White Lights 第4話

 工藤邸。
 午後2時少し前に扉の開く音。


 快斗がぱたぱたと、廊下へ出る。





「新一、おっかえり~」
「ただいま。珍しい客連れてきたぜ」
「客?」





 顔を出したのは新一。
 しかし、その次の言葉に視線を彼の背後に移した。





 ・・・そうしてそこに現れたのは。







「お邪魔します」
「・・・は、白馬!?」







 高校卒業以来の、白馬探であった。  






ひとくぎり





「驚いたな。日本にいたんだ」
「・・・今日からだけどね」
「相変わらずキッド追い掛けてんのか。ご苦労なこった」





 これから3人で食事に行くため、新一は2階へ着替えに行っている。
 リビングに残された2人は、向かい合わせにソファに座っていた。


 快斗の言葉に、探は彼を睨むように見る。





「黒羽君」
「ん?」
「元気、そうだね」
「まあ・・・見ての通りだけど」
「工藤君と同じ大学に行ってるんだって? 知らなかったよ」
「そうだろうな。お前には言ってなかったし」

 






 自分を見続けている探。
 視線を逸らさず人と話すのは、初めて会った時から変わらない。

 ・・・だから快斗もその冷ややかな目を見返していた。

 と、その時。







「悪い悪い。待たせた」





 新一がリビングへ入ってきた。
 マフラーをぐるぐる巻きにして、ダッフルコートを着込んで。


 スーツとコート姿とのギャップに快斗は、それまでの表情を変えゆるめた。





「いんや? じゃあ行こうぜ」
「お前ちゃんと着ろ。外、風強いぞ」
「車で行くんだろ? いーよこれで」
「そう言ってこの間も風邪引いただろうが。言うこと聞け」
「・・・・っふ」





 2人のやり取りに、探が思わず笑う。
 けれどもすぐに『あ。すみません』と口に手を当てた。





「何だよ。何がおかしいんだ?」
「そうしていると兄弟みたいですね。微笑ましい限りです」
「ほっ・・・?」
「いいから着て来い快斗。早くしないと置いてくぞ」
「・・・解ったよ」





 探偵2人に急かされ、快斗はふくれながら2階に上がって行った。
 まだ何やら笑っている探に、新一が聞く。





「どうした。楽しそうだな」
「工藤君には随分と心を開いているんですね。彼があんな表情するなんて、見た事なかった」
「・・・そうか? あいつ、いつもあんなんだけど」
「普段の彼はいつも笑顔を創っていますから―――――・・・まるで何かから、自分を守るかのように」
「!」





 新一は驚いた。
 苦手だと言っていた快斗の事を、探が『理解している』事を。

 






 ・・・こいつ・・・快斗の本質を、見抜いてる―――――・・・・・・









「ごめんごめん! お待たせ~」
「快斗」
「では行きましょうか」

 








 奇妙な予感がした。
 胸騒ぎがした。



 ・・・・・・苦手だから。

 だから、高校の卒業以来会っていないと言っていた快斗と探。
 なのにどうしてだろう。







「・・・ああ」









 新一は、2人の間に見えない『何か』を感じた。








ひとくぎり










「何や。えらい調子悪いやんか」
「・・・今日はたまたまや」
「ほー・・・そんなら今度の試合ん時も、調子悪なって欲しいもんやけどな」
「うっさい。お前が相手やとホンマやりにくいわ」





 大阪、寝屋川の服部邸。

 その自宅脇に造られた剣道場で、平次は面を外し壁際に座り込んだ。

 ・・・同じく面を外し現れた、隣の顔に息を付きながら。





「何でやねん」
「何でもや」
「そんなら呼ぶなっちゅーねん・・・ムカツクやっちゃな」
「せやかて沖田と打ち合うんが、一番オモロイし」







 沖田。

 それは沖田総司と言う名の、京都に住む平次の剣道におけるライバルだ。

 高校時代のとある事件の時からよく言葉を交わすようになった2人は、大学に進んだ今もたまにこうして互いの家で打ち合うようになった。





 総司は今日、朝から平次に呼ばれた。
 しかし『練習に付き合うてくれ』と言われたから来たのに、当の本人はいつもの力の半分も出してくれない。


 まったく溜息を付くのはこっちやで。そう総司は言いたくなった。





「悩みくらいは聞いたるで? 話してみいや」
「・・・話せへん」
「なら俺の顔見て萎えんな。呼んどいて失礼やぞ」
「んな事言うたかて・・・・」

 




 来月、2人は大会を控えている。
 だからこそ、こうして練習を重ねて来ていた。

 しかし。




 平次は去年あの一件があって以来、総司と顔を合わせるのが苦痛になって来ていた。

 何故なら――――――――――・・・
 彼は工藤新一にまた、良く似ているからである。





 だが黒羽快斗にしても、この沖田総司にしても・・・どうして自分の回りに『工藤新一』と似た人物が2人もいるのだろうか?


 新一に惚れている平次にとってそれは動揺の種でしかなく。
 しかも、その新一は今現在他に好きな人がいる。





 ・・・・・・更に新一も平次も男で、新一が好きな相手というのも同性。
 こんな事、総司に相談できる訳が無かった。





「とにかく今日はもう止めやな。こんなお前相手にしとっても、練習にならへん」
「・・・すまん」
「昼メシ食って気晴らしに出掛けんか? そやなー・・・俺、大阪てよお知らんから案内してくれや」
「そやな・・・・」
「・・・・・」





 そう話を振っても煮え切らない平次。
 いい加減にキレた総司は、隣の男の喉元に竹刀を突きつけた。









「!?」
「ええ加減にせえよ、服部」









 鋭い視線。 
 平次は一瞬にして我に返り、総司を正視する。






「・・・沖田」
「そや。俺は『沖田』や・・・どーせこの顔に似とる東京の探偵サンと何かあったんやろけど・・・・それは『俺』には関係あらへん。お前らの問題、俺に持ち込むなや」
「・・・・・」
「言いたい事あるんやったら言うてこい。電話やなくて、会うてこいや。つうかなあ・・・悩んどるお前は可愛ないんや。うっとおしいったら無いわ」





 射るような視線。
 それは、やっぱり新一に似ていて。





 ・・・平次は目を伏せるが―――――・・・数秒のち、顔を上げた。
 






「そやな。こんなん、俺らしくないわ」
「解ったんならええ」
「しっかし俺そんな可愛ないか? 悩んどる顔しとると、年上のねーちゃん達にウケええんやけどな」
「んなモン俺に通用するわけ無いやろ。アホ」
「それもそやな」





 カラカラと笑う平次。
 その表情に、総司は『やれやれ』と息を付く。



 しかし・・・・・・
 相当の事じゃなければ精神を乱すことのない平次を、剣道に集中出来なくなる程にさせている『工藤新一』とはどういう人物なのだろうか。
 








 総司は勿論、会ったことは無かった。

 テレビや雑誌を通して『見た』事は何度もあるし、自分と似通っている風貌をしているから気にはなっていたのだが・・・・・・

 





 ・・・話してみたいもんやな。
 

 






 剣道を通して服部平次に出会い、そしてその彼を通して工藤新一を知った。

 ・・・剣道以外に『探偵』として活躍していた平次だったから、新一と知り合いなのは解っていた。

 会う度に聞かされる『素』の彼に、総司はいつしか興味を持っていたのだ。







 そや―――・・・
 来週、代々木行くついでに・・・・・・







 良い具合に、総司は来週東京に出掛ける用事があった。
 知り合いの子に稽古を付ける約束をしていた。







「沖田? 何や、どないした」
「・・・いや」





 2人に何があったのが知りたい訳じゃない。
 ただ、総司は『新一』が知りたいと思った。



 ・・・・・・この沖田総司も、『工藤新一』が有名になってからずっと『似ている』と言われ続けて来ていたのだから。







ひとくぎり








「何食う?」
「寒いしな~。ラーメン食いたい」
「白馬は? 何か食いたいのあるか?」
「ラーメンですか。良いですよ、僕も久しぶりだ」
「じゃ、ここがいいかな」





 新一の案内で入ったその店は、ログハウス風で木のにおいがまだ新しく。
 扉を開けた途端に、威勢の良い店員の声と共に美味しそうなスープの香りが漂って来た。


 まずは食券を買うために販売機の前に新一は立つ。





「最初は定番の醤油だな。ネギが細かく入ってて美味いんだ」
「へー」
「・・・あれ」





 その時、奥の方を見て探が声を出した。
 新一と快斗がその視線の方を追うと、一番奥のテーブル席に座っている2人組が視界に映った。


 すると探は奥へと歩き出す。
 残された2人は互いに顔を見合わせ、『なんだあ?』という顔をした。





「おえシゲ。ホンマにこれ入れるんか」
「いいから騙されたと思って入れてみろよ。ウマイんだぜこれが」
「マズかったらシバくで?」
「――――・・・こんな所で会うなんて奇遇だな。一久」
「ん?」





 頭上から『一久(カズヒサ)』と名を呼ばれた方の彼は、れんげを口にくわえたまま顔を上げた。
 そして探と目が合った途端、酷く慌てて立ち上がる。



「っ・・・!? さ・・・探!?」
「長島さんも久しぶり。相変わらず彼に連れ回されてるんですか」
「おっ・・・オマエ・・・・っ・・・いつ日本に帰って来たんや!? つうか何でココにおんねん!?」
「白馬? うわー ひっさしぶり~」




「し・・・新一、あれって・・・あの2人って確か・・・・・・」
「ああ。大学野球で有名な奴らだ――――・・・つうかそれより白馬と知り合いだったってのがオドロキだけどな」
「だーよなあ・・・」



 そう。奥にいた2人は知る人ぞ知る有名人。
 今の大学野球のトップに位置し、既にプロ野球界からのオファーが後を絶たない2人だ。


 新一達に向いてれんげをくわえている方が稲尾一久。
 そして背を向けている方が長島茂雄。かのミスターと同じ名を持つ選手である。





 ・・・2人とも本当に野球選手にしておくには勿体ないルックスをしていた。





「邪魔して悪かったね。こっちも連れがいるから・・・・と、そうだ。紹介しよう」
「連れ?」





 その時、やっと探は後の2人を思いだした様に振り向く。
 取りあえず食券販売機で『醤油ラーメン』を3枚買っておいた新一は、店員にそれを渡しつつ探に近付いた。


 優雅に微笑いながら、探は新一の肩に手を乗せる。





「この人の事は知ってるだろう」
「く・・・工藤新一やんか! 探、お前の友達っちゅーんはマジやったんか!?」
「前からそう言ってる。いいから自己紹介くらいしてくれないか」
「あ、スマンスマン、稲尾一久や。よろしゅう」
「俺は長島茂雄。名前が名前なんで、シゲって呼んでくれると嬉しいな~」
「・・・どうも。工藤新一です」





 こういう時の呼び捨てには慣れっこだったから、さして表情を変えず新一は微笑む。


 それに確か彼らはひとつ年上。
 どんな時にも先輩には敬語を使うべしと、中学時代の部活動で叩き込まれている。





 ・・・だから新一は、探が『稲尾一久』に対して砕けた口調で話すことに驚いた。
 




 長島という彼にはいつもの丁寧過ぎる言葉使いなのに。
 稲尾という彼と探は付き合いが古いのだろうか・・・・・・?


 そう、思ってしまう。





「こっちの彼は黒羽快斗。特技はマジックで、人を騙すのが趣味」
「おい。誤解を生む言い方はやめやがれ」
「ほー・・・綺麗ドコロ連れとって羨ましい限りやな。どや、ココ座って一緒に食わへんか?」
「え?」
「・・・そう言われても」
「何で? いーじゃん席あいてんだし。遠慮すんなよ」





 探は速攻去ろうとしていたのだが、稲尾はともかく長島にニッコリと勧められては断り切れないらしい。
 新一と快斗に『どうだろうか』と伺いの目線を投げてきた。


 まあ、この店もだんだん混んできているし。
 座れるならまとめて座った方が状況的にも良いかなと判断したから、新一と快斗はそのまま空いている席に腰を下ろした。