8月の長い夜[01]






 ・・・・夏。





 20世紀、最後の夏。



























 それぞれの想い抱えた、熱い夏――――――――――・・・・・・・
































ひとくぎり





















「あぢ―――――――・・・・・」

「今日は38度まで行く言うとったで」

「マジ?・・・・昨日の仕事ん時もサイアクだったし・・・・・どうなってやがんだ地球は」









 今日も、憎らしいくらいの青い空。

 雲は縦に長く、日差しも半端じゃなく眩しい。



 運転席の服部平次はともかく、助手席の黒羽快斗。

 そして後部座席で悠々と足を伸ばしダレている工藤新一ら3人は、揃ってサングラス越しに視線を窓の外に向けた。




 ・・・・3つめの声の主は、自分にしか聞こえない音で呟く。










「服部~・・・・それで冷房最高か~?」

「おう。ガンガンや」

「全然効いてねぇぞ・・・・・」









 のっそりと。

 上体を起こしてシートの間から、エアコンの温度設定を見る。



 ・・・確かに、『最高』らしい。





 すると脇であからさまに「げー」という顔をした新一に、快斗が視線を向けた。






「新一。熱い暑い言ってると余計暑いから、あんま言うな」

「だってよ――――――あ。水分もうねぇや・・・・・・快斗、それくれ」

「ん? ああ」






 自分のペットボトルの中身が無い事に気付き、助手席のドリンクホルダーに入っている飲料水に目を向ける。

 手を伸ばしそれを取ると、少し残っていた中身を全て飲み干した。






「あ!! ばっかお前、全部飲むかフツー!?」

「・・・・ぬっるー」

「ぬくい珈琲か。不味そうやな~」







 からからと笑いながら運転を続ける平次。

 『あ。そや』と一人ごちたかと思ったら、ウインカーを出し曲がる。



 止まった先は、ガソリンスタンドだ。








「ついでに、冷たいもん補充しとこか」

「俺、トイレ」








 『レギュラー満タン』と注文し、平次と快斗はそれぞれ行動に出る。

 エンジンを止めてるから冷房もストップ。



 だから、新一もとりあえず外に出た。











「うっわ。強烈・・・・」








 もうすぐ日暮れだと言うのに、サングラス越しでもまだ眩しい。

 タバコを吸う気も起きないから、かなり体力も気力も奪われている。





 見上げれば、本当に真っ青な空。




















 ――――――・・・・・・・あの日もこんな空だったな・・・・・・・・・































ひとくぎり



































「・・・・なあなあ服部―――――・・・新一、どうしたんだよ」

「ん?」

「――――その顔は何か知ってんな・・・・」








 スタンド内の、自販機のある休憩所。

 回転率を上げるために冷房なんて入れないこの場所で、快斗は平次を捕まえる。



 サングラス越しに光を放ち、睨んで。










「・・・そう見えるか?」

「夏バテ・・・・じゃねぇだろ? もっと精神的な事だよな」

「俺も良くは知らんけど・・・この時期に何かあったみたいなんや。知り合うてから毎年こうやし」

「・・・・・そうか」















 快斗が新一と『直接に』出会ったのは、大学生になってからだ。



 ずっと『似たような雰囲気』を持つ空気を感じ・・・・・ある日、同じ敷地にある図書館ですれ違ったのが始まりで。










 ・・・・東の名探偵の、工藤新一。

 そしてそばに居た、西の服部平次。





『怪盗キッド』として数年前から世間を賑わせていた時、何度か体験した『感覚』。

それと全く同じ『空気』。



その、張本人。








 『キッド』として知っていた『工藤』。

 それがまさか同じ大学に居たとは、思ってもいなかった。




















『――――・・・あんたが、工藤新一?』

『・・・お前は?』

『黒羽快斗――――――・・・・ハジメマシテ、かな』

『クロバ・・・・? どっかで逢うたことあった気ぃすんねんけどな・・・・ちゃうか?』

『さぁな』










 館内の、中央よりのテーブルコーナー。

 そろそろ帰ろうかなと、『心理学』の分類棚に本を戻そうと手を伸ばした時に、背中に感じた気配。





 それは、どこか懐かしくもあり―――――・・・・気を抜けない感覚でもあったから。

 だから、快斗は振り向いた。
















・・・・・確か初めて対決した時は、何故か『子供』の姿で。

そのうち、その『子供らしからぬ行動力と言動』に興味を持って・・・・・





ある夏の日に――――――・・・・あの『工藤新一』がその『子供』の正体だと知って。

暫くその噂も聞かないなと思っていたら、突然入学した先でバッタリ会うとは。



















 ―――――――――・・・・『工藤新一』の姿だって事は、戻れたのか・・・・・・


















 眠りの小五郎の噂も。

 工藤新一の噂も聞かなくなって約1年・・・・・・



 自分も受験勉強で『キッド』としての活動を休止していた、ここ数ヶ月。





 ・・・・・そして大学に進学し、夏休みも終わっても未だ暑い日々にダレながら、涼みに来た図書館で。













 全然、まだ知り合いでも何でもなかったのに。

 その事実が、無性に嬉しかった。












『お前・・・・心理学興味あんの』

『へ・・・―――――ああ、ちょっとな』

『ここにも結構いい本あるけど、うちならもっと面白いのあるぜ』









 どうやら、快斗が手にしていた本が気になったらしい新一。

 身を乗り出し、話し掛けてくる。



 隣に居る色の黒い関西人は、『何言うとんねん! 時間無いで!?』としきりに腕を引っ張っている。

 どうやらこれから、何処かに行く途中の様だ。








『あ、そっか。悪い――――・・・っと、クロバ、だっけ? また今度な』

『いや。俺も今日は忙しいし』








 ひらひらとお互い手を振り、新一と平次は出口へ消える。

 快斗は大きく息をつき・・・棚に寄りかかった。














 ―――――――――・・・はー・・・・びっくり、した。


















 突然の、出逢い。

 自分と同じ空間に存在している、工藤新一。



 噂通りに、関西の探偵まで此処に進学してたなんて・・・・・












 ・・・・・・何だか、面白くなりそうな予感がした。


























 その夜、3人は再び出逢う。





 数ヶ月ぶりに予告状を出してきた『怪盗キッド』。

 そして、それを捕らえる為に応援要請を受けた「東西名探偵」・・・・・・・










 今まで独りで戦ってきた快斗にとって――――――――・・・・相反する位置にいるのに、何故かそれはとても心地よい付き合いの始まりだった。
































ひとくぎり



























「黒羽? 何しとんねん、行くで」

「ああ、俺タバコ買ってく。先行っといて」






 適当に飲み物を買い込んだ平次は、タバコ販売機の前で『んー』と悩む快斗を残してその場を去る。

 一歩外に出て、また容赦なく照りつける日差しに小さくため息を付き車へと向かった。



 快斗は、その平次をサングラス越しにちらと見る。
















 ―――――――・・・・やっぱり、読めねぇや・・・・・・・


















 仲良くなって、数年。

 新一とは既に、最初の数日で『新一』と『快斗』と呼び合う程になっているのに。



 あの関西の探偵とは、未だに『黒羽』と『服部』だ。







 自他共に認める、人見知りしない性格の自分なのに。

 それは平次独特の『雰囲気』が、それを許可しないように思えてならないからだった。










 ・・・・服部平次という人間は、見かけ通りの性格では決して無いのだ。














 能天気に見えて、かなり計算高いところがあり。

 無鉄砲に見えても、勝算が無い場面では絶対に動かない。



 お人好しかと思えば、冷酷な面も有り。

 逆に、とんでもない所で・・・・涙もろくもあった。









 住み慣れた大阪を離れ、東京に来た服部平次。

 『工藤新一を追っかけてきた』という怪しい噂が流れたが・・・・当たらずとも遠からず、という所だろう。



 『東』と『西と言われるだけあって、本当に対照的な2人の名探偵。

 お互いかなりその存在が刺激になっているのは、傍で見ていても明確なのだから。




















 ――――――――――・・・・・・・・だから、言えない。




















 この事を考えると、快斗は本当に嫌になるほど苦しくなる。










 自分のしている事。

 突き止めようとしている事。




 それは、世間一般には『犯罪』と呼ばれる行動が伴っていて・・・・・・・


















 ―――――――――・・・気付いてるかも・・・・知れねぇけどな。











 









 自嘲気味な微笑いは、サングラスに上手く隠れる。










 自分の本当の心を、見せる訳には――――――・・・聴かせる訳にはいかない。

 例え、既に正体がバレているとしても。









 気付かないフリを、してくれている間は。





























 ―――――――――・・・・まだお前らと一緒に居ても・・・・良いと思えるから。

































 ここまで気の合う『仲間』は、初めてで。







 普通じゃない『初対面』を体験して、普通の2回目の『初対面』を果たして。

 そうして今、大学生活の殆どを一緒に過ごしている『仲間』になって。



















 ・・・・・・俺が、『怪盗キッド』ではなく『黒羽快斗』に戻れる時間。



























「ちょっと。まだ? 早くしてくんない!?」

「ほえ?」







 後ろから急かす女の声がして、快斗は我に返る。

 慌てて買うと後ろに頭を下げ、そそくさとその場を離れた。






























ひとくぎり



























「快斗、おっそい!!」

「・・・・あれ? 俺が運転すんの?」

「早よせえ。スタンドのねーちゃん睨んどるで」








 見れば、次の車が待っている。

 さすがに夏休みだけあって混んでいる国道沿いだ。



 快斗は急いで乗り込み、アクセルを踏んだ。








 ・・・・・冷たい空気を感じ、ずれたサングラスを掛けなおす。












「ホントにあっち~・・・・アスファルトの照り返しで汗かいちまうよ・・・」

「買ってきたの飲めよ。ウーロンで良いんだよな」

「せんきゅ~」








 後部座席で悠々と足を伸ばしている平次に、目配せで新一は合図する。

 常備しているクーラーボックスからそれを出すと、プルトップを開け、ドリンクホルダーに入れてやった。








「おー。服部気が利くじゃん」

「当然や」

「俺にはもう1本アイスコーヒーくれ・・・・っかし早く涼しくなんねぇかな」










 右手を平次に向け、『くれくれ』と手をひらひらさせる。

 『お前飲み過ぎやで』と言いながらも、ご希望のものを手渡した。

















 ・・・・・とにかく、新一は暑さに弱い。







 サッカー・スキー・スケート・ダイビング・サーフィン・射撃その他一通りのスポーツを難なくこなす新一なのだが・・・・・どんなに身体を鍛えても、この『暑さ』だけは克服出来ないらしい。



 多分、汗があまり流れ出ない体質のせいだろう。

 それが身体に結構な負担を与えるのだ。








「なーんか・・・・道、混んできたぜ」

「工藤、なんか曲かけろや。FM、この時間つまらんわ」

「今何入ってたっけな・・・かけてみっか」






 音痴だが、それなりに曲は聴く新一。

 殆どは外国のものだが、最近邦楽にも興味を示しているらしかった。



 MDのプレイボタンを押す。







「TMやんか」

「うっわ。すっげー懐かしいな」










 かかっているのは、まさに今の季節に最適な「8月の長い夜」

 もう何年も前の曲だ。










 ・・・・・聴きながら、平次は目を閉じる。

















 そうや。8月や。

 あの夏の夜は―――――――・・・・・本当に、長い夜やったなあ・・・・・・



























ひとくぎり


























 ・・・・蝉が、うっとおしいくらい五月蝿い夜だった。

















 真夏の剣道の練習は、本当にキツくて。

 早く家に帰って風呂に飛び込みたい一心で、平次は足を速めていた。



 その時、ポケットの携帯が鳴った。






「何や・・・また呼び出しかいな」






 本来ならば高校生の分際で『携帯電話』なんて許してくれない父親。

 しかし自分が都合の悪い時が多々ある為、代わりに息子を現場にやるので持たせているのだ。



 支払いなどは親名義だから、通話記録などは事細かに書類が送られて来る。

 だから、平次が勝手に私用で使うなどという恐ろしい事は出来ない。





 まあ、まだ高校生で、親元で暮らしている身分でバイトをしている訳でも無いから・・・・道理は解るから、平次も何も言わない。

 だからこそ、この呼び出し音が父親か、はたまた警察関係者だと疑わなかったのだ。








「・・・・・はい」






 ため息交じりに、だるそうに応える。

 これから現場に直行しろ言われるんかな~ と、投げやりな態度で言葉を出したのだが・・・・






『服部? オレ』

「・・・へ・・」






 次に聞こえてきた声があまりにも聞き慣れない声だったから、驚いた。






「く、工藤??」

『久しぶり。』

「―――――――・・・・ホンマ、久々やな・・・身体の調子は、もうええんか?」

『お陰様でな』








 それは、東の名探偵である工藤新一の声。



 ・・・・・『コナン』ではない本当の、工藤新一の『声』だった。












「夏バテなんてしとらんやろな」

『んー。ちょっとソレっぽかったけど・・・・・・旨いもん食ったら元気でた。お前の母さん、ホント料理上手いな」

「――――・・・は?」






 瞬間、平次は返答に困ってしまう。

 この言い方はまるで・・・・






「・・・・工藤、お前今どこ居るんや?」

『お前んち。』

『平次!? あんたせっかく工藤くん来てはるんやから、早う戻りや!』

「なんや何や!? 展開が読めへんっちゅーねん!」








 確かに聴こえた『工藤新一』の声。

 そしてその後ろからの、聞き飽きた母親の声・・・・・



 来るなんて一言も聞いてなかったし、何より『元に戻ってからの工藤』とは実際に逢って話したことが無かったから、嬉しさよりも戸惑いの方がその時の平次には強く湧き上がる。






『・・・・・・突然、悪かったな』

「え、いや、そんな事あらへんて。あと15分くらいで着くし。待っとって」









 何となく、元気が無いと感じた。

 電源を切り坂道を登っている時も、変な胸騒ぎが止まらなかった。







 不快な風を押しのけ、平次は目指す一点の灯りを確認する。

 見上げても見えない月に・・・・少しの不安を抱いた。


































ひとくぎり



































「―――――・・・・相変わらず剣道やってんだな」










 『あんたの部屋に通しといたで』と母親に言われ、平次はそろっと襖を開けた。




 気配を感じ取っていたのか足音からか。

 新一は、視線を窓に向けたまま声をかけてくる。







「大会、最後やし。毎日キッツイで」

「でも楽しそうじゃん」

「まーなあ。好きやないと、やってられんわな」

「だろうな」






 スポーツバックを置き、汗で張り付くTシャツを一気に脱ぐ。

 タンスから着替えを取ると、『ちょお汗、流してくるわ』と逃げる様にその場を去った。

























 ・・・・・・何故か、緊張してしまう。














 平次は自分でも訳が解らなく、とにかく頭を冷やそうと蛇口をひねり考える。








 普通に。

 そう、今までどおり『普通』にすればいいのだ。



 ただ、それだけの事だ・・・・












 目の前に居るのは『工藤新一』。

 決して、『7歳の子供』ではない。





 ずっと、新聞や雑誌で世間を賑わせていた『高校生探偵』の『工藤新一』。

 その噂が忽然と消えたことに疑問を持ち、東京まで押しかけていった程に興味を示していた『相手』。












 今まで、2度ほど本来の彼の姿に逢った事がある。









 最初は、本当に『最初』で。

 2度目は去年の学園祭だった。




 ・・・・その時も少し違和感を感じたが、自分はすぐに大阪に帰ってしまって。

 その後の電話で、結局また「コナン」に戻ったことを聞かされ・・・



 そして今回、身体が元通りに戻ったと連絡を受けた時は、本当に良かったと思った。






 しかし、今までの様に行く先々で遭遇してきた事件にも何故か出会う事も無くなり。

 高校も3年となると進学問題で忙しくなってしまった。












 ・・・・何となく連絡も途絶えがちになっていたのである。


















「夏休みやから遊びに来たでっちゅー雰囲気ちゃうし・・・・」












 ・・・・・・誰かを頼るだなんて、多分自分のプライドが許さないだろう工藤新一。













 それが突然やって来たかと思うと、あんな表情で話し掛けてくるのだから。
























 だから余計に緊張するのだ。



 と。

 シャワーにうたれながら考えていたが、唐突に腹の音が鳴った。






「・・・・・・ま、後で聞きゃええか。上がってメシ食お」













 身体がスッキリした所で思い出した食欲。

 ひとつ大きな欠伸をすると、髪を洗い始めた。




























ひとくぎり





















 即効で夕飯を腹に納め、新一の待つ自室へ向かう。

 玄関の横の縁側をずっと行って、一番奥の突き当たり。



 そこが、平次の部屋だ。















「くーどお、待たせた――――――――・・・・」








 返事は無い。

 代わりに、机に突っ伏して眠る姿を見つける。



 ・・・ベッドがあればきっと其処に横になっているんだろうが。

 この部屋には、それが無い





 苦笑しながら、平次は押し入れから布団を取り出し敷く。

 そして、ひょいと今までのクセで新一の身体を持ち上げようとした。










「・・・・・・ん―――――――・・・わ、なな、何だよっ!?」

「へ・・・どわ!? そか、お前もうちゃうかったな! すす、すまんっ」










 自分の足と背中に、誰かの腕を感じて新一は目を覚ます。

 何が起こったのか直ぐには理解出来なかった。






「はあ?」

「お前『ちっさい工藤』ん時、よおこーやって運んどったから・・・・・・・・つい、クセでな。そーやった、もう元戻ったんやもんな。いっや~ 危ないとこやった!」










 そう。



 いくら頭脳は高校生でも、『江戸川コナン』は小学1年生の身体であった訳で。

 色々な部分で平次が『子供に対する扱い』を新一にしていたのは、事実だったのだ。





 だから、咄嗟に出てしまったこの行動。










「バーカ・・・・・・・俺、何されちゃうのかと思ったぜ」

「変な想像すな!」

「まーなあ・・・俺も暫く『コナン』の頃のクセ、抜けなかったからな。解るけど」

「何やねん。他にも何か言いたそうやな」










 じろっと。新一は平次を睨む。

 明らかにまだ何かを含んだ、物言いだ。












 こう見ると―――――――・・・・やっぱり目のあたりとか、そのまんまやなぁ・・・
















 初めてじっくり、新一の顔を眺める。

 今まで何度か元の姿にも逢ったが、その時はこんな余裕はまるで無かった。



 そして、改めて実感した。

 『工藤新一』は、本当に綺麗な顔をしている。








「――――――――・・・・お前さ。今何センチ?」

「は?」

「だから、身長だよ身長!」

「春の健康診断ん時は確か・・・・・177くらいやったかな」










 今、新一の目の前に立つ服部平次。

 以前は『コナン』だったから、見上げるのが当たり前だったけど。





 あの学園祭の時は確かに変わらなかった目線。



 それが今、少し自分が見上げる事実に・・・・・新一は少なからずショックを受けていた。














 確実に、時は流れていて。

 自分が子供に戻っている間、平次は成長期の真っ只中で・・・
















 ―――――――・・・・・・やっぱり、お前にはお前の時間がちゃんと流れてたんだよな。
























 服部・・・・・







 ・・・・俺は、ずっとお前に逢いたかった。







































 ――――――――――――・・・・・・・・・・お前は・・・・・?









 












「工藤?」

「―――――・・・ああ、わりぃボーっとした。ったく・・・・ちょっと見ねー間に勝手にでかくなりやがってよ~」

「何や拗ねとるん?」

「拗ねてねーよ!!」








 そういや、ちょっと目線が下かな・・・・と。

 言われて改めて平次は新一を見た。








「何だよ。ムカツクなー」

「工藤は・・・・そんくらいがええと思うねんけど? 気にすることないやん」

「・・・お前、蹴られたい?」

「え!? 何で??」








 平次はあくまでも素直な感想を言っただけ。





 小さい顔も、綺麗な肌も。

 程よく伸びたバランスのいい手足も、何処からどう見ても完璧なスタイルだと思うから。










 ・・・・・だから平次は、首を傾げる。








 しかしその姿がまた新一のカンに触ったらしく、ますます表情を硬くした。


















「もういい」

「機嫌悪いやっちゃなー。大体、突然どないしてん?」

「・・・・・別に。久々に大阪に来たくなっただけ」

「――――――・・・へぇ」

「パジャマ貸してくれ。眠い。もう寝る」

「おいおいおいおい!」















 こんな子供っぽいところは、『コナン』の時と変わっていない。

 少し、平次はホッとする。


















 ――――――――・・・なーんや。考えすぎやったかな・・・・・






 そーやな。

 工藤かて、俺とおんなし高校生なんやし・・・・・












 色々、悩みもあるやろけど――――――――――・・・・なや・・・み・・・・?

























 その時、平次は気付いた。













 ・・・・らしくない姿の意味。

 受験を控えた大事なこの時期の、突然の来訪―――――・・・








『高校生』が『小学生』としての生活を強いられ。

 真実を追い続ける事で・・・・・僅かな理性の均衡を保っていただろう、あの頃。














 自分だって、まだまだ子供だ。



 『高校生』は、まだまだ子供なのだ。



















 なのに・・・・俺はあの頃『普通の高校生活』を送っている自分を、見せ付けてはいなかったか?






















 どんな思いで、いつも俺と―――――――・・・・・・・



 ・・・・・それに。




















「―――――――・・・まだ9時やで? 寝んの早すぎ」

「他に何すんだよ」

「なにって・・・・・久々に逢うたんやから、夜通し話ししようや」

「・・・・・・」










 言葉が、止まる。

 新一の視線は平次から離れない。





 ――――――・・・・・上目遣いから、平次も逃れられない。






















「何か・・・・あったんか」

「・・・・ねぇよ」

「嘘ゆうな。せやから来たんやろ」

「ねえって言ってんだろ!? 何もねえと来ちゃいけねえのかよ!」








 静寂を破る、怒鳴り声。

 滅多な事では動じない『工藤新一』が、とにかく息を乱して。



 肩を・・・・大きく上下していた。










「ちょ、ちょお工藤?」

「悪かったよ。予告も無くやってきて―――――――・・・お前にだって、予定とかあっただろうし・・・でも、しょーがねえだろ・・・・・気が付いたら、なんかお前に逢いたくなっちまったんだから」

「・・・・へ」























 暑い夜だった。



 ・・・・・独りで、あの家に居たくなかった。






 蘭にも電話する気になれず、どうしていいか解らなかった――――――――・・・・・












『貴方に、人の生活踏みにじる権利なんかないわよ!』

『いい気になって、何様のつもりだ?』

『正義振りかざしてお前に何が解るっていうんだ!!』
















 ・・・・もう、聞き飽きた。



 慣れた。










 俺はただ真実を解き明かしたいだけだ・・・・・・


















 高校生に戻って、全てが丸く収まったはずだった。

 今までどおりの、日常が戻ってきたはずだった。



 いや、確かにそれは戻ってきたのだ。















 ・・・でも。

































 『殺されたのアイツの友達なんだってよ――――――・・・・・よく平気で推理できるよな』





































 ・・・・異常な夏だった。

 異常な、事件だった。



 今年の夏に数箇所で起こった、連続殺人事件。







 その殺された被害者の1人に――――――・・・・・・・新一の中学生時代の同級生が居たのだ。















 簡単な様に見えて、難航した事件。

 そこで新一が応援要請を受け、先程発見された被害者のリストを見せてもらって知ったその事実。



 程なくして解決したが、現場検証の時の野次馬から聴こえてきた『声』。



















 ・・・帰ってきてベッドに突っ伏した新一。



 あの時の声は・・・・暫く頭から離れることは無かった。






















 ・・・・もう、聞き飽きた。



 慣れた。



















 ―――――――――――・・・・・誰か、この思いが解ってくれる相手が欲しかった。



























 平気な訳が、無い。





 ・・・いくら違う高校に行ったからと言って、昔同じサッカー部で過ごした仲間だ。

 この前だって、逢って昔話で盛り上がったばかりだったのだ・・・・・








 犯人を捕まえたって、あいつは戻ってこない。

 そんな事くらい、解りすぎるほどに解ってる。





 今まで数々の事件をみてきて、色々な人間を見てきて。
















 無くなった存在は2度と戻って来ない事くらい―――――――・・・・解ってる。





























 ・・・・そんな真夜中、ふと考えてしまったのだ。


























『・・・・服部も・・・・・・・・こんな思いした事あんのかな』

























 元に戻ってから約1年。

 大変だったけど、楽しくもあった「コナン」の頃。



 次から次へと・・・・・蘇る記憶。














 だから、新一は次の日新幹線に飛び乗ってしまったのだ――――――――・・・・・

































 静寂の戻った空気。

 平次はあぐらをかいて座る。



 新一は、自分の口走った言葉に真っ赤になっていた。








「・・・・・言っとっけど、変な意味じゃねぇからな!」

「工藤・・・・」

「何だよ!?」








 気恥ずかしさから、つい怒鳴り口調になる。

 しかし平次は真面目な表情だ。











「めっちゃ嬉しいわ、俺」

「ちょ、そんなマジ顔で返すな! よけい恥ずかしっだろ!?」

「―――――・・・・・なんとなく、こんまま逢えへんままかな――って・・・思うとったんや。せやから工藤が来てくれて嬉しい」

「え・・・何で」






 嬉しいと言いながらも沈んだ調子に、逆に新一が問う。

 やけに大人びた目をして、平次は続けた。












「お前がちっさくされとった頃・・・・俺、なーんも気遣うこともせんかった。『元に戻りたい』思うお前ん前で、平気で高校生活さらけ出しとった――――――・・・・・せやから、いざ元に戻った工藤にどう接してええんか解らんかったんや」









 数瞬間の沈黙。



 ・・・・新一は、微笑った。










「何や?? 人が正直に話とんのに失礼なやっちゃな!!」

「わりわり。ちょっと照れちまって・・・・・・なーんだ。そっか~・・・・・・俺たち、両思いなんじゃん。心配してソンしたな」










 2人は顔を見合わせる。







 そうして・・・・・・今度は身体中で笑った。






































ひとくぎり





























 ―――――――・・・・でも、結局平次はあの時『新一を大阪に来させたきっかけ』について聞き出す事は出来なかった。








 ただ、あれから夏になると目に付く憂いの表情。

 聞いた所で何が出来る訳でもないから、平次もただ見守るしかなかった。






 その後、平次が東京に進学するつもりだと新一は聞かされ驚く。

 そして其処が、自分が第1志望にしている大学と知って、また驚いた。





 そのあと2人は、お互い行き来する事も多くなり。
















 ・・・・・春、めでたく現役合格の運びとなったのである。