ちょうどいい関係





「あれ?」

「やあ」

「どーしてこんな所に・・・・・」

「大きな声じゃ言えないんだな、これが」



















 天気の良いお昼過ぎ。

 風も、無く。















 長いマフラー。

 それを、ぐるっと巻いて口元を覆い、地下鉄の駅に入ろうとしていた新一。



 その時入り口に居たのは高木ワタル。

 ご存知、警視庁捜査一課の刑事である。





 なんか感じが違うと思ったら私服で。

 それで、張り込み中なんだなと悟り新一は納得する。













「・・・・・そういう事ですか」

「ああ。お昼交代でね。そしたら工藤君がいて驚いた」

「本屋めぐりしてんたんですけど、もーヒトゴミ疲れちゃって・・・・帰ろうかと思ってたんですよ」

「ご飯は? 食べた?」















 すると、大げさに溜息をつく新一。

 次に頭ひとつ分も高い彼を見上げた。















「ひとりじゃ・・・・この辺入る気しなくて」

「だよね~。じゃ、一緒に食べよっか」

「・・・・」

















 ブルゾンにジーンズという、本当に高木刑事の私服を見るのは久しぶりの新一。

 つい、じっと眺めてしまった。











 ・・・・相変わらずの綺麗な顔に、高木はちょっとドキリとする。



















「な、何」

「高木さん。そーゆーカッコすると若く見えますね」

「へ?」

「いっつもスーツだから新鮮だな~」

「ちょ、ちょっと工藤君??」

















 すると、何と新一は高木の腕にしがみ付いた。



 肩の位置にくるカタチの良い後頭部。

 高木は、ふわりと目の前で揺れるその髪の毛に気をとられた。









 引っ張られ、歩き出す。

















「俺、パスタ食べたいからこっち!」

「・・・わ・・・・・・解ったから手、手離して」

「この人混みじゃはぐれちゃうでしょ」

「子供じゃないんだから~~!」















 あたふたしている高木。

 微笑いながら、目的地へと突き進む新一。















 ・・・・・はたから見たら、いったいこの2人はどんな関係に見えるのだろうか?


































ひとくぎり





























 そうして暫く引っ張られ歩かされ。

 話し掛けてくる表情に、高木はふと疑問を持った。





















「・・・・工藤君。」

「?」

















 道玄坂を登りきる手前。脇の、細道。

 そこで高木は足を止める。



 ここは表通りとガラリと変わり、人通りも無くなり吹く風も冷たい。













 ・・・・見上げてくる細い首筋に手を入れた。





















「・・・っ!?」

「やっぱり・・・・」

「な、何ですか?」

















 いきなりの冷たい感触。

 というか、高木がそんな所に触れてきたことに新一は驚く。



 いつも大人びた顔をする彼が、こんな素の表情を見せるのは珍しい事で。

 高木は微笑ってしまう。

















「もしかしなくても、自覚無いんだね」

「だから何なんですか!? 手、離してくれませんか」

「熱い」

「へ?」

「―――――・・・・これだけ熱いんだから、朝から結構あったんじゃないの」



















 次にその手は額に来る。

 ひんやりとした感触が気持ち良いのか、新一は瞬間目を閉じた。





 そんな自分に、やっとそれを自覚する。





















「・・・・どーりで地面が揺れると思った」

「あのねえ・・・」

「大丈夫ですよ。食欲あるし」

「どんな種類のパスタが食べたい気分?」

「――――・・・・へ・・・えーと、スープスパ・・・・・かな」

「ほらね」





















 微笑う高木。



 他人の事になるとやたらと働くこの頭脳は、自分の事に関してはてんで駄目で。

 だからこそ、この『工藤新一』という人間に惹かれずにはいられないのだけれど・・・・・


















 ―――――――・・・無意識に、スープ系選んでるじゃないか。





















 ポケットから高木は携帯を取り出す。

 そして、短縮を押した。

















「あ、高木です。すみません、ちょっと1時間くらい下さい――――・・・・・・いえ、実は工藤君とばったり会ったんですが具合悪そうなので・・・・ええ、すみません」

「高木さん?」

「はい。んじゃ行こうか、君んち」

「ええ?」

「今年はインフルエンザも流行ってるから、ちゃんと養生しないと」

「で、でも仕事中じゃ・・・・」

「『工藤新一』の名前出して駄目だっていう人間は警察にいないよ。日頃、世話になってるからね」













 そう言いながら表通りまで連れて行き、丁度そこを通ったタクシーを停める。

 押し込められ、続いて高木が隣に乗り行き先を告げた。



















 ・・・・動き出した車。













 振動の心地良さからか、クッションの感触からか。

 新一は息を吐いて目を閉じる。













 息が熱いのが、見て解る・・・・・・・・























 ―――――――・・・・無理しちゃうように出来てるんだろうな、きっと。















 でも。



 自覚症状くらいは――――・・・・あったほうが良いと思うけどなあ・・・・・・



























 高校生の頃は、あまり会う機会が無くそんなに親しくはならなかったけど。

 大学に進学した頃から警視庁に良く顔を出すようになり、自然と高木は新一と話すようになっていた。











 もともと、周りには同じ『謎解き』に夢中になる友達も居なかったのだろう。

 服部平次という同じく探偵と称される少年が居るけれど、彼は大阪にいる。



 部活でもしていればまた違ったのだろうが。

 好きなサッカーでさえ、高校入学と同時にやめてしまったと聞いた。



























 サッカーしながらでも探偵は出来るんじゃない? と。
 そう言えば、聞いたことがあったっけ・・・・・・





 しかし。





















『片手間に出来るほど簡単なスポーツじゃないですし・・・・・・・』

『でも、服部君も剣道やってるんだから、工藤君に出来ない事ないと思うけど』

『――――・・・・俺、不器用なんで』



















 ・・・・そう言う彼の顔は何故か哀しそうで。

 運動一般は得意のはずの彼が、何が『不器用』な事があるんだろうと思ったけど。









 続きの問いは、出来なかったっけ・・・・・・・



























「そこ左入って下さい」











 高木は運転手に指示を出す。

 その声に新一が気付き、目を開けた。









「大丈夫かい?」

「・・・平気です」

「あ、ここで停めて下さい」













 運賃を支払い、2人はタクシーを降りる。

 新一はふらつきながら門を開け、家の中へと高木を招き入れた。
































ひとくぎり





















「薬、どこ?」

「自分で出来ますから、高木さんもう仕事戻って下さい」

「あ。その前に何か食べないと駄目か・・・・・僕、一人暮らし長いから雑炊とか得意なんだよね。寝間着に着替えて寒くないようにして」

「・・・・・あの」

「そうそう熱、計っておいてね」

















 有無を言わせない高木。

 ニッコリと微笑うと、そのまま冷蔵庫を覗き始めた。









 ・・・・言いかけて、続きを言えない新一。























 『素』の自分を見られる事に慣れてないのか。



 ・・・・・くるりと背を向けた時の新一は、とても気恥ずかしそうな表情をしていた。




























ひとくぎり





















「38度もあるじゃないか!」

「・・・・そうですか」

「納得してる場合じゃないって! やっぱ寝なきゃ駄目だよ」

「コレ美味いです。高木さん」

「ホント? ・・・・って、それは嬉しいし有難うだけど、はいコレ薬。あと『熱冷まシート』!」











 結局高木の言い付けどおり、寝間着にガウンを羽織り熱を計った新一。

 思ったより熱が高かったのに自分でも驚いたが、雑炊をまた口に運ぶ。













「食欲はありますから、大丈夫です」

「絶対足にきてるよ――――・・・・って工藤君、何で君は靴下を履いてこないのかなあ!?」

「・・・・高木さんさっきから怒鳴ってばっかりですよ」

「誰のせいだと思ってんの!!」





















 刑事と、日本の救世主。



 2人はいつも、緊張続きの『現場』で空間を共有する仲間だけれど。























 ・・・・家族は両親以外居ない彼らにとって。

 きっと、『兄弟』がいたらこういう感じなのかなと。

















 ―――――――・・・・・・・・・そう思いながら過ごしてしまう、この瞬間。






























Fin