White Lights 第5話

「白馬とは付き合い長いんですか」
「長いっちゅうか、親父同士が知り合いなんや」
「ほら。おぼっちゃん同士は結構繋がりあるから」





 次々と運び込まれてくるラーメンに箸をつけながら、彼らは会話を弾ませる。
 外は寒いが今は汗ばむほどに暑い。


 その時、新一はじっと自分を見る長島に気づいた。





「・・・何か付いてますか?」
「いや~ 本当に綺麗な顔してんだなあと思って」
「は?」
「それに黒羽君も。同じ大学だって? それじゃー オンナノコとか寄ってきて大変じゃない? 並んでるとアイドルユニットみたいじゃん」
「えっと・・・まあその」





 興味津々という表情で語りかけてくる彼に、ちょっと戸惑う。
 けれどもその言葉に嫌味さは感じられないから、快斗と新一は顔を見合わせ困ったように照れた。


 何はともあれ、モテるのは事実だ。





「いいだろう? 彼らと歩くと両手に花でね」
「・・・おい。心にも無いことを言うな」
「本心なんだけどな。工藤君は当然として君もなかなか見られる顔だし」
「バカにしてんのか!?」
「まあ・・・こんな顔してると、良い事も悪い事もそれなりに有りますけど」





 優雅な微笑みでとんでもない事を言う探に、快斗はぎょっとする。
 とりあえず新一は当たり障りの無い返事を返すと、スープを飲んでいたれんげを置いた。


 ふう、と一息。
 見ると他のみんなも殆ど食べ終わっていた。





「とりあえず出る? なんか待ってる人もいるし」
「そやな」
「快斗、どうだった?」
「美味かったよ。醤油なのに、なんか味噌っぽくてさ」
「確かに。特にスープが気に入りました」
「良かった。連れて来た甲斐がある」





 出入り口付近に視線をやった長島がそう言うと、稲尾も同意する。
 お昼を過ぎても絶えない人の列に、新一達も席を立った。


 外は相変わらずの冷たい風。
 でも、今の彼らには気持ちの良い風だった。





「これからどうする? 俺ら取材なんだよな~ 残念。何もなかったら、もうちょっと遊べたのに」
「今度改めて会いましょう。暫く日本にいますし」
「お前はともかく、工藤君と黒羽君にはまた会いたいもんや」





 稲尾は快斗と新一を交互に見ると、微笑う。
 そして新一も彼を上から下まで見た。


 確かに良い男だ。
 野球選手だけあっていい身体をしているし、探と肩を並べるほど背も高い。


 極めつけは適度に甘ったるい関西弁だろうか。





 ・・・・知っている関西弁とは違う響きに、何故か新一は目を細めた。






「コレ俺のアドレス。良かったらメールしてな」
「あ、はい」
「・・・今度、探には内緒でウチに2人で遊びに来てや? 歓迎するで~」
「へ?」
「住んどるの大阪の寝屋川なんや。色々案内したるし」





 すると稲尾は新一と快斗にコッソリと名刺のようなカードを渡した。
 それには氏名と、アドレスが明記されている。







 ・・・・・・寝屋川・・・?

 確か、服部の家もそうだったよな―――――・・・







 彼が大阪の人間だからだろうか。
 さっきから思い出される友人の存在に、新一はまた目を伏せた。









「なんつーか・・・えらい色男だったな」
「ああ。稲尾さんはともかく、長島さんは野球やってる人に見えないし」
「驚かせてすみません。僕もまさか此処で彼らに会うとは」





 ラーメン屋で会った二人の後姿が消えた事を確認し、彼らも歩き始めた。
 あまりにも強烈な出会いだったので、新一や快斗はちょっと放心状態だ。





「最後に何か言われてたみたいですが・・・」
「ああ、家に遊びに来いとか何とか」
「お前に内緒にしろってさ」
「・・・まったく。一久は相変わらずだな」





 探は深く息を付く。
 でもその表情には久しぶりに会えた友人に対する『思い』が感じられたから、2人は顔を見合わせて微笑った。





ひとくぎり








「ええと・・・確か米花駅いうてたな」





 代々木駅前。
 吹きすさぶ風に肩をすくめ、沖田総司は路線図を眺めていた。


 既に夕暮れ。
 知り合いの子に一日剣道の稽古をつけてきた彼は、もうひとつの目的の為に米花駅を目指している。





「せやけど見つかるんかなあ~。そういや俺、彼の顔しかしらへんな・・・・住所くらい調べてくるんやった」





 でも、まあ何とかなるやろ。と深く考えもせずに切符を買う。
 それにしても東京は寒いなあと被っている帽子を耳まで深くすると、総司はタイミング良く入ってきた電車に乗り込んだ。






ひとくぎり

 




「新一どうした?」
「わり、駅前の本屋、欲しい新刊出てんのすっかり忘れてた。ちょっと行って来る」
「え~ 俺も行く!」
「白馬来てるんだぞ。すぐ帰ってくるからお前は残ってろ」





 ラーメンを食べた後、彼らは米花シティービルで少し買い物をして工藤邸に帰ってきた。
 夜は外に食べに行こうと思っていたが、探が『工藤君の手料理が食べたい』なんて事を言ったもんだから、帰り道は3人とも食料品の袋を手にぶら下げての帰宅だ。


 そうして玄関に着いた時、新一が『あ!』と小さく叫んだから快斗は聞いたのだ。





「僕なら構いませんが・・・・」
「構う。いいな、快斗」
「・・・解ったよ」





 最初から新一に勝てるとは思ってない。
 それでもいつもはもう少し食い下がってみるのだが、この時の彼の表情はどこか自分を寄せ付けない雰囲気があったから、快斗は大人しく言う事を聞いた。









 ・・・・やがて静かに扉の閉まる音。


 探も気づいたのか、小さく声を出した。






「どうかしたのか、工藤君」
「うーん・・・」
「顔色も少し悪そうだし―――――――・・・言うと『大丈夫』と返されてしまうから言わなかったが」
「何だ。やっぱお前も気づいてたんだ」





 リビングに入ってコートを脱ぐ二人。
 快斗は暖房のスイッチを押すと、ぱたぱたとキッチンへと移動する。


 ・・・探はそんな彼の後姿をぼんやりと見ながらソファへ座った。







「君にも原因は解らないのか」
「いつもはそれなりに・・・・でも今日のは全く。けど」
「けど?」
「本人にしか理解出来ない悩みは自分で解決しなきゃなんねえだろ。だから、あいつから何か言ってこない限り俺からは何も聞かないし、何もしない」
「・・・・へえ」







 快斗は二つのカップを手に持ちリビングに戻ってくる。
 『インスタントじゃ口にあわねーかもしんねーけど、新一んトコのはけっこー 美味いぜ』と、ひとつを探に渡した。


 珈琲が好きな新一は、実は日本や海外から色々と取り寄せている。
 案の定、こんなに香りも味も良いインスタントは初めてだと、探は心底驚きつつ口を付けていた。



 ・・・と。
 突然、目の前の男が微笑いだすから快斗はぎょっとする。





「な、なに微笑ってやがんだ? 気色悪りい」
「いや、すまない――――――・・・君達は本当に仲が良いなと思ってね」
「・・・馬鹿にしてんのか」
「まさか。羨ましいよ」
「羨ましい?」
「上っ面だけの『友達』じゃないからさ。君も、工藤君も・・・・・・互いに本当に大事なんだって解る」
「・・・へ」
「そんな相手に巡り会うなんて奇跡に近い確率だ。だから、羨ましいと言ったんだ」







 探は遠くを見ていた。
 視線は湯気に向かい、その向こうの快斗を視界に入れていたけど遠くを見ていた。





 白馬警視総監のひとり息子。
 幼い頃から英国で育ち、現在は日本と海外を行き来する生活。

 ・・・社交的で誰にでも優しく。
 でも、間違った事には容赦なく厳しい白馬探。





 そういえば――――――・・・親しい人間の話を彼の口から聞いたことなんてない。
 それどころか、高校で出会ってからただの一度も日常会話をしたことなんかなかったのだ・・・・・・



 今日、こうして再会するまで。







「い・・・いねえのか? お前には」
「ん?」
「その、だから・・・・・・俺と新一みたいな・・・」
「いないよ。残念だけどね」
「・・・・」
「でも一久みたいな友人なら数人いるな。一緒にいて楽しいというか、会話のテンポもリズムも合うから楽でいい―――――――・・・それでも君達みたいな関係とは違うだろう? なんていうのかな・・・魂で解り合う相手って、ある意味『恋人』よりも深い絆だ」







 そうして探は快斗を直視した。
 





 綺麗な琥珀色の瞳。
 『怪盗キッド』の時に見せてくる、あの鋭い視線。





 ・・・何度も何度も『快斗』を『キッド』だと疑ってきたあの視線。

 




 しかしやがて探は自嘲気味に微笑った。
 訳の解らないその彼に、快斗はつい話し掛ける。









「な・・・なに」
「・・・どうやら工藤君の策略に引っかかったのかもしれないな」
「え?」
「黒羽君。僕は今まで君を毛嫌いしてきた。もちろん理由は解っているだろうが」
「ま、まあそりゃ・・・」
「しかしその要素を抜きにして、『君』という個人に興味がわいた。これから、そのつもりで宜しく」
「は? そのつもりって、どんなつもりだよ」
「この珈琲ほんとうに美味いな。お代わり、あるかい?」







 ・・・・そうしたら聞こえてきたとんでもない言葉。

 だから、ニッコリと微笑む探の前で快斗はしばらく呆然としてしまった。






ひとくぎり







 総司は米花駅に到着した。
 のは良いが・・・・・・東口なのか西口なのか、降り口すら解らない。







「やっぱ事前準備もせんで来るのはアホやな」







 夕闇が下りている空を見つめ、冷たい風に肩を竦ませると大きく息を付く。


 時計を見ると17時。
 とにかく、どこかで暖かいもんを飲みながら考えよう・・・・・・と、視線の先にあったスターバックスに向かった。

 



 
 その頃、新一は欲しかった新刊が手に入って上機嫌。
 このまま家に戻ろうと思っていたのだが、帰れば客人がいるし、読む時間もないな―――――・・・と考え、少しだけでも読もうと思い向かいのスターバックスに向かった。

 
 それに。
 実はと言うと、ちょっと頭を冷やしたいのもある。


 快斗と探の『見えない何か』が気に掛かりすぎて、あの家にまだ戻りたくないのだ。









 ・・・・・自分から白馬のやつ誘って、快斗に会わせたのにな。
 









 訳の解らない感情。
 これは嫉妬だろうか?





 でも、ちょっと違う気もする―――――・・・・・・








 と。
 そんな事を考えていた時、スターバックスの硝子窓から何やら視線を感じて顔を上げた。







「へ・・・?」
『っ!?』







 視線が合った。
 硝子に面したシーティングスペースに座っている一人の男と、目が合った。





 ・・・・向こうも驚いたらしく目を見開いている。





 それはまた・・・・・・『工藤新一にとても良く似た顔を持つ男』だった。










ひとくぎり

 








 総司は驚いた。
 まさか、探していた本人が向こうからやってくるとは思わなかった。




 最初は『えらいスタイル良いにーちゃんやなあ』と思った。

 向かいの本屋から出て来たのは・・・・・・
 本当に普通にジーンズをはいてダッフルコートを着てマフラーを巻いている、ちょっと綺麗目な男にしか見えなかったからだ。





 しかしその男がこっちに向かってくると、段々と顔もハッキリ見えてくる。
 するとそれがあの『工藤新一』だと解って驚いた。


 ・・・そして向こうもココに向かっているのだと知り、更に驚く。
 総司は『えらいこっちゃ!!』と慌てていると彼が顔を上げ、目が合ってしまったのだ。







 ――――――――――・・・こんなに早くチャンスが来るとはビックリやんか!!









 心臓が跳ねていた。
 予期せぬ出来事にばっくんばっくん状態で、カップを持つ手も震えてしまっていた。







 ・・・落ち着け俺!
 オンナノコに会う訳でもないのに、何ドキドキしてんねん!!









 それに同じ空間になるとは言え、別に話す訳でも何でも無いのだ。
 向こうは自分を知らないだろうし話し掛けられる理由もない。

 



 よーし。落ち着けや俺。


 今日はこうして実物見れただけでもオッケーつう事にしよう・・・・・・なんてぐるぐると頭の中で自分と会話していた時、読んでいた雑誌が手に引っかかって落ちてしまった。

 




 ・・・・それがまた運が良いのか悪いのか。



 気が付くと工藤新一は同じシーティングスペースのふたつ向こう隣に座ろうとしていて、雑誌はその彼の足元に落ちてしまっていた。