必要な存在



 どんなに深く、想っていても。

 どんなに心で叫んでも。



















 ・・・・・・・・・自分が考えている通りには、相手には伝わらない。

























 見返りを期待してはいけない。



 報酬を、望んではいけない。





















 ―――――――・・・人は、生まれる時も死ぬ時も。









 結局「独り」でしかないのだ・・・・・
























ひとくぎり





















「まるで人は『死ぬために生きる』みたいやな」

「実際そうだろ」

「そんなに人間は信用出来んか」

「・・・・そうじゃなくて」











 疲れきった横顔。

 ひと仕事終えて、黒羽快斗が向かった先。



 それは服部平次の部屋だった。











 蒸し暑い夜。

 夏には不向きな白装束を脱ぎ捨て、汗を洗い流させてもらう。



 そして髪を拭きながらリビングに戻る。

 其処には、ビール片手の平次。













「機嫌悪いやんか。せやからこっちか」

「ご名答」

「・・・別に、工藤にそんなカオ見せてもええと思うねんけどな」

「新一に心配はかけたくねえ」











 今日の仕事も収穫は無かった。





 探し求めるものは、本当に存在するのだろうか?

 『命の石』なんてものは・・・・・・・幻ではないのか?








 ・・・・・・・苛立ちが、最近強くなってきている。























「ま。コレ飲んでちょお落ち着けや」

「・・・・ああ、悪い」

















 平次はビールを渡す。

 そうして、ぱたぱたとウチワで仰いでやった。



















 ・・・ぬるいけど、ふわっと気持ちが楽になる。























 いつの頃からだろう。

 快斗は、自分が少し気が立っている時に、此処に来る事が多くなった。



 知ってて、何も言わずに居てくれる探偵。

 それに甘えてしまっている自分。

















「俺には心配かけてもかまへんのか」

「・・・そういう訳じゃねえけど」

「ホンマに、お前ら2人は似とるわ」



















 ぽかんと。

 ビール越しに、快斗は平次を見る。



















「何や」

「・・・いや、別に」


















 だからか・・・・

 快斗は、妙な納得を感じた。













 新一には見せられなくても、平次には見せてしまうもの。

 自分の、『弱さ』。



 ずっと・・・何でだろうと考えていた。

 多分、平次の待つ特有の『雰囲気』が原因。





















 ――――――――・・・だから新一は、こいつを手放さないんだな。

























 多分、色々なことを見過ぎていて。

 人間の本質を、ありありと見せ付けられる場面に関わりすぎて。



 思っているより、自分に負担がかかっていて。

 それでも、狂わずにいられたのは・・・・

















「・・・・・・アイツも、そんなタイプの人間なのかな」

「は?」

「何でもねえ。それより新一、大事にしろよ。お前が怪我すると必ず俺んトコ来るんだ――――――――――・・・・・・全く、見てらんねーカオしてさ」





















 普段快斗の前では平次に対して憎まれ口をたたく新一。

 ・・・・推理に夢中になり、何度も危ない目にも遭ってきた新一。



 そのフォローは、殆ど平次がしてきたと言っても過言ではない。













 ・・・・1年程前、平次は新一を庇って背中に怪我をした事があった。

 それは結構、深かったらしく。



 救急車で病院に運ばれ・・・・
 手術室の明かりが消えるまで、新一は決して扉の前から動こうとはしなかった。























『・・・新一・・・・・』















 視線は、ずっと上の明かり。

 ふとした時に覗く・・・・気弱な表情。

















 ――――――――・・・・快斗は、それ以上何も言う事が出来なかった。























「ごちそーさん。さて、帰っかなー」

「帰るやと? お前来る思とったから、オンナ断っとんねん。付き合えや」

「・・・・・その通りだ。帰らせねぇ」

「え? ・・・・・って、どわ! ししし、新一、居たのか? ひっでー! 悪趣味!!」















 真っ赤な顔をしながら、工藤新一が顔を出す。

 隣の部屋から出るタイミングを計っていたらしい。



 平次は、笑いが止まらない。












「・・・・笑ってんじゃねえ服部」

「んっとに性格悪いな! お前ほんとに探偵か!?」

「ええやんか。『相思相愛』・・・・・・・・羨ましい限りやな~」



















 2人が真っ赤な顔をして。

 平次に蹴りとパンチをお見舞いしたのは、言うまでもない。




























ひとくぎり



























 どんなに深く、想っていても。

 ・・・どんなに心で叫んでも。



















 自分が考えている通りには、相手には上手く伝わらない。



















 そして・・・伝わっていなかったと。

 後で知った時の『衝撃』は―――――・・・・・体験したものでないと、解らない。























 それはでも、違う人間同士なんだから仕方の無い事だ。

 ―――――・・・人は生まれるときも死ぬときも『ひとり』でしかない。



 でも、だから。























 限りある時間の中で。



 出逢いの確率の、中で。

























 別の『誰か』を、探し求めてるのかもしれない――――――――・・・・・




































Fin