traveling[07]



「そんでお前は、いつ日本に戻るわけ?」

「大学が始まる頃かな。まあキッドが現れれば、すぐ帰るよ」

「そーいや最近出てこねえな~。あいつもどっか旅行とか行ってたりしてな」










 新一達と別れてから、快斗と探は真っ先にカフェテリアへ入った。

 そしてケーキやらプリンやら、いくつか注文する。



 どうやら快斗は朝食が物足りなかったらしい。

 あれだけの食料が、一体この細い身体の何処に行ったのだろうかと探は不思議に思う。



 彼はさすがに紅茶だけを頼んでいた。












「あ。んじゃ忘れない内にコレやる」

「・・・・チョコレート?」

「もう時期過ぎてっけど、バレンタインって事で」

「何の嫌がらせだ」

「バレンタインデーってのは本来、友達とか家族に贈り物をする日だろ。有り難く受け取りやがれ」











 

 窓から暖かい日差しが入り込んでくる絶好の位置。

 そんな状況に満足な表情を浮かべていた快斗は、同じく微笑いながらも冷たい一言を返してくる男を睨んだ。













「そうだったな。では遠慮なく」

「お前は? ねえの?」

「・・・こういうのは
強請(ねだ)るものじゃないと思うんだが」















 優雅に紅茶のカップに口を付ける探。

 英国暮らしが長いせいか、こういう風景に難なく溶け込んでいる。



 かくいう快斗も、日本人らしからぬ顔立ちとその出で立ちで周囲の視線を集めていた。










 異国の地でも、目立つのには変わりないらしい。



















「まあいっけどね。新一や平次にもあげたけど、特にお返しもらってないし」

「そうなのか?」

「あいつらに、俺はいつも助けてもらってるだろ・・・・・その感謝の気持ちって感じ?」

「・・・・へえ」

「けどお前は別にないもんな。月の半分は海外でろくに会わねえし―――――――・・・・・・・だから、何かくれ」

「はい?」















 にっこり微笑いながら、手のひらを出す快斗。

 探はつい素っ頓狂な声を上げた。







 ・・・・・・しかし次に微笑う。

















「何だよ。その気味悪い笑顔は」

「いや、本当に可愛いな君は」

「おうカワイイさ。今更解り切った事を」

「工藤君たちの仲の良さが羨ましかったんなら、はっきり言えばいいじゃないか」

「なんだそれ。意味わかんねえ」











 くるくると表情の変わる黒羽快斗。

 本当に、本心が読めない。



 普通ならこう言えば、怒るか呆れるかだろうが・・・・・・










 快斗は、ただ薄く微笑うだけ。























 探はポケットから懐中時計を取り出すと時間を確かめた。

 まだ、12時にもなっていない。





 



 約束した集合時間までは何時間もある。









 

















「しょうがない。今日は君の言うことをひとつだけ、聞いてやろう」

「へー・・・・何でも?」

「何でも」

「じゃあ、これから一緒に俺の買い物に付き合え」

「・・・・それは最初からの予定だろう」

「後はおいおいな」

















 既に冷めている紅茶。

 快斗は揺れるそれを見つめながら、飲み干す。



 そして笑顔を見せ目を細めた。






































ひとくぎり































 本当に欲しいものは目に見えない。



 本当に大切なものは、いつだってそばにある。



































 ――――――――――・・・・・・それに気づくか気づかないかで、人生は大きく違う。



































「本当にこれで満足なのか?」

「何でさ。服も土産も買ったし、大満足だ」

「・・・・・でもまだ」

「さーて何時だ? そろそろ待ち合わせ場所に行った方がいいな」











 やがて日が暮れ始めた頃。

 快斗と探は、紙袋をたくさん抱えてとある店内から出てきた。



 風が出てきたらしく、頬に冷たく刺さってくる。











「僕は何も買ってないんだが・・・・・・」

「そうだな。欲しいもんなかったのか?」

「いや、そうじゃなくて」

「しっかしやっぱ寒み~ 新一達と合流したら、あったかいもん食いに行こうな」











 マフラーを結び直し、快斗は肩をすくめる。

 彼は寒さに震えながらも本当に笑顔だったから、探はゆるりと聞いてみた。





















 しかし――――――――――・・・・・























「・・・・・・・」

「白馬。今日は付き合ってくれて、ありがとな」

「黒羽君・・・・・?」

「やっぱさー なんかお前といるの楽だわ。そりゃもちろん、新一とか服部と一緒にいるのも居心地が良いんだけど・・・・・・・何でだろうな」

























 急に神妙な声色になる快斗。

 しっかりと目を見て話しかけてくる彼に、探も目を離せない。







 そして解った。























 見返りが欲しくて、かたちの有るものを贈るのではないのだ。





 『かたちのない想い』をもらうばかりで、どういう形で返せばいいのか解らないから。

 だから、チョコに想いをのせて贈るのだ。















 恋しい人へチョコレートを贈る習慣は、日本くらいのもの。

 欧米では日頃の感謝とお礼を込め、友人や家族間で贈り物をする日。



 それが、バレンタインデー。

























 ―――――――――・・・・・・・・こんなこと、言葉に出来ないけど。















 でも。

 いつだって、そばにいてくれる事に感謝してる。





























 本当に欲しいものは目に見えない。



 本当に大切なものは、いつだってそばにある。





























 新一。

 服部。



 そして、白馬。



























『俺と出会ってくれて、ありがとう』



























 60億を超える人口の中。

 出会える確率なんて、1パーセントにもならないのに。

























 ・・・・・・今こうして俺の目の前にいてくれる事が、本当に嬉しいよ。





















 そう、思わずにはいられない。



























「・・・・・それは光栄だ。僕も、君に会って人生が楽しくなった」

「何それ。コクハク?」

「まあ、せいぜい他の奴に捕まらない様にしてくれ」

「意味不明なこと言ってねーで、ほら行くぞ」





















 こういう投げかけに、のらりくらりとかわされるのも、いつもの事。

 秘密を抱えたまま彼はどこまでいくのだろう?



 探は夕陽を見つめる。



































 ・・・・・・春からは、ほとんど日本にいる事にしているんだけど。

























 ま。



 今は内緒にしておこう。



























 本当は人一倍、繋がりに敏感な快斗。

 でもそんな事は絶対に口に出さない、綺麗な友人。





















 ・・・・・・・・立場が違うからこそ惹かれてやまない存在。























「あれ、工藤君達じゃないか?」

「ホントだ・・・・おーい新一~!」











 コンドッティ通りを歩きながら、二人は見知った姿を見つける。



 日が落ちても人通りは相変わらず。

 それ所か、ますます多くなっている気がした。



 でもそれは、この光景を見れば納得するだろう。

 店のショーウインドウや街頭に明かりが灯り、幻想的な雰囲気を創り出すのは流石にローマと言えるからだ。





 都市は、夜こそ見応えがある。

















 見えてきたスペイン広場の手前で確認した、数時間ぶりの顔。

 しかし、何やら神妙な面持ちでこちらに気づいた。





















「・・・・・まさか」

「なんとなーく・・・・・イヤな予感がするなあ」

「救急車の音もする。ということは」

「ったく~ お前ら探偵ってのは、何でこう事件を引き寄せちまうわけ?」

「まだ事件と決まった訳じゃないだろう」















 だが予感は当たっていて。

 どうやらこれは、いつもの人混みだけのせいではなく。



 人々から漏れる言葉。

 その中に、誰かが倒れたとか刺されたとか言う単語があったから・・・・・・・







 彼らは確信するしかなかった。































「やっぱ事件じゃんかよ~~!」

「・・・・みたいだな」

























 東西探偵在るところ事件有り。



 そのジンクスは、ローマでも立証されてしまったのだった。




































ひとくぎり































「おいコラ服部!! お前、また性懲りもなく事件引っ張って来やがったな!」

「何やソレ? 俺のせいなん?」

「・・・・工藤君。何があったんですか」

「ああ白馬、それがさ――――――――――・・・・・」

























 どこにいても、何をしてても彼らを放っておかない『
事件(コイビト)』。



 それには国境は必要ないらしい。





















 そんなこんなで、4人が揃う旅行最終日の夜は。

 トレヴィの泉にコインを投げ込む暇もなく、過ぎていってしまったのだった。