彼らしくない原因







「あー・・・・やっぱ見えねーなぁ」

「東京じゃ無理じゃねーの?」

「無理かあ・・・」













 工藤邸。

 客間のベランダ。



 ワイン片手に、手すりにうな垂れるのは工藤新一。













「晴れてんだぜ? 確かに、あそこに星は在るんだぜ? なのに、どうして見えないんだろうなぁ・・・」

「何でって・・・そりゃ、ネオンの方が光が強いからだろ」

















 快斗は、目を見開く。

 東の名探偵とあろうものが、こんな簡単なことが解らない筈がない。



 ・・・たった一杯のワインで酔っているのだろうか。











 新一は、ずっと遠くに視線を向けている。





























「あ。白馬だ」

「ん?」



















 ふと、下を見る。

 そこには白馬探が居た。





















「おい! 持って来たんだろーなあ!?」















 その声に気付いた探は、『しーっ』というポーズを快斗に向ける。

 こんな夜中に大声を出すものではない。



 快斗は、『はははは』と苦笑いをした。















 やがて部屋に探は入ってくる。

 手に、高そうなワインを持って。





















「・・・全く。恥ずかしい人だな相変わらず」

「うっさい。よこせ」

「まだ駄目だ。後1人、来ていない」

「服部なんて待たなくて平気だ。飲んじまお~ぜ~」

「工藤君・・・・もう出来上がってるんですか」

















 呆れた顔をして、探もベランダに寄りかかる。

 その腕をひっぱり快斗が耳打ちした。



















「―――――・・・なんか、おっかしーんだアイツ」

「確かに、らしくない」

「さっきからボーっと空見ちゃったりしてさ~」















 そう言ってまた新一に視線を向ける。

 すると、ボトルからまたグラスに注いでいた。



 慌てて快斗は止める。

















「おいおい新一、お前ピッチ早すぎだぞ」

「平気だって~」















 快斗の手を振り切り、結局飲み干した新一。

 整っている顔が赤みを帯び、だるそうにその場に座り込んだ。













「どこが平気なんだか・・・・あ、服部だ」

「はっとり~?」

「確かに、あの排気音は彼のバイク・・・・・・・」















 この音を聞いただけで3人には解る。

 服部平次の愛車の、これは排気音。



 音が止み暫くすると、足音と共に部屋の扉が開いた。















「すまん! 遅れた!!」

「おっせーよ・・・・・・・・見ろ。新一先につぶれちまったぞ」

「へ?」















 息を切らしベランダに駆け寄る。

 そして、まだ座り込んだままの新一を見た。

















「おー。やっと来たな」

「・・・・工藤?」

「んで? 土産は持って来たんだろうな」

「ああ・・・・・・・とっときの冷酒・・・・・って、ちゃーう!! アホ!」

「お、おい服部?」

















 いきなり怒鳴りだした平次に2人は驚く。

 そして振り向き、溜息を付いた。





















「こいつ・・・・・・熱、あるで」

「ええ!?」


























ひとくぎり

























 ベッドに運び、布団をかける。

 そして体温計を見て・・・平次はまた息を付いた。













「38度や」

「うっそ・・・・全然気付かなかった」

「彼らしいと言うか、何というか」















 快斗が心配そうに覗き込む。

 だが新一は苦しそうというよりは・・・・・・酔っているから気持ち良さそうだ。





 でも、確かに汗の出方は風邪のもの。















「まあ、お前らに心配かけたく無かったんやろ。酔うて、熱を誤魔化そ思たんや」

「・・・・・平気だっつってんだろ・・・・大げさ、なんだよ・・・」

















 新一は目を閉じる。

 仲間に囲まれて寝込むなんて・・・・恥ずかしいことこの上ない。

















「まー。俺らは勝手に飲むし。寝とれ」

「何だと!?」

「そーだな。新一には悪いけど・・・・・・飲むか」

「おい、快斗?」

「賛成ですね。その為に、今日は集まってるんですし」

「は、白馬?」











 そう。



 今日は、七夕と銘打って・・・単なる飲み会。

 空でも眺めながら、一杯いこうかという企画だったのだ。



 3人は、新一を囲みニヤリと微笑う。

 そしてベランダに移動した。





















「んだよ・・・・ちくしょー・・・・・」

















 呟き、咳き込む新一。

 何だかホントに苦しくなってきて・・・そのままフテ寝した。




























ひとくぎり























「ったく・・・・・腹立つよな・・・・」

「そこが工藤なんやから、許したり」

「違うっつの! お前だお前!!」

「俺?」





















 ・・・新一の異常に気付いたのは、自分でも白馬でもない・・・・・この服部。

 だから、快斗は腹が立つ。



















「まあまあ、気にしない。この人のは単なる嫉妬ですから」

「白馬! お前一言うるさいよ!」

「はいはい。さ、飲みましょう服部君」

「お。美味そうやな~」













 ベランダで、酒盛りを続ける3人。

 そして新一はと言うと―――――・・・いつの間にか眠ってしまったようだった。



















「新一の寝顔、かわい~な~」

「・・・・あれ。何や白馬そのボトル?」

「もともと工藤君にあげようと持って来たものですからね」

「奇遇やな~。俺もや」

















 丸くなって寝ている新一。

 その周りに、3人は椅子を運んできて座る。



 起こさないよう、声は静かに・・・・















 平次と探が、隠し持っていた酒とワイン。

 製造年は違えど、日付は偶然にも『5月4日』のものだった。









 ・・・・面白くないのは、快斗だ。





















「はー・・・・なんだよ。てめーらだけで盛り上がってよ・・・」

「拗ねる前に、その手のボトルも見てみいや」

「へ・・・」













 言われて、快斗は手元の冷酒のラベルを見る。

 ・・・・そして。



















「・・・・・もしかして。今まで飲んでたの全部」

「そうですよ。みんなの生誕記念日です」

















 印字されていた、快斗の誕生日の日付。

 既にカラにした赤ワインは、平次のだ。



 そして一番高そうだったものには・・・・・・やっぱり、探自身のものが刻印されていた。

















 何だか体温が上がった気がするのは、きっとアルコールのせいだ。

 そう快斗は、思った。





















「気障にも程があるっつの・・・」

「照れとんのか? 意外と可愛いやっちゃな、黒羽」

「うるせえな!」

「君たち。工藤君が起きるから静かに」

















 七夕。それは、一年に一度の逢瀬の日。

 けれども彼らにとって・・・・・













 とてもとても大事な、仲間との日。


























ひとくぎり



























 ・・・・・・そして彼らが、酒盛りの片付けで部屋を少し空けた時。





























 新一は、ゆっくり目を開け・・・・



 あまりの照れくささに、ますます顔も身体も火照り・・・・布団をぱたぱたした。



























「・・・・寝られやしねえっつうの・・・ったく・・・・・」




































Fin