らしくない理由



「昼間は暑い思とったけど、夜はやっぱ冷えるなあ」

「もう11月だからな」

「・・・・・・工藤、どこまで付いてくるん?」

「まだ泊まったことないんだよな、ココ」















 先月出来たばかりの、丸の内ホテル。

 そこに平次が泊まってると聞いて新一は彼の後に付いてきた。



 







 服部平次。

 彼は大阪の大学に通う三年生。



 今日もまた親の用事で上京。

 更にいつもの如く行き先で事件に遭遇し、新一と会った。







 その工藤新一。

 彼もまた、東京の大学に通う三年生。

 





 天気も良いしと歩いて図書館に向かっている途中に、引き寄せてしまった事件。



 そこに居たのが『普通なら滅多に出会わない筈の大阪の友人』。

 だから、二人は顔を合わせた途端失笑してしまった。















「言うとくけど泊まれへんで。シングルやからな」

「こーゆー所ならそれなりに広いだろ」

「アホか。家がある奴は家に帰れや」

「冷たいな~ 久々に会ったってのに、もうちょっと話したいと思わねえのか」

「先週も会うたのに何が『久々』や」









 



 まあ、東西の名探偵が揃っていたのだから事件なんてあっけなく解決。

 そのまま近くの焼き肉屋で高木刑事らと共に夕食を済ませた後、二人は地下鉄に乗った。



 でもどうしてか、新一は米花駅の方向へ乗り継ぎせず平次に付いてくる。



















 ・・・・・そうして丸の内。



 つい先月出来たばかりのこのホテルの前まで、来てしまったのである。
























ひとくぎり



















「おー けっこー広いじゃん」

「おえ工藤」

「テレビも流石に液晶なんだな~ 薄い薄い」

「人の話聞いとんのか!?」















 結局部屋の中まで押しかけた新一。

 新しいにおいのする綺麗な部屋を、舐め回すようにちょこまかと動き回る。













 ・・・・・平次は深く息を付いた。

















「スマンけど、今日はホンマ時間ないねん。今レポートで忙しくてな、今夜もココでやらなアカンくてパソコンまで持ってきてん」

「やってていいよ。俺、勝手にしてるし」

「は?」

「邪魔しねえし。必要なら手伝うけど?」















 置いてあった荷物の中から、平次はノートパソコンを出し備え付けの机に置く。

 すると新一もベッドに座り鞄から資料を取り出した。



 そして、ベッドカバーの上に広げる。


















 ・・・・・・そのまま黙々と目を通し始めたから、平次はとうとうキレた。























「―――――・・・勝手にも程があるゆーとんねや。ええ加減にせんとシバくで」

「へえ。お前が俺をねえ」

「出来んと思とるんか」

「できないね」





















 新一は睨んで言い切る。



 その威圧感に、平次は(ひる)んだ。



































 ・・・・・・怖いくらい綺麗な。







 そして揺れるような、瞳。



































 ・・・・平次は目を逸らし、舌打ちする。































「もおええ、好きにせえ」

「あれ? シバかねえのか」

「ええから話し掛けんな。相手しとる暇ない」

「・・・わかった。帰る」

「何?」

























 すると新一は出したばかりの書類を集め、鞄に戻す。

 そしてベッドから下りると、振り返りもせず部屋を出て行った。






























ひとくぎり

























 ・・・・・らしくない新一の言動。

 平次はしばし、その場に立ち尽くす。

























「何やねんアイツ・・・・・・」























 勝手に付いて来たかと思ったら勝手に帰ってしまう。

 今までも強引な感じだったが、今日の様にしつこいのは初めてだった。



 そして。





















 『できないね』



 そう言いながら自分を見る時の、あんな目も―――――――――・・・・・初めて見る『工藤新一』だった。





































「ああも~~!!」













 あんな帰り方をされたら、気になってしょうがないではないか。

 気になって気になってレポートを書く所の話ではないではないか。





























「こーなるの解っとったな工藤・・・・・」

















 そして平次は息を付く。

 髪を、かき上げる。



















 ・・・・ゆっくり部屋のドアを開けた。



























「よ」

「・・・・・こん策士が」

「あっちに自販機あったから、珈琲買ってきた。やる」

「ええから入り」

「俺はこのまま帰る。ほんと、邪魔して悪かった」

「え?」

「――――――・・・・・・やっぱ優しいな服部。出て来てくれると思った」





















 扉の横に、新一が立っていた。

 少し力なく微笑って、平次に熱い缶をひとつ渡した。



 そして根負けした様に平次は新一を中へ促す。

 けれども、彼はそのまま背を見せホテルを後にした。

















ひとくぎり




















「・・・・・・東京来るんなら俺んちに泊まりゃいいのに」

















 新一は歩く。

 丸の内から乗り継ぎ米花駅を下り、いつも通り、ひとりでこの道を。





 ・・・・・改札を出て横断歩道を渡る。



























 星が、綺麗に瞬いていた。

























「そーいや・・・・・明日の明け方って、木星と金星と月が並ぶ珍しい空が見れるって言ってたな」



















 ネットで見た記事を思い出す。

 最近は天気が良い日が続いているから、きっと明日も綺麗に見れるのだろう。























「・・・・・・・・」

























 そうして新一は角を曲がる。

 途端に暗くなる道と、細い月だけが視界に映った。

























 ・・・・まるでこの世界に自分だけが存在しているような感覚。



























「あーもー ちくしょ。今日はらしくねえなー マジで」

















 帰っても誰もいない家。

 必然的に多くなるのは、独り言。



 だから。















 新一は、もっと平次と話をしていたかった――――――――――・・・・・























 そりゃ選んだのは自分。

 両親とロスに行かず、日本にひとりでいるのを望んだのは自分。





















 別に寂しい訳じゃない。

 ひとりは相変わらず気楽だし、隣には博士だって住んでる。





 ・・・・蘭だって変わらず自分にかまってくれている。







 でもやっぱり違うのだ。





















 友人は他にもいる。

 大学にだっているし、知り合いも大勢いる。





 いるけど・・・・・・

























 服部平次ほど話や気の合う人間は、いない――――――――・・・・・・・





































「・・・・・今度はぜってー俺んちに来るよう仕向けてやる」















 平次の気持ちは解ってる。

 両親と暮らしている人間は、こうした機会ぐらいは一人きりで過ごしたいと思うものだ。









 今日だって、別に本気で自分がうっとおしかった訳ではない。

 彼の大学はレポートの量が半端じゃないのも知っている。



 本当に締め切り間際で気が立っていたのだ。













 ・・・・・それが解ってて、無理を言った自分が悪い。



























「さーてと。明日の朝飯またコンビニで買ってくか」













 遠くに見えてきた眩しい灯り。

 どうしてか、ああいう光は独り言を誘う気がする。























 ――――――――・・・・なんだかなあ・・・・・・・・























 どんなに話しても話し足りないなんて。

 無理だと解ってるのに、わがままをぶつけてしまうなんて。





















 ・・・・・・・これはまるで『恋』のようだ。





























 寒い夜だった。

 昼間は暖かい日差しがあったけど、夜はやっぱり冷たい夜だった。



 その時、携帯が音を奏でる。













 新一はポケットからそれを取り出す。

 そして、液晶表示の名前に小さく微笑った。


































Fin