風邪っぴきな猫達





「あ゛――――・・・・ぎぼぢわる・・・・」



















 吐く息が白い夜。

 群青色の空に浮かぶ、影ひとつ。











 しかし。



 いつもは優雅に飛んでいる軌道が今夜は・・・・



















「―――っくしょい!!」





























 ・・・・ふらついていた。




























ひとくぎり

























「・・・・あのバカ・・・」



















 そして。



 その影に目を細め息をつく人物。

 商店街で襟を立て、夜空を見上げていた。









 工藤新一。



 ご存知、東の名探偵だ。



















「あっちに逃げたぞ! 追え!!」

「ん?」

「あれ工藤君?! 風邪の具合はいいのかい?」











 後ろから響く声。

 多数聴こえる中に、見知った声に気づいた。











「高木さん」

「ああ~っ見失っちゃう! じゃあ、またね!」

「頑張ってくださいね~」















 公務員でも、刑事でもない新一。

 久しぶりのキッドの予告状に、いつもなら参戦してる所なのだが・・・・



 今日は熱を出してしまい、リタイア。



















 ごほごほと咳き込む。

 喉が、額が熱い。



 ・・・・そして薬が無くなったのに気付き、買いに来た訳である。

















 午後8時。



 店が閉まる、直前のことだった。



















「あいつもか・・・・・・やっぱ昨日、一緒に飲んでそんまま寝ちまったから風邪引いたな。今ごろ来てるかな・・・・居たら、たまご酒つくってやっかな」























 マフラーを口元まで覆う。

 ぴゅうと冷たい風がまた纏わりつき、再び新一の身体を縮ませた。






























ひとくぎり































「新一~~っ!! だずげで~・・・っくしゅ!」

「・・・・やっぱり」

















 工藤邸。

 玄関に鍵が掛かっているのに、部屋で待っていた人物。



 ・・・黒羽快斗だ。

















「お前、俺に化けて入るのはいいけど・・・・部屋に入ったら、元に戻れよ」

「新一のカオ、好きなんだもーん」

「・・・・・だからその顔で言うなって」

















 と。

 『工藤新一』の顔をした『黒羽快斗』が、言う。







 新一の顔のまま羽織ってきたコート。

 そのボタンを外すと、現れるのは見慣れた白装束。



 感じる冷気に快斗はくしゃみをする。

















「ったく。2人して風邪引いてどーすんだ」

「ほんとサイアクだよ・・・新一今日、追っかけに来てくんないし・・・・余計寂しかったなー」

「お前は『キッド』休む訳にいかねーもんな。ご愁傷様~ でも、服部と白馬いたろ?」

「――――・・・新一いなきゃ、つまんねー」

「はは。よしよし」



















 自分の顔した頭を、撫でる。

 するとゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってきた。

















「早く風呂入れ。沸いてるから」

「一緒に入ろーぜ。俺、泡風呂試したいんだよね~」

「熱あんだろ。さっさと上がってさっさと寝る!」

「冷たいっ・・・・・新一、俺に冷たい!」

「うるせえ! 俺だって熱出て頭痛てーの我慢してんだよ! さっさとその変装解いて風呂入って寝ろ!!」



















 一気に捲くし立て、新一はまた激しく咳き込む。



















 熱く漏れる息。

 潤む瞳・・・



 白い肌は、紅く色づいて。









 ・・・・・快斗は、少しの間見とれた。























「オラ。俺の顔してポーっとすんな・・・気色悪りい・・・」

「あ、ごめんごめん」

「ああ゛―――・・・・駄目だ・・・・俺このまま薬飲んで寝るわ―――――・・・」

「俺が作ってくるから。待ってろな」

「・・何」

「たまご酒快斗スペシャル。薬より効くぜ?」

「――――へえ・・・」





















 『快斗』に戻った顔。

 それを見て、新一はホッとして微笑う。



 そして袋から箱を取り出した。





















「お前も飲んで寝ろよ」

「ん」





















 渡したのは買ってきた風邪薬。

 そのまま新一はジャケットを脱ぎ、寝間着に着替えベッドに横になる。



 その後快斗は『スペシャル』を作りに階下に降りて行った。






























ひとくぎり



























「起きてる?」

「おう・・・何とか」

「ほい」

















 熱々のカップ。

 でも、この寒さではすぐに飲みごろ。

















「快斗、それ脱げよ・・・・シワになっちまうぞ」

「ん? いいよ別に」

「寝間着。そこのクローゼットの一番下にあるから」

「それ、泊まってもいいって事?」

















 今だキッドの衣装のままの快斗。

 スーツのままだと疲れるだろうし、そのまま寝かせる訳にもいかないだろう。



 ・・・・どうせ、こうなる事は予測済みだ。



















「――――・・・風呂入ってこい。布団敷いとくから」

「ええ~ 新一いっしょに寝ようぜ~」

「風邪治ったらな」

「ちぇー」

















 口を尖がらせる怪盗。

 こんな姿を、一体誰が想像できるというのか?















 ・・・・でも新一は解っている。





















 『仕事』のあとで、こうして自分に逢いに来る。



 甘えに来るのは・・・・・





























 ―――――――――・・・・・今日のも駄目だった、という事。



































「ん? メール来てる・・・・」

「え」

















 ふらふらしつつ、机の上のモバイルを覗く。

 新着メール1件の表示。



 ・・・送信者は・・・・・・



















「快斗。あいつら今から来るってよ・・・どうする?」

「ええ? 俺ここに居んの知ってんの?」

「・・・みたいだな」















 ちょっとの間。2人は見詰め合う。

 そして・・・・

















「丁度いい。看病させよう」

「賛成」

「・・・・あ、もう来た。はっえーなあ」

「あああ~! 一回鳴らしゃ解るっつーの! ったくも~っ」















 何度も鳴らすインターホン。

 快斗は、呆れ顔で玄関へと走っていった。






























ひとくぎり























 そうして。

 新たに探偵が2人加わり。





















 ・・・・・彼らは、風邪っぴきな2匹の猫の面倒をそれぞれ見るハメになる。








































Fin