White Lights 第3話

 平次はふり返らなかった。
 背中に新一の視線を感じたが、それも直ぐに消えた。







 ・・・やっぱバレとったんか―――――・・・・・・流石に油断ならんわ。









 黒羽快斗は宣戦布告してきた。
 自分が彼のそばにいると、主張してきた。


 そして。
 このイヴの夜を新一と過ごすのは『自分だ』と、平次にキッパリ言い放った。





『な、何もこんな所で言わなくても・・・けど、それは』
『・・・って事はホンマなんか。工藤』
『え? あ、ああ・・・まあ』
『そうか。邪魔したな』







 ・・・新一は真っ赤だった。
 白い息を吐きながら、一気に体温を上昇させていた。


 だから、つい。
 『良かったやん。願い叶って』なんて。







 ・・・・心にも無いことを言ってしまった。









「どーすっかなあ・・・」







 新一が快斗を好きだと知ったのは、いつだっただろう?
 『黒羽快斗』の名を知らされたのは大学に入って間もない頃だったから、その時だろうか。


 多分、互いに出逢った瞬間に一目惚れ。
 直接紹介されたのは・・・・それから約1年後の事。





 けしかけるつもりは無かった。
 ただ、やり方を失敗した。





 人の事には敏感なクセに自分の事となると鈍感な工藤新一は、快斗がまさか自分を好きだとは夢にも思っていなかった。

 黒羽快斗は、あんなに新一への気持ちを露わにしていたと言うのに。

 だから別の方向で攻めようと思った。

 なのに。



 ・・・大阪へ旅行しに来た2人を家へ泊めた時、感じた恐ろしく鋭い視線を侮っていた。









「あの調子やと・・・・今夜あたり仕掛けるかもしれへんな」









 平次は考える。



 多分『付き合ってる』っていうのは、現段階では『ウソ』の可能性が高い。
 新一の表情を見てれば解る。
 






 何かの理由で――――――――――・・・『フリ』をしているだけだろう。







 でも快斗は本気だ。
 きっと今夜―――――・・・『ウソ』を『現実』にしようとしている。







 平次は足を止めた。
 そうして、夜空の月を見上げた。





 ・・・大きく息を付く。









 邪魔しようと思えばいくらでも出来た。
 追い返そうとしている快斗など気にしないで、自分も新一の家に付いていく事が。


 けれど。





 新一が幸せになること。





 ・・・・それは、彼が『コナン』から『新一』へ戻った時に真っ先に願った事だった。









 だから平次にはこれ以上踏み込む事は出来ない。
 彼自身が望むのなら、そうなれば良い。


 しかし。







「好き同士でも―――――・・・行くトコまで行くと思えへんのは、何でやろ」







 そうも思ったから、平次は複雑な表情で再び歩き出した。












ひとくぎり










「・・・快斗」
「本気だからな。だから、この大学に入ったんだ・・・・・・やっと手の届く位置に来た。新一のそばに、いられる所まで来たんだ」









 予想してなかった出来事。
 新一は、目を見開く。









「俺が・・・この大学受けるって知ってたのか」
「新一は自分がどれだけ有名か自覚無さ過ぎだぜ? 俺の高校でも、『東の名探偵』の進路先は聞こえてきてたさ」
「そ、そうなのか?」
「いつも言われてた。『黒羽君って、あの工藤君に似てるよね』って―――――・・・もの凄く嫌だった。俺は、ただの一人の『黒羽快斗』っていう人間だ。だから・・・ハッキリ言って面白くなかった」
「・・・」
「けど・・・それから暫くして、ある場所で生意気なガキに会った」
「・・・え?」







 月は相変わらず瞬いて。
 呟きと変わらない快斗の言葉に、少しの緊張が走る。





 ――――・・・新一の胸が、どくんと波打った。








「眼鏡を掛けた小学生だった。そいつは―――――・・・俺が最も嫌いな人間と同じ『目』をしてた。その頃、全く学校にも出てこなくなって一部じゃ死亡説まで流れていた――――・・・『工藤新一』と同じ目を」
「!」
「・・・流石に驚いた。まさかと思ったけど、色々調べさせてもらった―――――・・・そこで、彼らが同一人物の可能性が高い事が解った」
「・・・・」
「誰からも注目を浴びて好かれて、何の苦労もない人生を歩んでいると思ってた『工藤新一』。それが・・・・事件に巻き込まれて、不本意な身体で四苦八苦している。ホント、最初は笑ったよ」

 






 快斗は自嘲気味に微笑う。
 ここまで話すつもりは無かったのに、自分の気持ちの経緯まで語っているのだ。





 ・・・仕方がないだろう。

 同性に惚れてるなんて、相応の理由がないと・・・・納得なんてしてもらえない。







「快斗・・・・」
「でもお前はいつも一生懸命だった。自分の運命を呪ってるだろうに、それを嘆く訳でもなく困難に立ち向かって・・・・強いな、って思った」
「・・・」
「それから不思議と気持ちが落ち着いた。工藤新一と似てるって言われるのも日常茶飯事になってたけど―――――・・・・嫌な気はしなくなってた。逆に、『似てる』って言われるお前に恥じない様にしようと思ったんだ・・・・なんて、泥棒やってる俺が言うのもおかしいけどな」
「!」
「・・・もう知ってるんだろ? 俺の正体」







 とっくに好きになってた。





 大学に入って、話し掛けて仲良くなって・・・・・・
 その想いはもう、どうしようもないくらい。

 






 『怪盗キッド』として何度か会ってたあの頃から。
 彼の気丈な性格と意志の強さと・・・そして類い希なき聡明さに惹かれていのだ。





 確かに最初は『人間』として。





 そうして―――――・・・今は、その存在全てが苦しい程・・・・・・
 





「『正体』って何だよ」
「・・・・だから、俺が」
「『怪盗キッド』が『黒羽快斗』だって事か? それが何だってんだよ・・・・・・どっちも『お前』だろ」
「え・・・」





 新一は快斗を見つめる。
 今にも泣き出しそうなその顔に、微笑いながら。

 




「大学に入ってから、好奇心や下心しかない連中が沢山寄ってくる様になった。俺の背景や外見しか・・・興味ない奴らばっかり」
「・・・・」
「けどお前は違った。俺をただの『工藤新一』として見てくれた」
「・・・新一の持ってる情報が欲しかっただけかもしれない」
「違う。目を見れば解る。だから嬉しかった。だから、俺はお前を好きになった―――――・・・・・・服部とは違う安らぎをくれる、お前を」
「え・・・?」







 快斗が目を見開いた。
 耳に届いた言葉が、信じられなくて。







「・・・俺も好きだ。だから、嬉しい」
「ほ・・・ホントに?」
「ああ」
「泥棒でもか?」
「話してくれるんだろ? お前が『怪盗キッド』を演じている・・・・・・本当の理由を」
「新一・・・・」
「冷えて来たな。風邪引くから、早く帰ろうぜ」







 僅かに頬を紅く染め、新一はくるりと背を向ける。
 そうして足早に公園を出て行く。





 ・・・快斗は、少しの間だけその後ろ姿を見つめていた。







ひとくぎり








「工藤君。ちょうど良かった」
「あれ? 高木さん確か今日は非番じゃ・・・」
「資料をね。届けなきゃいけないのがあって来たんだけど、警視庁の前で偶然彼に会ってさ」





 年が明け、1月も半ば。  
 新一は目暮警部に呼ばれ、ここ警視庁へと出向いていた。


 そして帰ろうとしていたお昼過ぎ。
 非番の筈の高木渉が、ある一人の青年を連れて来たのである。





 ・・・・・・その彼の名は。







「は・・・白馬!?」
「お久しぶりです、工藤君」





 そう。

 警視総監の一人息子である、白馬探だった。
 






「驚いたな。帰ってくるなんて聞いてねえぞ」
「すみません。急に決まって飛行機に乗ってしまったので」
「何かあったのか」
「地中海で見つかった宝石が、日本に持ち込まれたと情報が入ったのは知っていますか」
「それじゃ・・・」
「ええ。多分、怪盗キッドも狙っています」





 探の運転する車に新一は乗っていた。

 一見して高級だと解るスポーツカー。
 早さ重視のその車内は、とてもじゃないが居心地が良いとは言えない。
 
 しかし滅多に乗れるシロモノじゃないので、新一は車高の低いこの視界を楽しんでいた。
 そうして出てきた話題。



 高校を卒業してから年の大半をイギリスで過ごしている彼が、こうして急に帰国するのは大抵キッド絡みだ。
 だから大して驚きもせず応える。





「お前も大変だな。その宝石について、新しい情報は解ったのか」
「・・・今の所は何も」
「そうか。じゃあ今日は他に予定は?」
「父にも挨拶は済ませましたし―――――・・・・・・特には」
「よし。じゃあ、どっかでメシ食おう。快斗も呼ぶぞ」
「黒羽君・・・ですか?」
「ああ。昨日から俺んち来てんだよ」





 探の表情が僅かに曇った。
 少し、空気が変わる。





「・・・そうですか」 
「高校で同じクラスだったんだろ? 何でそんなにアイツが気にくわないんだよ」
「別に嫌いではありません。苦手なだけです」
「同じ事だろ」





 黒羽快斗と、白馬探。
 高校2年の時に彼らは出会った。


 探は怪盗キッドを追い求めて日本に来た。
 快斗は、父親の死の真相を調べるべく『怪盗キッド』を継いだ。

 そして、探はひとつの考えを信じていた。
 






 ・・・・・・それは『黒羽快斗』は『怪盗キッド』という方程式。







 だからなのか、探は快斗に対していつも距離を取っていた。
 同じクラスでも必要以上に会話する事は無かったのだ。





「・・・そうでしょうか」
「高校卒業してから会ってないんだってな」
「ええ。連絡を取り合う仲でもありませんし」
「合うと思うんだけどなあ。あいつとお前」
「工藤君。君と彼が友達なのは知っていますし、それをとやかく言う気はありません。しかし・・・・知っている筈です」
「何をだ」





 探はスピードを上げた。
 なめらかに、次々と車を抜き去ってゆく。


 そうしてハッキリと言った。







「・・・・・・僕が、黒羽君を疑っている事を」











 
 黒羽快斗は怪盗キッド。
 最初からそれを疑い、探は快斗の通う江古田高校へと編入した。


 しかし決定的な証拠を見つけ出せず、高校を卒業。
 だから探は、もう一度自身を鍛え直すためにイギリスへと戻ったのだ。







「知ってる」
「なら、何故」
「会わせようとするかって?」
「・・・ええ」
「お前さ―――・・・ちゃんと快斗と接したことあるのか? 一日でもいいから、一緒にいてみろ」
「え」
「今日は俺んち泊まれ。いいな」





 新一のこういう『命令』は決して強制ではない。
 けれども、反論が出来ない『何か』がある。
 
 両親以外に探がこうスンナリ言うことを聞いてしまうのは彼外にいないだろう。
 そうでなくとも新一の上目遣いには、知り合ってから勝てた試しがないのだ。


 だから。







「・・・解りました」

 




 小さく息を付くと、首都高を降りた。