工藤の日

 

 余裕だと思っていたのに、つい本屋で雑誌を見ていて気づいたら約束の時間十分前だった。
 平次は焦って電車に飛び乗り、時間にうるさい新一にメールで『少し遅れる』と送る。

 言い訳してもすぐばれるから、会ったら素直に謝るしかないなあと既に暗くなった外を眺めた。

 米花駅。

 強くなった雨に、強くなった風。
 屋根のあるはずのホームが水びだしだ。

 時間を見ると六時二十分。
 予想よりも大分遅くなってしまった。

 平次はとにかく走って改札を出る。
 ・・・すると、左側の柱に寄りかかる影が平次を睨んでいた。

「工藤すまん 少し所や無かった」
「遅れるなんていい度胸じゃねえか」
「ホンマ堪忍な」

 素直に頭を下げる。

「じゃあとっとと行くぞ。雨、これからもっと酷くなるらしいからな」
「そん前に、ちょおこっち」

 雨のお陰で不快指数百パーセントの駅構内。
 汗ばむその空気の中、目の前の新一も髪の毛が額にはりついていて・・・

 でもただ一箇所、口唇だけが乾いていた。

 ・・・平次の身体が疼く。

「ちょ、ちょっとおい、どこ連れてく気だ
「すぐ済むし」
「は
「工藤ってホンマ所構わず・・・俺の身がもたへんっちゅーねん」

 駅を出て、雨の降りしきる中を傘も差さずに新一を掴み進む。
 階段の下のコンビニの裏にまわると、その壁に押し付けた。

 ・・・新一は目の前の男を睨む。

 無意識なんだろうが、この目がいつも自分を惑わしていて気持ちを掻き乱す・・・

「何の真似だ」
「予想ついとるクセに」

 雨に濡れても乾く口唇に平次は食らいついた。
 熱い息と共に進入させる舌が、新一の僅かな理性を崩す。

「お前・・・人が、来たら・・・っ・・」
「こんなトコ誰もけえへんて」
「ちょ、や、やめろ」
「今日は『工藤の日』なんやろ せやからパーッっと飲も思て誘ったんやろ 理由解ったらエエもんくれる言うたよなあ

「俺にとってこれ以上のモンはあらへん」
「ち・・・くしょー・・・俺はモノじゃねえ」

 平次の手は、既にシャツの中で目的の物を探し当てている。

 指で転がす度に漏れる甘い息。
 ・・・とうとう観念した新一が、次なる刺激を求めて自ら口付けをしてきた。

 でもそれが終わると、静かに身体を離す。

「もう終わりなん
「・・・続きは家に行ってからだ」
「こんなんさせといてからに」
「今日は俺の日だぜ 俺の好きにさせてもらう」

 新一は微笑う。
 雨に濡れ、汗に濡れて綺麗に。

 ・・・ああ工藤や。
 平次は素直にそう思い、二人は身体を何とか落ち着かせてからその場を離れた。

 


 

 九月十日は、工藤の日。

 ・・・今日は新一が幸せな日。

 

[了]

 

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