White Lights 第6話

「・・・あれ」
「へっ?」
「いや。どうぞ」
「あ、おおきに」





 自分のトレイを置いて、足下の雑誌を手に取る。
 すると新一は表紙に目を留めた。


 でも、すぐに総司に渡す。
 しかし何故か、新一はきょとんとした反応を返した。





「・・・・君、沖田くん?」
「え!?」
「俺に良く似た人間が剣道やってるって聞いてる。確か名前が、沖田総司」
「あ、そ・・・そうですけど」
「じゃあ服部から聞いてるか。俺、工藤新一。会えて嬉しいよ」
「~~っ!!!」





 にっこりと微笑い、手を差し出されたのだから総司は驚く。
 
 しかも考えを読まれている。
 自分が既に此処にいる『意味』が、バレているのだ。





 ・・・自分が落とした剣道の雑誌がキッカケか。

 それとも、硝子越しに目が合った時点で解っていたのか。
 どちらにしても。




 総司は噂通りの『工藤新一の洞察力』に感心した。





「で。ここで会ったのは偶然じゃないよね」
「あ、いやその、」
「・・・服部の様子がおかしい・・・とか?」
「!」
「やっぱり」




 簡単に挨拶を済ませ、新一は直接問いに入る。
 
 総司と自分との共通項は『服部平次』だ。
 わざわざ彼が会いに来るなんて、新一は他に理由が思い当たらなかった。

 


 ・・・ホットカフェオレの湯気を見つめる。





「ええと・・・」
「最近あんま連絡取ってなかったけど―――――・・・・・・和葉ちゃんが来るならまだしも、沖田君が登場するってのは・・・・・・どういう展開?」
「あ。いや俺も解らへんけど」
「え?」
「・・・工藤君が原因なのは確か、みたいや」
「俺・・・?」









 そうして総司は改めて新一を見た。

 


 肩がぶつかる程の、狭い距離。
 視界に入る彼の顔は・・・本当に自分と似ていた。

 けど。







 ・・・・・・似てるけど、全然違う。



 おんなしカオやのに、何や? こいつの綺麗さは―――――――・・・・・・  
 






 そら俺もイイ部類やろとは思うとったけど・・・

 ・・・・・・『工藤新一』ってのは、それ以上に『高級ブランド』や。









 仕草が違う。
 雰囲気も違う。


 造形が同じでも、まとうオーラの色が違うのだ。





 ・・・相手と似ている自分だからこそ解る『違い』だった。







「ああ。最近は会うたんびに溜息つかれとった」
「沖田君に?」
「・・・・ぱっと見、おんなし顔やからな」
「似てるけど違うだろ。別の人間なんだから・・・・・・あんにゃろ何考えてんだ。ごめん、わざわざ東京まで―――――・・・服部もイイ友達持って幸せだな」
「いや、俺は用事のついでに来てみただけなんや。それにまさか、会えるとか思うてなかったし」
「そうなのか?」





 目を丸くして自分を見る新一。
 そのひとつひとつの動作に、総司は何故かドギマギする。







 鏡を見ている様に同じ造り。
 決して『自分の顔に見惚れている』訳ではない。

 これが『工藤新一』。
 顔が良いとか悪いとか、そんなありきたりな言葉では表せない。





 ・・・・・圧倒的な存在感。
 





 不思議な人だ。

 そう、総司は思った。





「最近会うてないて言うてたけど・・・・・・」
「東京と大阪だからなあ。マメに連絡取り合ってる訳じゃねえし」
「・・・あ、そーなんや」
「俺もあいつも苦手なんだ、そーいうの。会えば気は合うし、楽しいんだけどね」
「ほんなら・・・服部とケンカしたとかや無いんやな?」
「・・・どうだろ。俺は『ない』と思ってるけど・・・・・・もしかしたら、アイツは何か気に触ってたのかも」







 新一は窓の外を見つめた。
 平次と最後に会った時の事を、思い出していた。





 あれはクリスマスイブ。
 快斗と一緒に、六本木ヒルズに来ていた夜。


 そこで服部に会って―――――・・・





 そうだ。


 ・・・・快斗は言ったんだ。









 『新一と俺。今、付き合ってっから。ちなみにもう晩飯も済んで、これから新一んち一緒に帰る所。だから、お前とはココで別れる』







「あ」
「何や? なんか思いだしたん?」
「そうだ・・・俺のこと気にくわないのは、当然だ」
「え?」
「だって、服部は・・・・」









 ・・・・服部は、快斗のことが好きなのだから。










ひとくぎり







「東京行っとるんですか?」





 その頃、服部邸。
 平次は自室で雑誌を読みながら、その表紙に写っている『沖田総司』の家へ電話を掛けていた。

 しかし。



『ええ、日曜の夜には戻る言うてましたけど』
「解りました。ほな、失礼します」







 携帯に出ないから、家に掛けてみたが居ないらしい。
 しかも、東京へ行っているらしい。

 平次はベッドに寝転がると、天井を見上げた。





「東京か・・・」





 東京。

 それは平次に『新一』を連想させる地名だ。
 クリスマス以来会っていないが、元気だろうか?







「・・・・・・」







 解ってる。
 気になるなら、自分から連絡してみればいいのだ。


 別にケンカしている訳でもない。
 でも。





「あああ~~!!! こないに女々しかったんか俺・・・・・・」







 あの日、工藤新一は想いを叶えただろう。
 黒羽快斗の本当の気持ちを知っただろう。


 一目会った時から呼び合っていた魂。
 それがひとつになるのは、本当に時間の問題だと思っていた。







 ・・・あれからひと月。







「工藤・・・・・」







 音に出さずとも、その名に合わせて口唇を動かすだけで鼓動は逸る。
 どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。
 
 しかも男だ。
 どんなに顔が綺麗でも、自分と同じ性を持っている。







 こんな感情を持ったって―――――・・・・・・未来のない想いは辛いだけなのに。
 なのに。


 そう思えば思うほど、反比例して気持ちは募るばかり。







「・・・・え?」





 その時、小さく鳴った携帯の音。
 ある特定の人に設定してあるメロディが、平次の耳に届いた。


 今年になって初めて奏でたそれに驚く。
 相手は、もちろん新一。






「なんやろ・・・・」





 怖い気持ちと嬉しい感情が入り交じり、手が震えた。
 平次はゆっくりボタンを押す。





 ・・・そしてその文面に、瞬間息を止めた。








よう。元気か?

今日、沖田って奴に会ったぜ。
お前心配してわざわざ京都から来たみたいだ。
 
話さなきゃとは思ってた。
週末、大阪に行くから会えないか?
用があるなら諦めるから、返事くれ。

それじゃ。







「お、沖田が工藤に会うたんか!? 何でじゃ??」





 突然の事実に、携帯に向かって平次は叫ぶ。
 そしてその文面を何度も読み返した。





 工藤が、来る?
 沖田のやつ、何をどこまで言うたんや~~???





 ・・・ちゅうか・・・・・ど、どないしよ・・・・・







 返事はもちろん『YES』に決まっている。
 しかし、新一が話したい内容も見当が付くから手放しに喜べない。


 でもこれはチャンスだ。
 平次は大きく深呼吸をすると、ゆっくりと返信を打ち始めた。







ひとくぎり







「なんの用事?」
「・・・快斗」
「服部に何の用があるんだよ。わざわざ、大阪まで行くなんて」





 その夜。
 新一は大阪行きについて平次と電話をしていたのだが、終わった所に快斗が部屋に入ってきた。


 ・・・どうやら話し声を聞いていたらしい。





「お前が心配するような事じゃねえよ」
「どうだか。新一は無自覚だからな」
「―――――・・・おい」
「行くなよ」
「快斗、俺はちゃんとあいつに話してくるだけだ」
「それが駄目なんだよ。何で解んないかな」





 静かな口調に、新一は言葉に詰まる。
 快斗は深刻な表情をしていた。





 仕方のないことだった。
 平次が新一を好きという事実は、快斗は気付いているが新一本人は気付いていない。


 未だに『平次は快斗が好き』だと信じ込んでいる。
 だからこそ、新一も深く考えず大阪へ行こうとしているのだが・・・・



 快斗にとって今、それは何より避けたい事だった。  
 何故なら。





「朝行ってその日には帰って来るよ。そうだ、夕方どこかで待ち合わせして映画でも観ようぜ」
「・・・・新一」
「ほら白馬が変に思うぞ。下行って、ワイン飲もう」





 この綺麗な名探偵は―――――・・・
 自分の事を『その言葉通り大事な人間』としか、思ってくれてない事実を知ったからだ。







 あのイヴの日。
 想いが通じ合ったと感じた、あの夜。


 触れた口唇。
 それは甘く切なく、快斗の心を溶かしたけれど。





 ・・・・新一はそれ以上の行為を求める事もなく、眠りについてしまったのだから。