新一は、怪訝な顔をした。







『やっぱ、このまま帰られへん。お前の話も聞いてへんのに――――――・・・逃げたみたいで、スマン』
「・・・・・・」
『今から電車乗るし、そうやな・・・』
「解った。駅の出口で待ってる」
『おう、頼むわ』







 そうして切れる会話。
 新一は、ゆっくりと携帯を耳から離した。









 ・・・・・・戻ってくる。

 服部が、ここに。








 今日を逃したらまたいつになるか解らないことを、互いに感じているのか。
 とにかく、新一は平次に『話しておかなければならないこと』があるから。



 深呼吸をすると―――――――――・・・
 横断歩道が青になるのを確認し、駅へと向かった。
 







ひとくぎり









「あれ・・・居らん?」






 平次は、米花駅前で新一を捜していた。
 この駅で待ち合わせする時は、必ず決まった場所で新一は待っていた筈。

 しかしいない。
 まあ、今は携帯電話という便利なものがある。

 きっと本屋にでも寄っているのだろうと思い、リダイヤルを押した。







「・・・・・・」






 しかし出ない。
 電波の届かない所、というコールではなく――――・・・ただひたすら呼び出し音が鳴り響く。








 ・・・どないしたんや。







 メールチェックを何度も試すが、受信はない。

 待たせていたのは自分とは言え、こう連絡が取れないのは珍しい。
 用事が出来たのなら、メールは送るはず。








「まさかとは思うけどなあ・・・」







 ならば考えられるのは、それすらも出来ないほど急な用事が出来たということ。
 つまり、『事件』。







 ――――――――――・・・けどなあ、こん駅で何か起こったんやったら、警察やら来とって結構な騒ぎになっとるやろし。







 平次は考える。
 とすると、誰かに電話で呼び出されたと考えるのが妥当だ。

 





「ちゅーと・・・ま、目暮警部か高木はんかなあ」







 さんさんと降り注ぐ日差し。
 平次は、とりあえず日陰に入ると携帯を開いた。







ひとくぎり








「いったー・・・・・・殴ると、こっちの手が痛いから嫌いなんだよなあ」







 駅前のコンビニ。
 その裏から、新一が右手をひらひらさせながら出てきた。

 
 ・・・奥には、うずくまっている人影が3つ。







「やっべ。服部、もう来てるな」







 たまに、新一はケンカを売られる。



 ちょっとした有名人。
 ちょっとどころじゃない、容貌。
 


 それを―――――・・・面白くないと受け取る人間が、いる。








 ・・・・・・手まで使うハメになるなんて。
 やっぱ、まだ本調子じゃねえか。 

 いつもなら、足蹴り一発も食らわせれば事は済んでたのに・・・・・・
 






『いつもなら』というのは、こういうケンカの場合だけではなく。
 事件が起きて、犯人とやりあう状況の場合もだ。








「暴れたら余計に暑くなっちまった・・・」







 『あの時』から、新一はいろいろな技術を身に付けた。
 『あの日』より、体力も持久力も付けて・・・・・・

 今では、こうして手を出してくる輩の殆どを、あっさりと片付けられるくらいになっている。



 新一は後ろを振り向かない。
 コンビニを通り過ぎ、駅前に戻る。







 
「工藤!」








 ・・・そして、自分を呼ぶ声を見つけた。









ひとくぎり











「服部」
「なんや、今来たんか」
「ちょっとな」






 見ると、平次のパタンと携帯を閉じる仕草。
 新一は「!」と気づき、ポケットから携帯を取りだした。






「・・・悪い、気付かなかった」
「ええって。けど、またどこぞに呼び出されたんかと思うたわ」
「違う意味では合ってるけど」
「へ?」






 詳しくは語らず、新一は微笑う。

 怪訝な顔をした平次。
 しかし、先のコンビニから3人ばかり、逃げるように立ち去る男共に気付き、納得した。






「・・・相変わらずなんや」
「そんな事より、わざわざ戻らせて悪かったな」
「工藤」
「―――――――――・・・ちょっと歩かないか」







 もうじき夕暮れとは言え、まだ暑さは全身にまとわり付く。
 なのにどこか店へ入ろうと言わない新一。



 ・・・緊張、しているらしかった。






「俺はかまへんけど」
「じゃあ、こっち」





 そう言って背中を新一は向ける。

 頬をなでる温い風。
 平次は、何か決意を秘めたそれに続いた。







ひとくぎり









「ほい」
「・・・サンキュ」






 川沿い。
 少し日陰の、ベンチに腰を下ろす。

 自販機で買ってきた缶珈琲を渡すと、平次も隣に座った。





 ぷしゅ。と、小さく音が響く。


 ・・・・人通りも少ない。
 新一は、冷たいそれを口に含んだ。




「なんだ。ちょっと甘過ぎだろコレ」
「そうなん? 新登場て書いてあったし、押してもうた」
「・・・お前のは?」
「俺はブラックに決まっとるがな」
「おい」




 そっちを寄こせと、新一は手を伸ばす。
 けれども逆に掴まれ、あっという間に口唇を塞がれた。






「!」






 突き放す前に、離れるそれ。
 目を見開いたままの新一の手から、缶が落下した。






「お・・・お前、何考えてんだ!?」
「人影も見えんかったし。こら行けるな思て」
「だからってするな!」






 耳まで赤くなる新一。
 その一挙一動が、何もかも新しく、可愛くてしょうがない。
 





「睨まんでもやるて。ほれ」
「・・・ったく」
「それで何、話て」






 突然振られる核心。

 そりゃそうだ。
 それを聞くために、平次は戻ってきた。



 ・・・新一は大きく息を吸う。







「俺はな服部。正直―――――・・・こうなるとは、思ってなかった」
「まあ・・・せやろな」
「同性だからとかじゃなく、恋愛感情を二度と持つはずがないと思ってたんだ。人と関わるのを、意識的に避けてきたから」
「・・・」






 淡々と語る口調。
 平次は、静かにそれを聞いていた。





「でもこうなった以上、避けられないだろうから言う。どうせ解っちまうだろうし」
「解る・・・?」






 ふわりと前髪が揺れた。
 そして新一は平次に向き、こう告げた。








「・・・・・・俺はお前を、受け入れられないと思う」