keep silent






 もう3月も終わりだというのに、肌寒さが厳しい。

 窓の外は嵐の様に吹き荒れ、ごうごうと、それは耳にまとわりつく。





 ・・・・暖房器具は、まだまだしまえない。










「なあ新一・・・お前、身体の方は大丈夫なのか?」

「何だよ、突然」










 黒羽快斗。

 少し赤みがかったくせっ毛から覗く、意志の鋭い眼差しが問いかける。



 対するは、工藤新一。

 目の前の男と良く似た、強い光が快斗を捕らえる。





 コタツに向かい合わせの、2人。

 お互いが、手元に暖かい珈琲を持って。








「俺の心配より、お前はどうなんだよ」

「俺?」

「まだ、かかりそうなのか」








 ・・・何が?とは言わない。

 聞かない。





 解っている。

 それはお互い、暗黙の了解事。








 『探偵』である工藤新一。



 そして、

 『怪盗』である黒羽快斗の――――・・・・

















 命の石。パンドラ。



 『ボレー彗星近づく時、命の石を満月に捧げよ。さすれば、涙を流さん』






 ・・・不老不死が得られると言われている、『パンドラ』。

 それを付け狙う黒幕に、殺された父親。


















「快斗?」






 気が付くと、新一がさっきとは違う目で覗き込んでいた。

 それは『心配』を宿した視線。





 沈着冷静と一般的に称される工藤新一。

 頭に立てた方程式を、正確に論理的に口唇から紡ぎ出す言葉は、廻りを確かな説得力で圧倒する威力を持つ。





 ・・・でも、こんな風にふとした時に見せる表情は・・・・

 気を許した人間にだけ見せる、特別なものだ。










「んん? 別に何でもねえよ。それより新一こそちゃんと検査受けてんだろうな。後遺症、無いとは限らないんだろ?」

「大丈夫だって。2年近く経つけど何ともねーし」












 子供の姿から、やっと元の身体に戻ったのが2年前。

 最初の頃は怠さや目眩、それこそしょっちゅう熱を出していたのだが・・・・・・



 それもここの所は、安定を保っている。









 新一は、既に数年前『コナン』だった頃にキッドに正体を見破られた。

 そして同時に助けられた。















 敵対する関係で有りながら、一番近い存在だと思った。





 ・・・何故なのだろう。





















「に、しても遅っせ~な。アイツ」

「雨降ってきちまったからな。バイクで苦労してんじゃねえのか?」

「ハラ減ったぞー! 服部!!」










 コタツの上に突っ伏して、快斗がもう1人の探偵の名を呼ぶ。










 服部平次。



 ・・・関西方面の仕事の時には良く聞いた、その名前。

 けれども実際に逢ったのは、あのコナンが新一だと知った夏の日よりも、もっと前の事だった。





 『面白い奴だな』と思ったら、後でそれが服部だと知ったのだ。

















「かーっっ!! 散々や!! 外、えっらい振りや!」

「あ、帰ってきた」

「おせーぞー。食いもん早く寄こせ~」








 その時、けたたましい音と共に平次が帰ってくる。

 息を切らし、メットと袋を放り投げた。



 ずんずんと、居間に辿り着く。








「お前らな~・・・・ぬくぬくしおって・・・」

「じゃんけんに負けたの、お前」

「そ。早くしろよ~ ハラ減って死にそ~」

「あーもう! サラウンドで喚くなっちゅーんじゃ!」











 今日は、服部のマンションで飲もう大会。

 悪酔いしない為に、まず『食おう』という事になったのだ。



 天気が悪く、コンビニも歩けば15分はかかる位置。

 ・・・そこで、じゃんけんによって買い出しを決めたのである。










「ぴーぴー言うとる暇あったら、手伝えや」

「寒い。出たくねえ」

「同じく」

「―――――・・・・・カレイの煮付けにしたろか?」

「ひでえっ!」

「服部・・・・つべこべ言わねーでさっさと作れ」








 じろり。



 その新一のひと睨みに、平次は弱い。

 昔から、この視線に勝てた試しが何故か無いのだ。






 平次は大人しく台所に向かうと、溜め息をつきながらキャベツをむいた。




























ひとくぎり



























 怪盗と、探偵2人。




 ・・・奇妙な、微妙な関係の3人。














 でも、一番落ち着く関係。






















 平次も知っている。



 黒羽快斗の正体が・・・『怪盗キッド』だということを知っている。












 ・・・・気付いたのは、東西名探偵ともに同時だった。



















 そして、『怪盗キッド』本人は・・・・
















 ――――――――――・・・・・何となく。



 この2人には正体がバレているだろうという事に、気付いている。




















 そして平次は覚えている。



 数年前。

 キッドが何故か宝石ではない『エッグ』を狙っていた事件よりも、前。








 ・・・とある『面白い』感じを受けた人間を、覚えている。











 それは、確かにこの「黒羽快斗」と同じ感覚の人間だった――――・・・




















 けど。



 それを快斗に話したことは、無い。


















「・・・・・気付かん方が、どうかしとるわ」














 いくら、変装の名人といっても。

 いくら声色を自由自在に変えられると言っても。









 人の持つ『雰囲気』が見抜けないようでは、『探偵』が務まるはずがない・・・














「西の服部をなめんなっちゅーねん」

「・・・・何ぼそぼそ言ってやがんだ?お前アタマでも打ったのか?」

「どわ! 工藤!?」






 喉が渇いたと水を飲みに来た新一。

 独り言をいう服部に、怪しげな視線を向ける。






「何でもあらへん! コレ、出来たで」

「お。じゃ持ってく」



























 ・・・・でも、探偵2人はまだ知らないフリ。


















 快斗の「捜し物」が見つかるまで。





『キッド』の役目が終わるまで。




















「黒羽! お前も箸とか持ってけ!」

「へ~い」































 ・・・・でも、例えそれが終わっても。









 俺たちは、変わらないけどな。










































Fin