traveling[08]




 そんなこんなで、帰る日の朝。

 支度を終えた新一と平次は、ホテルのロビーで珈琲を飲んでいた。



 そこに快斗がやってくる。











「ん? 白馬はどうした」

「あいつね~ 朝早く電話来て、先に帰っちまいやがった」

「へ?」

「『宜しく言っておいてくれ』ってさ。まったく忙しいヤツだよなあ」











 来るときよりも遥かに大荷物になっている快斗は、『よいしょ』と背負っていたリュックを降ろす。

 そしてチェックアウトを済ませると、サービスで置いてある珈琲ポットから自分の分を注いで新一の隣に座った。









「そりゃ大変だったな」

「朝の5時に起こされちまった。お陰で二度寝。飛び起きたよ」

「ほー。何が起こったんかな」

「さあねえ~ 血相変えて出てったけど。あ、んでコレ新一に渡しておいてくれって言われた」

「へ? 何だ?」

「知らね。中は見てないから」










 微笑いながら小さな包みを新一に渡す。

 中を確かめようとしたが、フロントから呼んでおいたタクシーが来たとの知らせを受けた。



 だからそのままポケットに入れ、彼らは荷物を抱える。











 これからフィウミチーノ国際空港へ向かう。

 帰りは疲れもあるから、来た時の様に乗り継ぎはしないことにしていた。



 お昼過ぎに出発し、日本へは翌日の朝着く。























 ・・・・・・・今回ヒースロー空港でかなりのロスを受けたから、『正解だったな』と新一は思った。





























「さて。とりあえず空港行って、荷物預けちまってから朝飯食おうぜ」

「賛成! もー腹減ったよ」

「お前は年中そう言っとるな・・・・・」

















 楽しかった時間は、光の如く過ぎるもの。

 でも。













 過ごした想い出は―――――――――――――――・・・・・・色褪せることなく残る。





























「・・・・・もう終わっちまうのか」

















 他の二人には聞こえないくらい小さな声。

 新一は少し表情を曇らせ、呟き外へ出る。





 本当に。

 ローマへ着いてからはずっと晴天が続いて。













 あのヒースロー空港での豪雪が夢の様に思えた――――――――・・・・・・





















「どないした工藤」

「新一?」

「いや、何でもない」

















 その(かげ)りの意味は何なのか。

 平次も快斗も何気なく聞いてはみるが、案の定やんわりとかわされる。

 























 ・・・・・・言うべき時が来たら話してくれるだろう。



 そう解っているから、2人はそれ以上聞く事はなかった。








































ひとくぎり

























「乗っちゃったなあ」

「乗ったな」

「ホンマにうるさいで黒羽。さっきからなんぼゆーたら気が済むんじゃ」











 離陸の時は近付く。

 快斗は大きな溜息を付き、隣の新一の肩に頭を乗せた。







 帰りの便も空いている。

 行きより更に乗客が少ないから、シートベルト着用サインが消えたら速攻で席を移ろうと平次は狙いを定めていた。











 今は指定通り、二人がけの席の窓側に新一。

 通路側に快斗。





 その後ろに、平次がひとりで座っていた。

















「るっせえなー。それより何だよ獲物捕まえそうな目えして・・・・・・となり来ないみたいだし、そのまま両方使えばいいだろ」

「こんなトコで寝られるわけ無いやろ!? 見いや、真ん中の4人席、ガラガラなんや、移らなソンや」

「だな。俺も後であっち狙うぞ」

「ええ? 新一まで!?」

「さすがに身体が疲れてるみたいだから、映画なんて見ねえで寝る。快斗も寝とけ」

「ちぇ~ つまんねえ~」











 ふてくされる快斗。

 でも、やはり異国の地での数日間は身体に少なからず疲労を残していて。



 頭はスッキリ起きてるのだが、身体は逆に重かった。























「・・・・・おえ工藤」

「何だ」

「ちょお触るで」

「へ?」











 急に後ろ側から手が伸びてきて、額に体温を感じる。

 新一は驚いて目を見開いた。











「服部!? 誰の許可受けて新一に触ってんだ!」

「お前の許しなんて要らんやろ―――――――・・・・・やっぱ熱、あるやんか」

「え?」

「・・・・38度は越してねえから大丈夫だ」

「アホか。朝からこんだけあったら十分や」













 その言葉に横で更に驚く快斗に、新一はバツが悪そうに笑う。

 次に視線を平次に移し、『気付いてもバラすんじゃねえよ』と言わんばかりに睨んだ。



























 ・・・・・・・・新一は冬によく熱を出す様になった。



























 それは例の事件の後遺症なのか。

 彼自身は、何も語ってはくれない。























 更にひとり暮らしをしているから、毎日会っている訳でもない。

 それでも月に何度か顔を合わせる平次は、『今日も具合悪そやな』と感じる日が多いのだ。





 彼は『東の名探偵』。

 その演技力はずば抜けていて、普通なら立っていられない高熱時でも、それを他人に悟らせる様な表情は見せない。





















 しかし。

 心配させたくなくて、最後まで気を張っていたつもりなのに。



 席に座って安堵したのか表情に出してしまったらしい。









 あちゃ~・・・・

 と思いながら快斗を向くと、案の定怒っていた。



















「マジで微熱だから、気にすんな」

「何で平気そうな顔するんだ? 具合悪いんだったら、言ってくれよ」

「・・・・・そーやって心配するだろ。そしたらお前、寝ないで俺の世話しかねないし」

「するよ。当然」

「しなくていい、寝ろ」



















 予想してた通りの反応に、平次は息を付く。









 そう。

 快斗は『新一第一主義』だ。

















 だから誰よりも。

 何よりも先に。



























 ――――――――・・・・・工藤新一の状態に気付くはず・・・・・・・?





























「黒羽。アテンダントのねーちゃんも居るんやし、工藤ん事は言うとくとして、俺らは眠たかったら寝ようや」

「あっれー 服部ってそーゆーヤツなんだ。ひっでーな。もし何かあったらどーすんだ」

「せやからな」

「・・・・快斗。お前がゆっくりしてくれてた方が俺も安心だ。服部の言う通り、自分でダメだと思ったらアテンダントに言うから」






















 その時、シートベルト着用ランプが点灯する。

 新一は自分のベルトに手を掛けると、ポケットから『かさり』という音がした。



















「あれ・・・・・そういや」



















 新一は朝に、快斗から何か受け取ったのを思い出す。

 確か白馬からだと言っていたな―――――――・・・・・



 そう思い返しながら、包みを開いた。















 すると。































「これ・・・・・・・解熱剤?」





















 そう。

 10錠ほどの錠剤が、その中には入っていたのだ。











 ・・・・・メモが同封されている。































工藤君へ





これは白馬の薬剤研究所が開発した新しい解熱剤です。



昨日、具合が良くないように見えたのは気のせいでしょうか。

今朝になって熱が引いていればいいのですが。



そうでなくとも、最近は顔色も良くないと聞いてます。



黒羽君の世話も大変だと思いますが、気をつけて。

彼も平気そうにしている君を心配しています。



挨拶もせずにすみません。

急用が入ったもので、先に失礼します。また、日本で。





白馬探








































「・・・・・・・・え」













 中の一文に新一は目を留める。

 そして、ゆっくりと隣の快斗に向いた。















「快斗、お前知って・・・・」

「・・・・・・いくら演技してたって手のひらは正直だぜ?」

















 俺が新一の体調に気付かない訳ないだろ?















 ・・・・・そういう目をして、彼は微笑っていた。


































ひとくぎり



























 見ているだけでは解らない。

 でも、その身体に一度でも触れれば体温が伝わってくる。

















 時折漏れる熱い息も。







 ふと触ったときの、火傷しそうなほど熱い手のひらも。

































 ・・・・・・結局は、テリトリーに入る事を許された人間にしか解らない事なんだけど。



























「新一・・・・もう寝た?」

「みたいやな」

「良かった。白馬の薬も効いてきたみたいだし」

「・・・・それより黒羽。お前、なにやらかして来たんや」

「は?」

「探が血相変えて帰るなんてキッドの事しかないやろが」

「やだなあ~ それと俺が何の関係があるってのさ」



















 離陸して、数時間。

 久々に『怪盗キッド』のニュースを聞かされるのは、もうちょっと後の事。

























 機内の殆どの人が眠りの中。

 それは、だんだんと伝染していくようで・・・・・・





















・・・・・・やがて二人も、押し寄せる睡魔に耐えきれず目を閉じたのだった。











































Fin