traveling[02]



「思ったより眠れたな~ 新一は?」

「まあ3時間は寝られたな。あとは、映画観てた」

「俺は殆ど寝とった・・・・メシ食い逃しとる」













 そうして現地は夕刻の、ロンドン。

 ここは乗り継ぎであるヒースロー空港だ。



 世界で最も混んでいる空港と言われるこの場所は、本当に色々な国の人達が所せましと行き来している。









「んで? ローマに行く飛行機はいつ出るんやったっけ」

「19時発だけど・・・なんか、天候悪くて予定通り飛ぶか解んねえみたいだ」

「どゆこと?」

「雪だよ。窓の外すげえだろ? 午後から大雪でさ、欠航も多いってアナウンスしてんだよ」

「そーなん?」










 トイレに行っていた快斗と平次。

 空港の中程にあるシーティング・エリアで、上方に設置してある搭乗案内ビジョンを見ていた新一の元へ戻って来た。



 言われ、彼らも同じ方向を見る。








「ホントだ。止まってんのも多いな」

「とにかく18時過ぎになりゃ、どーなるか解っだろ。服部、スタバで珈琲買って来て」

「何で俺やねん」

「俺はね~ マキがいいなー。キャラメル・マキアート~」

「お前らなあ・・・・」













 快斗が新一の隣に座った。

 空いていたから、平次も座ろうとする。が、そこを新一に『にっこり』微笑まれる。



 


 ・・・・・『頼み事』というフレーズに『めいれい』のルビを付けて。

















 もちろん便乗するのは快斗。

 平次はこういう場合、あーだこーだ言ってもしょうがないのが解っている。



 だから。






 『へいへい』と大人しくお使いに行った。






















ひとくぎり
























「戻ってこねえなあ・・・・・」

「確かに遅いな」

「いくら並んでるっつっても、10分もありゃ買えるよな」

「買えるな」









 平次が視界から居なくなって30分ほど経った。

 人混みは相変わらず・・・・というか、ますます増えた様な気もする。



 まさか俺達を見逃したりしねえだろう、とは思いつつも嫌な予感がした新一。

 小さく息を付いて、立ち上がった。






「ちょっと見てくる」

「解った」

「居ない間に来たら携帯鳴らしてくれ」

「おっけー」









 彼らはワールドウォーカーを申し込んで来ている。

 だから、日本で使っている携帯電話と同じ番号で連絡を取り合えた。





 それにしても新一に手間掛けさせるなんて・・・・・・・

 後で見てやがれ服部のヤロウ。



 そんな事を考えているとは思えないぐらいの笑顔で、快斗は新一に手を振る。

 次に、渇いた喉を潤す為にポケットから飴玉を取り出して口に放り込んだ。
























ひとくぎり



























「えーと・・・・あれ、並んでねえじゃん」









 溢れかえる人並みに比例して、飲み物を買う列も長くなっていたスターバックス。

 けれどもその中に平次の姿は無かった。



 まさか迷っているとも思えないが、一応このエリアをぐるりと周ってみる。

 しかしやはり平次は居なかった。







 しょうがないので、いったん快斗の元に戻る。













「あれ、服部は?」

「やっぱり帰ってきてないのか」

「いねえの!?」

「ああ。一応周りもぐるっと探したけど、何処にも」

「電話は? してみた?」











 新一が『そうか。』という意味で手をポンと叩く。

 しかし、いくら待っても呼び出し音が鳴り響くばかり。





 閉じて快斗に向いた。













「・・・・・どう思う?」

「どっかのオンナにお持ち帰りされたとか」

「有りえる話だ。けど」

「ああ・・・だとしても、俺等の珈琲くらい置いてから行くよなあ、アイツの性格じゃ」













 服部平次は国籍・性別・年齢問わずモテる。



 大学に進んで背も伸び体格も変わり、剣道では相変わらず名を馳せ。

 加えて探偵としても力を発揮している彼は、今や全国的な有名人。











 ・・・・・だから、あの列に並んでいる最中に声を掛けられる可能性は十分に有り得た。




 新一は考える。














「服部の好みってどんなだっけ」

「頭のキレる美人。更に、会話のキャッチボールが絶妙なヤツって言ってたかな」

「んなオンナいるのか」

「だから誰とも長く続かないんじゃん?」

「好きでもねえのに付き合うからだ。とにかく、飛行機は予定通り飛ぶか解んねえし、あと30分して戻って来なかったら本気で探すしかねえな」















 今は18時30分を過ぎた所だ。

 当初の予定では19時過ぎに離陸だったが、この調子なら飛んでも20時は過ぎるだろう。



 新一は、未だ自分達の乗る便の搭乗案内の出ない画面を見て考える。















 ・・・考えながら、自分の唇が乾いているのに気づいて『そーいや。』と立ち上がった。

















「喉渇いてんだった。もっかい見てくるついでに買ってくる」

「俺が今度行ってくる。新一、座っててよ」

「お前ポンド持ってないだろ。 この空港な、ユーロ使っても釣りはポンドなんだ。勿体ねえから」

「マジで?」













 そうなのだ。

 今回の旅行ではイタリアが目的だったから、ポンドに換金はして来なかった。



 日本円でもユーロでも使える事は使えるのだが、お釣りがポンドになってしまう。

 イギリスに降りるのならばそれで良いのだが、今回の彼らの旅行では必要ない。





 新一は別荘がロンドンにもある関係で来ることも多いから、ポンドは常備していた。











「ああ。行って来る」

「悪いなー。宜しく」

「おう」












 そうして再びスターバックスへ。

 一応周りの人波に注意をしながら、新一はひらひらと手を振ってその場を離れた。