STAY MY LOVE

 

 

 

「・・・寒いと思ったら、雪だ」

 

 

窓から冷気と共に感じる気配。
今年何度目かの雪に、新一は身を乗り出した。

 

 

 

「お前、ホンマ余韻のないやっちゃな」
「うるせ。早く抜け」

 

 

 

へいへいと、平次は腰を浮かし自身を引き抜く。
僅かに新一が震えるのを感じ、満足げに平次は微笑わらった。

 

 

 

「何だよ・・・」
「別に」

 

 

 

新一は、熱しやすく冷めやすい。
今の今まで触れ合っていても、行った後の冷め方は異常な程早い。

 

しかし、冷めるのは頭のみ。
頭脳が正常な思考に戻っても、身体は熱を引きずったままだ。

 

 

・・・そんな理不尽な自分の身体に、一番戸惑っているのはやはり新一だった。

 

 

 

「もっと工藤ん中、おりたかったのに」
「言葉にすんじゃねえ」

 

 

 

真っ赤になって怒るその姿は、出逢ってから変わらず平次を惹き付ける。

 

こんな関係になって、もう何度目かの夜を一緒に過ごして。
それでも、新一の反応は初めての頃となんら変わらず、平次の導きに対して敏感に反応を返していた。

 

 

重みが離れるのを感じると新一は小さく息を付く。
暫く取れない余韻に、波が通り過ぎるのを待った。

 

その時、二十四時を告げるアラームが響く。
時計のカレンダー表示が二月十四日に変わりだす。

 

 

 

「バレンタインに雪か。積もるんかな」
「無理だろ」
「・・・」

 

 

 

相変わらずの素っ気なさに、平次は肩を落とす。
そのまま枕元のタバコを取ると火を付けた。

 

 

 

「寝タバコ禁止」
「あ。そやったな、スマン」

 

 

 

ぎしりと音を立てて平次はベットを降りる。
机の上に置いてある灰皿を掴むと、ベット脇に戻り腰を下ろした。

 

・・・大きく煙を吐くと平次は目を閉じる。

 

 

 

「暖房ないんだから、何か着ろよ」
「火照った身体に、冷気が気持ちええねん」
「・・・ふーん」

 

 

 

新一は平次のうなじに手を伸ばす。
突然の冷たい感触に、瞬間平次は身を竦めた。

 

 

 

「ひゃ
「ホントだ。あっつい」
「タバコ落としたらどないすんねん

 

 

 

後ろを振り向き怒鳴るが、目に飛び込んで来るのは新一の微笑。

 

 

 

「・・・微笑い掛ければ全て許される思とんのか」
「だって、俺の顔好きだろ

 

 

 

工藤は、どんな時もこの性格だ。

 

腕の中でも締め付ける時も、攻撃的な物言いは変わらない。
その上、ほとんど声も上げない。

 

それは最初、自分が下手なんじゃないかと勘違いした程に。

 

 

 

「はいはい、その通りや全く」

 

 

 

視線を窓に映し、静かに落ち行く雪に目をやる。
すると、忘れていた寒気を思い出した。

 

タバコを消し、再び羽布に潜り込む。

 

 

 

「おい工藤、もうちょいそっち行けや・・・ん 何食ってんねん」
「チョコ。ハラ減っちまった」

 

 

 

見ると、何やら綺麗にラッピングされたチョコレートが枕元に。
その内のひとつを開き、新一は口に放り込んでいた。

 

 

 

「食う
「甘そうやな・・・」
「これ酒入ってて旨いぞ」

 

 

 

一欠片を平次の口元に運ぶ。

 

 

 

「・・・そう言やもらったな俺も」
「どーせお前また実家にでも送るんだろ
「しゃあないやん。捨てるわけにも、誰かにあげる訳にもいかんしな」

 

 

 

今年のバレンタインは日曜日。
だから二人は金曜日には、抱えきれないくらいの包みを持ち帰る羽目になった。

 

有名人な彼らはもらう量も半端じゃなく多い。
今年は酒入りも多かったが、甘いのが苦手な平次にとってチョコはやっぱり苦手だった。

 

 

 

・・・でもこの中のどれひとつとして、叶えられる想いはない。

 

 

 

「・・・工藤」
「なに」

 

 

 

薄暗い布団の中で、触れる体温の気持ちよさに平次はすり寄る。
新一の手は冷たいのに体温は熱い。

 

 

 

「・・・・工藤」
「だから、何」

 

 

 

しきりに名字を呟く声に、怪訝そうな顔をして新一は覗き込んだ。
グレイに彩られるその表情は平次の鼓動を逸らせる。

 

 

気まぐれな新一。
猫の様なその表情は、平次だけでなく周りの誰をも惹き付ける。

 

 

 

どんなに抱いても、その中にいても。

 

・・・離れると全ては過去になってしまう。

 

 

 

 

最初に夢中になったのは、自分。
手に入れたくて、側にいて欲しくて誘ったのも自分。

 

手に入れて触れ合う関係になって、改めて感じる不安。
行き着いても、この関係に安らぎも安心もあるはずが無い。

 

 

沈黙のまま、平次は新一を見つめる。

 

自分とそんなに変わらなく見えるその体格は、初めて抱きしめた時、胸に納まる薄さに目を見開いたのを思い出した。

 

 

 

「チョコ。口で食わしてや」
「は
「その白いやつ。欲しいねん」

 

 

 

真剣な目に、怒ることも笑うことも新一は出来ない。
様子のおかしい平次に戸惑いながらも、ホワイトチョコをひとつ口に咥えると、ゆっくり顔を近づけた。

 

 

・・・小さな正方形の固まりは、唇が触れ合った時点でもう見えなくなってしまう。

 

 

 

暫くお互いを行き来していたものが無くなり、待ちかねた様に深くなる口付け。
自分を支えていた腕の力が抜け、平次の身体の上に新一が崩れるように体重を乗せた。

 

 

やがて解放された唇から、甘い吐息が漏れる。

 

 

 

 

「・・・服部

 

 

 

キスの後の新一は、否応なしに平次の熱を高める。
更にその手は髪をすくのを止めない。

性感帯を刺激する指使いに身震いし、その手から逃れようと新一は藻掻もがいた。

 

 

 

「何で逃げようとするん」
「だ、だって」

 

 

 

もう一つの手が新一の下半身に潜ると、既に硬くなりかけのものを掴んだ。
そして素早く反転してその身体を組み敷く。

 

 

 

「・・・っ・・・」

 

 

 

相変わらず、新一は声を上げない。

 

その表情は吐息は、確かに反応している証拠なのに。
次に平次は親指で先端を遊びだした。

 

 

 

「はっ・・・とり・・・」

 

 

 

シーツに顔を埋めて懸命に沸き上がる波をこらえる姿。
無防備にさらけだされた頬に顔を寄せ、平次は吐息と共に口付けを降らす。

 

 

 

そして、今まで聴かせた事のない程に・・・

 

低く、甘く囁いた。

 

 

 

 

 

「・・・新一」

 

 

 

 

 

突然、新一が跳ね起きた。
窓際に寄り布団を抱え、耳を押さえている。

 

窓から漏れる明かりでさえ判別出来るほど赤い顔の新一に、平次は呆然とした。

 

 

 

「工藤・・・
「・・・な、名前」
「名前
「ちくしょう、信じらんねえ・・・っ・・・」

 

 

 

新一の肩が震えている。
耳を押さえている手を、静かに下ろした。

 

 

他の友人など殆どは下の名で呼ぶ。
平次は最初が『工藤』だったので、そのまま呼んでいたに過ぎない。

 

しかしそれが、当の本人にこんなに効くとは。
平次は思わず笑ってしまった。

 

 

 

「・・・なに笑ってんだ」
「せやかて、まさかこないに反応してくれるなんてなあ」
「っ・・・」

 

 

 

新一の火照りは、まだ取れそうにない。
平次はそのまま窓際に新一を追いつめた。

 

 

 

 

「工藤」
「な、何だ」
「ホンマにたまらんで・・・・・・新一」

 

 

 

 

声に出さず平次はその名を囁く。
耳元でのその言葉は、再び新一の身体を大きく跳ねさせた。

 

 

 

 

「・・・たまんねえのはこっちだ。凶器な声、しやがって」

 

 

 

 

睨まれるその視線が心地良い。

 

言葉と裏腹な表情と身体。
平次は、それを抱きしめる。

 

 

 

「これからは名前で呼んでもええ
「却下」
「何でやねん。他の奴らには呼ばせとるクセに」
「所構わず発情させる気か。俺の身にも、なってみろ」
「へ・・・」

 

 

 

だから呼ばせない。
ふたりきりの時以外は、絶対に。

 

 

 

・・・そうして新一は再び微笑った。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

いまだ舞い落ちる雪。
だけど決して積もることはない、雪。

 

 

 

 

・・・決して積もることがないのは、この想いと一緒かも知れない。

 

 

 

[了]

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