Tea time interchange



「・・・・・なに。コイツどうしたの?」

「ああ、ちょっと親戚から旅行の間預かってくれっていわれまして」

「へー・・・・」

「みゃっ。」



















 グレイの毛並み。

 まだ生後何ヶ月だろうか?



 ・・・・ちっちゃいそれは、新一の手の中にすっぽり収まる。

























 ――――――・・・うっわー・・・・・すげー可愛い・・・・・



























「何て名前?」

「確か・・」

「いつまでココいんの?」

「あと一週間くらいですけど――――――――・・・工藤君。もしかして猫、好きですか?」

「え。いや、うん、まあ」



















 手の中のほわほわの感触。

 自然に顔が、一緒にほわほわになってくる。



 そんな新一の表情に一番驚いているのは・・・・・・・・・目の前の、白馬探だ。



















 そもそも今日は。

 快斗づてに『新一が見たいって言ってた本。あいつ持ってるってよ』と教えてもらったから。



 だから、白馬邸に遊びに来たのだ。















 快斗は何か用事があるとかで。

 平次は『今日も明日も明後日も稽古や~』と言い残し消えていった。



















 実は。



 ・・・・ちょっと新一は、玄関の前で深呼吸をしていた。



























 4人や3人で会うのはもう、何度も経験をしているけど。

 こうやって2人で会うっていうのは・・・・実は初めてだったのだ。























 ―――――――だーってよ~ ・・・・あの八方美人的な笑顔がな~ ・・・・・どうもなんつーか・・・



















 そう。

 ズバリ苦手であったのだ。





















「工藤君。アフタヌーンティーでもどうですか?」

「お。さんきゅー」

「じゃなかった、どちらかと言うと珈琲の方がお好きでしたね。美味しいカプチーノがあるんですよ」

「マジ?」





















 その時の、白馬の笑顔。



 なんか――――・・・・・・・いつもと違う。

























 ・・・・・・もしかして。

 

 もしかして――――――・・・コイツも、同じ気持ちだった・・・・・・?

























「ホント。似てますね」

「ん?」

「工藤君と黒羽君。」

「・・・・よく言われるけど・・・・そうか?」

「ええ。美味しいものを食べているときの幸せそうな顔なんて特に」

「はは。あいつも良く食うからな~」

















 3段に重ねられたプレートから

 あつあつのスコーンを新一は取る。



 ちょうど真向かいに座っている探と目が合い、手なんか振ってみたり。















 ・・・そんな新一に、正直驚きを隠せないといった表情を彼は見せた。



























「白馬。お前あんま食わないんだな」

「い、いえ、ちょっと何かと驚くことばかりで」

「は?」

「――――――――・・・・・思っていたより普通の人なんですね。工藤君て」

「・・・・・・どーゆう意味だよ」





















 その一言は、新一を瞬間止まらせる。

 一瞬にして険しい眼差しになるのを、もちろん探は気付いた。



















「気に障ったのなら、謝ります」

「・・・・一体、どーゆー風に見られてる訳? 俺って」

「外見のまま、ですね」















 ゆっくりと紅茶に口を付ける探。

 香りを楽しみながら、こくりと一口飲んだ。

 

 湯気の向こうに未だ鋭い瞳が見える。




















 そう。この瞳。

 自分が暫くロンドンに行っている間に、いつの間にか現れていた高校生探偵。



 印象的な瞳を持つ少年――――・・・そう、噂に聞いていて。























 なのに。

 いつの頃からか、ぱったり姿を現さなくなり・・・・・・・・・・・



 ネットでも調べては見たが、どこにも情報は無く。

















 それとなく快斗に聞いてみても、知っているのか居ないのか。

 ・・・曖昧な答えしか返ってこなかった。





















 そして日本に戻ってきて。

 警視庁に行った時、ちらと見た工藤新一は――――――・・・・・





















 自分よりも、かなり細くて。

 背も、そんなに高くは無くて。



 表情によって、年より幼く見えたり。

 ・・・やけに大人びて見えたり。













 確かな論理の組み立てと。

 説得力のある言葉。















 そして、噂に違わぬ強い光を放つ瞳で・・・・周りを圧倒させていた。























「そんな風に微笑うのを、見たことなかったもので・・・・・・・すみません」

「・・・・俺も」

「え?」

「お前ちょっと苦手だった。あいこだな」



















 最初、快斗から紹介された時は。

 ・・・・俺や服部に対する態度にまだ『壁』が感じられた。







 それは、しょうがない事だ。

 誰もが最初から、心打ち解けられるわけがない。





















 それに。



 俺も、そんな態度で接していた――――――――――・・・・・































「・・・・・」

「俺もさあ・・・快斗みたく出来たらいいなとは思うんだけど。駄目なんだな~ どうも一歩引いちゃって・・・」





















 黒羽快斗は天性の才能を持っている。

 初対面から人を惹き付ける、才能を。



















 屈託の無い笑顔。



 ・・そして見るものを幸せな気分にさせる雰囲気を、自然に身につけているのだ。





















「・・・違いますよ、工藤君」

「ん?」











 すでに人肌のカプチーノ。

 一気に飲もうと口を付けた時に、探が呟く。



















「黒羽君も同じです。君と」

「・・・同じ?」

「――――――・・・・彼も人一倍、気持ちには敏感ですから」





























 それぞれの、想いがある。

 誰の心にも・・・・物語が在る。



















「すっかり冷めちゃいましたね。おかわりどうですか?」

「・・・あ、悪り」

「ケーキもまだありますから、遠慮しないで下さいね」























 そのとき向けられた白馬の表情は・・・・いつも快斗に向けてみせる笑顔、そのもの。

 『八方美人的』ではない『ちゃんとした笑顔』。





























 ――――――――・・服部は・・・・・最初っから俺にこんなカオしてたなぁ・・・・そう言えば。



























「それと・・・そうそう、この本」

「あ。そーコレコレ!! 色々探してたんだけど、見つからなくてさ」

「うちの書庫にもまだ珍しい本があります。たまに遊びに来て読んでやってください。確か原書でも大丈夫でしたよね?」

「おう。サンキュ」





















 空気がなんだか暖かい。

 探していた本と一緒に、もうひとつ『何か』を見つけた気がする・・・・・



















 新一は、そんな気がした。




























ひとくぎり























「うみゃ~・・・・・」













 その時。

 窓際の椅子の上から、聞こえるもの。























「お~起きたか~?」















 すっかり専用の場所で丸くなって眠っていた仔猫。

 目を覚まし、きょろきょろとしている。

















「そうそう、名前は?」

「マリーです」

「へえ。マリーちゃんか~ よしよし、こっち来て一緒に遊ぼうな~」

「みゃみゃっ」















 差し出される手に、ひょいと乗っかる。

 そのまま腕をトコトコ歩き、くるっと首を一周して肩に引っかかった。

















「おー元気いいなー」

「これからマリーの散歩行くんですけど、どうです? 一緒に」

「行く。よーしマリー外行くぞ~」



















 借りた本をショルダーに入れ、上着を着てタスキ掛けする。

 そして改めてマリーをひょいと抱えた。



 探はジャケットをはおる。















「いつもどうしてんだ?」

「一応ひもつけて、抱えてますね」

「・・・それじゃ散歩になんねえじゃねえか」

「ま。そう言わずに」





















 顔にはあまり出ないが、かなり『親ばか』な探。

 ここ数日こうして散歩しているらしい。



 大きな扉を開けると、ぴゅうと空気が吹いた。



















「風が冷てー!」

「みゃ~っ」

「そう言えば、この先の角に美味しいクレープ屋があるんですよ。行きませんか?」

「・・・・・お前、結構甘いもん好きだろ」

「おや。工藤くんは嫌いですか?」

「ダイスキだっつの」














  ・・・かくして。





  東の名探偵達は、猫と一緒に再び遅いティータイムをとるのであった。







































Fin