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「・・・・・んむむむ」

「苦しい?」

「何しとんねん・・・・・」















 午前11時。

 いつもより、遅い目覚め。












「気持ち良さそーに寝てっからさ。ムカついて」

「俺をコロス気か!」








 口を押さえる手を、どける。

 息苦しくて起き上がった身体は、その手の本体をはがい締めにした。








「くおら~ 黒羽ええ根性しとるやんけ!」

「何すんだよ! 新一~ 服部がいじめる~~」

「オラ。快斗に何してやがる」










 その時、服部の脇腹を蹴る足。



 ・・・・工藤新一の黄金の右足だ。










「工藤! 何すんじゃ!」

「・・・・俺のベッドでぐーすかこんな時間まで寝てる奴に文句言われる筋合いはねえ」

「全くだ。何でお前がここに居るんだ? 早く起きやがれ!」











 同じ顔からダブルの攻撃。

 平次は、2つの冷たい眼差しから逃れるべくベッドから飛び降りた。





 その降りた先に立ちはだかる影。

 平次よりも少し背の高いそれは・・・・








「どわ!?」

「・・・・朝から何をしている。早く降りてきて、食事をすませてくれ」

「探、おま、何でココ居んねん!?」

「他ならぬ工藤君の記念すべき日だ。僕が、手料理を披露しない訳にはいかないだろう」

「あ、白馬~ おっは~」










 にっこりとエプロン姿で表れた、白馬探。

 昔から知ってはいるのにこんな姿を見たのは初めてだった平次は、呆気に取られる。



 でも、新一や快斗は至って普通の表情だ。








「白馬のメシ美味いんだぜ~。前に遊びに行った時なんて、ケーキまで作ってたよな」

「イギリスで覚えてね」

「へえ・・・知らんかった」

「そりゃあ君の為に作った事はないからな。まあ、これからもないだろうけど」

「相変わらず腹立つやっちゃなオイ・・・・・」

「とにかく早くしろ。洗濯と掃除、やってくれるって言ってただろうが」










 にっこりと微笑む新一。



 そういやそんな事を言ったっけな・・・と、平次は思い出しつつ階下(した)へと降りて行った。





















ひとくぎり























「くどう~ 終わったで~」

「御苦労。つぎ窓拭き」

「新一、書庫のホコリ大体取ったぜ。ついでに拭いといた。掃除機どこ?」

「サンキュ。少し休めよ」

「工藤君。スコーンが焼きあがったのでどうぞ。珈琲も入れましたから」

「お、うまそ」








 他の3人が、工藤邸を所狭しと動き回る。

 主である工藤新一は、リビングのソファにどっかり座ってその様を眺めていた。












 今日は、5月4日。

 工藤新一の生誕記念日。



 だから平次も探も快斗も、朝早くからこうして新一の家に集まっていた。











 傍からみれば、新一が他の3人をこき使っている様に見えるが。

 実際は―――――・・・












「適当でいいよ、もう終わりにしろって」

「新一が誕生日に何も要らねえって言ったからじゃん。俺達、カラダ動かすこと得意だから気にすんな」

「ええ。特に彼は、体力有り余ってるようだし」

「くおらー! 何自分らだけブレイクしとんねん!?」






 平次がダイニングでくつろぐ3人を見つける。

 新一は、『ち。』と舌を出した。



 しょーがねえな来い来いと手招きする。






「わりーわりい。ホラ、白馬が焼いたの美味いぜ」

「今日の夜、和食なんて良いんじゃねえ? な、新一」

「じゃあ後で材料買ってきます


「あ・・・そや、工藤」












 もぐもぐとスコーンを頬張り、平次は新一を呼んだ。

 ちょいちょいと人差し指で廊下を示す。







 『?』と思いつつも、新一は平次に続いた。



















 玄関の手前。

 階段脇の所で、向かい合う。














「何だよ」

「コレ」

「・・・・?」

「この前、壊れたやろ。やるわ」












 ぽんと渡されたのは小さな箱。

 それに書かれた文字は『NiCOLE』・・・・・



 新一は訝しげに眉を寄せ・・・・そして中を開けた。










 現れたのは、赤い文字盤の腕時計。
















「え・・・・」

「お前、何も要らん言うてたけどな。それ聞いた時は、買った後やったんや。せやから受け取れ」

「・・・・けど」





















 困った表情。

 でも決して嫌がっているのではなく・・・









 単に、どうしたらいいのか解らないといった表情。

























「黒羽が言ってたで? お前がこれ欲しがってたって―――――・・・・ちゃうんか? せやから3人で買うたんやけど」

「3人で?」





















 新一は顔を上げる。

 そして、思い浮かべた。











 ・・・・自分のために、彼らが時計売場をうろうろしている光景を。




























「覚えてたんだ・・・・快斗」

「あいつはお前ん事だけは、恐ろしく記憶力ええからな」

「・・・・きゅ」

「ん?」

「サンキュ・・・・・すっげえ嬉しい」


















 表情にあまり出しはしないけど。



 でも。

























 箱から出して――――――・・・

 腕にはめてみた時、ほんの一瞬見せた嬉しそうな顔は確かに珍しい表情で・・・・



















 ・・・・平次はちょっと見惚れてしまった。
































ひとくぎり





























 ダイニングで、黙々とスコーンを頬張る2人。

















「あ~あ・・・・服部にいい役やっちまうなんてな」

「じゃんけんで渡すの決めようと言ったのは、黒羽君だろう」

「そーだけどよ」

「まあまあ。ほら、戻って来た」

























 4日は始まったばかり。



































 ・・・・・・・・なあ。





 今日のうちに、新一の見たことの無い表情を一体いくつ見つけられると思う?








































Fin