孤高の戦士






「も~ あんなに昼は暑かったくせによ~! 夜はやっぱりもう11月ってカンジだよな~~~」

























 ひとつの影が、降り立つ。



 ・・・・それは闇に良く映える色をしていた。

























「つーかやっぱ冬服必要だよなぁ・・・マントじゃなくて、コートにしよっかな」

































 マントを外し、無造作にたたむ。



 襟元と袖口に真っ白のファーとか付けた白コートなんて、結構良くねえ? なんて考えながら、素早く白装束な衣装を脱いだ。







 樹々の間から、まあるい月が見える・・・・

























 ここは高台のとある場所。

 ハンググライダ-を使うときに、よく降り立つ場所。

































 ・・・・・・・『怪盗キッド』と、『黒羽快斗』が入れ替わる場所。































「さて、と・・・」









 ネクタイを緩め、ふぅと一息。

 一本の大きな樹の枝に跨り、まだ『キッド』のまま彼は、ポケットの綺麗な宝石を取り出した。







 ・・・月に、かざす。



























「―――――・・・・・よく月が見えること」

























 何も見えない。

 宝石の中には、何も見えはしない。















 紅く映る月がただ瞬くだけ――――――・・・・





























 これは、何ていう宝石だったっけ・・・・?



 もう、幾つも幾つも手にとりすぎて・・・名前なんかいちいち覚えてない。





























 白い溜息。

 ・・・・・・『キッド』は、しばらくそのまま紅い月を眺めていた。




























ひとくぎり





























「・・・・確か、こっちやったと思うたけどなぁ」































 ―――――――・・・っ・・!?



























 その時。



 冷たい空気の奥から、聴こえた声。

































「工藤、そっち居たか?」

「いや・・・俺、もうちょっとあの奥見てくる」

「じゃあ俺はこっちやな。気いつけや」





















 ――――――――・・・・あの声・・・『工藤』と『服部』・・・・?





























 『キッド』に緊張感が戻る。

 耳をすませ、意識を研ぎ澄まし・・・・・様子を伺う。





























 ・・・・近づく足音。



 枝と草を踏みながらやってくるのは・・・・・どっちだ・・・?



































「おお! ココ絶景やんか!」

















 関西弁。

 つまりは西の服部だ。





















 上手く撒いたと思ったのに。



 本当に警察より勘が鋭いやつらだ―――――――――・・・・・・























 『キッド』を纏った表情が、妖しく微笑む。

 状況的には「危うい」というのに、逆に興奮してくるのは何故なんだろう?



 足音は、崖のそばのこの一本の樹に向かっている。

















 確かに、此処から見る風景は鳥肌が立つ程の景色だ。

 だからこそ自分はこの場所を良く利用してした。



 特に今日は、所々の雲が夜空に程良いアクセントを付けている・・・・・



























「って・・・それ所や無くてキッド、キッド・・・・確かにこっちの方向に降りたはずなんやけどなぁ・・・」































 ふーん・・・・丁度イイや。

 あいつにコレ、返してもらうか・・・・





















「よーう名探偵」

「・・・・・・・・キッド!?」

「俺に何か用?」













 突然声がして平次は顔を上げる。

 確かに声がした方向はこの樹からだけど・・・姿が見えない。











「な、何の用って・・・ちょお、顔見せや!」

「見たかったら自分から捜しに来いよ・・・・俺は恥ずかしがりやでね」

「良お言うわ」











 声だけが夜空に振動する。

 その時、僅かに雲に掛かっていた月が顔を現し光が降り注いだ。















 ・・・・枝の軋む音がして、白い影が現れる。























「満足かい?」

「――――・・・・キッド・・・?」























 大きな樹の大きな枝。

 幹に寄りかかるようにして立つ、そのシルエット。













 ・・・・・でも逆光で顔は見えない。

























 しかし、いつものマントが無い。

 シルクハットやモノクルは定位置に見えるのだが・・・・・・



 それに戦闘体制を解いたように、蒼いシャツは裾を出し。





















 ・・・・ネクタイも、緩められていた。



























「随分ラフなキッドやな・・・」

「ちょうど良かった。コレ返しといてくれ」

「何? ・・・っとと!」



















 影が突然、何かを放り投げる。

 紅く光を放ちながらそれは・・・・・放物線を描いて平次の手元に落ちた。























「――――・・・・『アプローズ』!?」

「本物だ。傷も付けてない」

「・・・・ホンマに返しとるんやな」

「俺が欲しいのひとつだけだ。それ以外は必要ないんでね」

「――――・・・」

















 表情の見えない影。

 さわさわと夜風が、少しだけ見える前髪を揺らしている。



















「もう、用は無いだろ? さっさと帰れ―――――――・・・雨が、来る」

























 寄りかかりながら、夜空を見上げる白い影。

 綺麗な横顔のラインが浮き出る。






 ・・・・・・・・・あれは、本当の姿か?

































 平次は、手の中のものを握り締めた。

























「お前の目的は―――――・・・何や」

「言う必要ない」

「・・・次々と狙う割には、さっさと持ち主に返しよる・・・・・何を探してるんや?」

「―――――・・・・お前が俺の仲間になるんだったら、教えてやるよ」


















 にやりと。



 見えないはずの表情が・・・・微笑った気がした。





























 ・・・・そんなこと、出来ねえよな。

























「冗談言える立場なんか?」

「興味本位で何でもかんでも探ろうとするのは、探偵の悪い癖だぜ? 西の服部平次」

「―――・・・後ろは絶壁や。逃げられへんぞ」

「お前こそ忘れてる。俺は『世紀の大怪盗』だ。そう呼ばれている所以(ゆえん)を知らないのか?」

「何やと?」

















 その時だった。

 一際強い風が樹を覆い平次の視界を瞬間奪ったのだ。





 そして舞い上がる木の葉を掻き分け、次に樹に視線を移した時。





















 ・・・・・・・キッドはもう消えていた。

























「・・・な・・・・・・ここからどうやって逃げたんや!?」

「服部!! どうした!? キッドは居たのか?」

「工藤、すまん逃げられてもうた」

「ええ? 何やってんだよお前!」























 新一が駆けつけた時には、時既に遅し。



 残像だけを残し――――・・・・後には風がただ枝を揺らすばかりだった。



















ひとくぎり






















 七色の声色を持ち。

 変装の名人と謳われ。





 だから誰も、その素顔を見たものは居なく・・・・・























 背格好さえも、ある程度は似せれるとも聞いている。

 とすると、今まで会っていた『怪盗キッド』は・・・・ただの幻ということになる。





















「おい、顔は見たのか?」

「・・・コレ、返してくれ言われたわ」

「―――・・・これ・・・・」

「せや。まんまと今日、盗られたシロモンや」





















 今回、新一と平次は最初から警備にあたっては居なかった。



 『今回こそ大丈夫』と。

 キッドの特捜本部が2人を必要としてなかったのだ。



 ・・・いつもいつもハタチそこそこの子供に頼っていられない。

 そう思う気持ちも、二人は理解した。



















 けれども。



 結果は、結局・・・・・





















「・・・・まあ、俺たち警察じゃねえし。いっか」

「キッドって・・・」

「ん?」

「いや。ちょお、ワケアリな気いすんねや・・・・・」

「―――・・へえ」















 さっきまで『キッド』が居た場所。

 大きな樹に、2人で寄り添う。



 何故か新一は驚いた表情で平次を見た。

















「何や」

「んー・・・・俺と同じだなと思って、さ」

「・・・?」

「俺も、そう思ってる――――・・・対峙してる時の・・・・・緊張感がそう言ってる気がするんだ」























 風が冷たい。



 もう、24時を過ぎている。





























 ・・・・・そのまま2人は暫く、また雲に隠れた月を見ていた。




































ひとくぎり





























「あっぶね~・・・・さすがの俺も、寒さには勝てねぇっつーの!」























 『キッド』の営業時間はもう終わった。

 今は『黒羽快斗』の時間。



 ブルゾンの襟元を掴み、身体を震わせる。

















「早く家帰って、風呂入って紅茶飲も~っと・・・・今日は何にしよっかなあ・・・・アッサムにしよっかなー・・・・・・う。さむさむ」

















 商店街を通り抜け公園を横切る。

 気が休まる自分の部屋まで、あともう少しだ。



























 ――――――――――――・・・・親父。



 必ず、見つけるからな。

























 大丈夫。



 俺は、まだ諦めてないよ―――――・・・・































 快斗は、目を閉じて軽く深呼吸をする。














「あ・・・雨」





















 そうして。

 降りだした雨に・・・・・家路を急いだ。



































『―――――・・・・お前が俺の仲間になるんだったら、教えてやるよ』

































 それは雨のにおいのする夜。



 ・・・・ほんの少し、独りの戦いが寂しくなった時に漏らす想い。



































 ―――――――・・・もうちょっと早くあいつらと出会っていたら。



























 敵味方の関係じゃなく。

 単なる、友達として出会っていたならば・・・・











 そうしたら、もしかしたら。

































 一緒になって、違う方法で・・・・親父の真実を探せたのかもしれないのかな。


































Fin