traveling[01]





「いや~晴れたね! 旅行日和って感じ?」

「・・・・・・お前荷物それだけか?」

「つうか新一こそ何ソレ? たかだか1週間の旅行よ? 持ちすぎじゃねえ?」

「そうかな。イタリアは別荘ねえからイマイチ加減解らねえんだよ」








 成田空港。2月某日。

 良く似た雰囲気を持つ青年2人は、総合ロビーの椅子に座っていた。





 スッキリとした黒髪の方が工藤新一。

 日本屈指の名探偵で、学生である現在も警察関係者から絶大な信頼を得ている人物。



 片や茶色い髪をふわふわさせているのは黒羽快斗。

 高い知能指数を備えた彼は日本一の大学に通いながら、こっそり怪盗家業を営んでいる裏の顔を持っている。















「白馬は現地集合って言ってたっけ」

「そ。ムカツクよな~おぼっちゃんは。フランスから直接行くってさ」

「エコノミーで行くの耐えられねーだけじゃねえの?」

「ビジネス慣れしてっからな・・・・・・ちっさい頃から自家用機で贅沢してんだよ」

「服部もおぼっちゃんだけど、エコノミーしか乗ったことねえってよ?」











 買ってきた缶珈琲を飲みながら、2人はこの場に居ない人物で語り合う。



 最初に出てきた白馬とは白馬探と言い、父親を警視総監に持つ正真正銘の御曹司。

 母親がまた世界を渡り歩いている人らしく、その度にホテルに住むのもなんだからと世界各国に別宅を持っているらしい。



 探も生まれが日本というだけで、後はイギリスで暮らしていたと言う。

 しかし突然17歳の時に東京の高校へ転入して来た。










 ・・・・その時に同級生だった快斗と知り合い、以来腐れ縁で現在まで続いているのだ。












 そうしてもう1人が服部平次。



 新一と同じく高校生の頃から関西方面でその名を馳せていた彼。

 現在は東京の大学へ進学した為、都内でひとり暮らしをしている。



 勿論、とある事件で知り合いになった新一とは今も一番仲のいい友人だ。



























 探と快斗。

 新一と、平次。



 同じ時代の、同じ年に生まれた彼等。









 この2人を繋がらせたのは、新一と探だ。

 警視庁などで何度か顔を合わせている内に親しくなり、新一が大学祭に探を呼んだ時に物語は始まった。

 































 ――――――――・・・・・新一が平次を呼び、探が快斗を連れて来た。





 その時の感覚は、まさに『運命』と言えるだろう。

































 今回、この4人で『どっか旅行に行こう』と言い出したのは快斗だ。

 大学も落ち着いている時期だし、何より自分が結構暇なのがこの2月だった。



 それで4人が揃って検討した結果、イタリアに決定。

 他に候補としてスイスやエジプト等も上げられたが、結局決め手に欠けたのでアミダくじで決めたのがそこだった訳である。





 そうして本日出発日。

 家庭の都合で一足先にヨーロッパに飛んでいる探は、現地で落ち合う。













 ・・・・・だから残るは服部平次を待つのみであった。

























「しっかし何やってんだ服部? 集合時間過ぎてるっつーの」

「確かに。俺達待たせるなんて良い度胸だ」











 現在の時刻は午前11時5分。

 待ち合わせの時間は、11時きっかり。



 新一は腕時計を覗いて後ろを見渡す。













「まあ広いっちゃー広いけどな空港―――――――・・・・あ。」

「ん?」

「言ってるうちに鳴ってた。服部から電話」

「まさか迷ってんじゃねえよなあ? コドモじゃあるまいし」

「おう服部? お前何処にいんだよ・・・・・は? Gだよ、Bじゃねえよ! バカか? 早く来いっつの!」








 ・・・・・という訳で。

 ありがちなイントネーションの聞き間違いで、待ち合わせの場所を聞き間違えていた平次であった。





























「いや~ すまんスマン!」

「服部、荷物それだけ?」

「へ? こんなもんやろ?」

「俺だけ大旅行みたいじゃねえかよ。お前らオカシイよ」

「ちっげーよ。新一のスーツケースがオオゲサなだけ」

「うるせえなさっきから! しょーがねえだろ? これしか無いんだから!!」









 平次は何と、いつものスポーツバックひとつで現れた。

 幾らなんでも海外旅行にそれか? と快斗は思うが、自分も量的には同じくらいのスーツケースだ。



 新一はと言うと、どうみても2週間程度用の大きいケースで。

 はたから見るとこの3人が同じ旅行先に行くとは思えない。





 ・・・・・まあ、今まで旅行と言えば別荘のあるハワイやロンドンで。

 ロスは両親も現在住んでいる場所だったから、いつも小さいショルダーひとつで事は足りていたからしょうがあるまい。








「まあええやん。大は小を兼ねるっちゅーし、土産ぎょーさん買うて帰ったらええ」

「・・・別に慰めてくれなくても結構だ」

「取りあえず手続きして来ようぜ? 早く身軽になりたいし~」

「それもそうだな」








 快斗が立ち上がり飲み終わった缶を捨てる。

 後の2人もそれに続くと、カウンターへと手続きに向かった。






























ひとくぎり































「何時間だったっけ~」

「12時間くらい。まあヒースローで乗り継ぎが有るから・・・・・それ以上か」

「はぁ~ 先は長いな」

「せやけど結構空いとるし、ベルト着用サイン消えたら即効空きシートに移ろ・・・・・お前等はともかく俺は身体がもたへんわ」

「はいはい。そうでしょうとも」













 12時発のロンドン・ヒースロー空港行き。

 3人は定刻通り離陸したそれに乗り、まさに上昇している最中。



 ヴァージン・エアラインのこの飛行機は、座席が2列・3列・2列となっている。勿論エコノミーの配置だ。

 現在は指定席通りに座っているが、この便は意外に空いているらしく、ちらほらとシートが空いているのが見えた。











 飛行機は電車と違い、1度飛び立ったら途中停車が無い。

 だから離陸してしまえば空いている席に自由に移れるのが利点だ。





 前方に設けられてるビジネスと違い、エコノミーは本当に狭い。

 これならば電車の特急席の方がよっぽど余裕。



 170そこそこの快斗や新一にも辛いものがあるのに、180近い平次にとってこの狭さは拷問でしか無く。

 更に12時間以上も拘束されるとなれば余計に気が滅入る。













 ・・・・・平次は満席じゃない事を、心の底から喜んだ。























「そんなに嫌だったらビジネス行けば良かったじゃねえか」

「アホ抜かせ! なんぼする思とんねん? 必死にバイトして金貯めてきたの、往復運賃だけでパアにしとうないわ」

「悪かったな――――――――・・・・・どうせ俺は親のスネカジリだよ」








 3列の席の向かって左に平次。
 真ん中に新一ときて右に快斗が座っていた。


 しきりに周りを見渡しながら空席をチェックしている平次に新一が呟くと、嫌味ったらしい言葉が返ってきたのでカチンとくる。



 飛行機のエコノミーとビジネスには本当に天地の差が有る。

 確かに憧れるが、5倍6倍もの航空代を自費で払うくらいなら、その分他の事に使った方が余程有意義だ。




 まあ、こう言うのは価値観の違いだとは思うが・・・・・・・

 すると良いタイミングで快斗が入って来た。















「新一んトコの両親は可愛い息子にバイトなんかさせてくれないんだよね~ つうか新一だと有名過ぎて雇う方も気い使いそうだけど」

「・・・・・」

「あ。別にこれは嫌味じゃねえからな?」

「まあなあ――――――・・・・・色々あったし、親父さん達が工藤に過保護になるんはしゃあないわな。スマン、言い過ぎた」

「いいよ別に」

















 素直に失言を平次は詫びる。



 放任主義だった新一の両親は、あの事件があってからやたらと息子に構うようになった。

 高校を卒業した時点で無理矢理ロスへ連れて帰ろうとまでしたのだが、それを頑なに新一が拒んだのだ。



 その理由は、未だに平次にも解っていない。

 ただ幼馴染の女の子だけが原因では無いらしいのだが、ある時聞こうとしたら――――――――・・・・・・やんわりとかわされてしまった。













「お。雲の上に来たぜ~ さっすが空は天気が良いよな」

「当たり前やん・・・・・どんなに地上が雷雨だろうが雲の上は絶対晴れやぞ」

「そこがまた不思議だよなー」

「まあ、そうかもね」















 新一が視線を移して素っ頓狂な事を呟く。

 こんな時は決まって話題を変えたがっているので、快斗も平次もそれに従う事にしていた。








 やがてベルト着用サインが消える。

 キャビンアテンダントが一斉に動き出し、サービスの準備を始めた。



 すると他の乗客たちも一気に動き出す。















「よっしゃ! そんじゃー俺は後ろの列に移るで~」

「おー」

「新一どーする? ココ狭くない?」

「俺は慣れてるし。半日くらいどーってことねえや」

「じゃあ俺もこのまま~」











 直ぐ後ろが3席まるまる空いていたので、平次は即効荷物を置いて席を確保する。

 新一はそのまま自分の席で寛ぎ始めたので、快斗も移動しない事にした。



 正直言って狭いのは大嫌いなのだが、新一が一緒となれば話は別。

 それに3席のうちの1席が空いたと言うことは、意外に快適に過ごせる。座席の間の肘掛を上げれば足も乗せれるから、少しは楽になるのだ。





 平次はとっくに2つの肘掛を上げ、長い足を投げ出し3席を堂々と占めていた。















 ざっと見渡すと搭乗率は60%くらいだろうか?

 平次と同じ事を考えている人達が我先にと空席に移り、思い思いの位置に落ち着いている。







 やがて飲み物のサービスが始まった。

 喉が渇いていた新一は取りあえず水。快斗はオレンジジュース。

















 ・・・・・そして平次は『やっぱこれやな!』とすきっ腹にビールを頼んでいた。
































ひとくぎり























 そんなこんなで始まった海外旅行。

 目指す先は、イタリア。



快斗がなるべく安く済む様にと選んだコースだったので、まずはロンドン・・・ヒースロー空港。

その後乗り継ぎでローマへ向かうのだ。





4泊6日の短くも長くも無い旅。



































しかし。



何と事も無く終わった試がない彼等の旅。









































――――――――――・・・・・・最初の事件はヒースロー空港で起こった。