ゆたんぽ

 

 

 

「うわ。雨・・・凄いな」

 

 

 

 

もうすぐ十六時。
既に薄闇が降りてきた空を見上げつつ、新一は雨戸を閉めた。

 

 

 

朝方は雪だったのにな・・・まだまだ寒くないって事か。

 

 

 

 

この家は広すぎて暖房が隅々まで届かない。

 

リビングも暖かい場所は限られているから、新一はこの時期ここに長居する事は無かった。

 

 

 

 

 

一月四日。
新年になり三日を過ぎると、途端に正月気分が消えてゆく。

 

特に今年は両親が日本に来たのは良いが、大晦日の晩に一泊しただけで、締め切りがまだ溜まっているらしく次の日早々とロスへ帰ってしまった。

 

 

 

 

 

・・・まあ、例え一日だけでも愛する息子の顔が見れたのだから彼らは大いに満足していた。

 

新一も久しぶりだったから、一緒に食事をして初詣に行ったりして、年に一度の親子水入らずを結構楽しく過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は何食おっかな・・・」

 

 

 

 

 

もうおせちも無い。雑煮も朝終わった。
冷蔵庫を覗きながら、栗きんとんを新一は見つめる。

 

 

 

まさかこれを主食には出来ねえし・・・

しょーがねえ。メシだけでも炊いて、味噌汁作るか。

 

 

 

ぱたんと扉を閉め、その少しの冷気に身体を震わせ、新一はとりあえず珈琲を入れようと珈琲メーカーにフィルターを乗せた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「つうか、めちゃくちゃ寒みいじゃねえか・・・」

 

 

 

 

 

自室。
部屋着にしているジャージの上に、更に着こんでストーブを付けているにも関わらず、身体は寒さで凍えそうだった。

 

 

窓もしっかり閉めている筈なのに隙間風を感じる。

 

 

 

・・・新一は開いていたノートパソコンを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

ベッド脇に置いていた携帯。
それの液晶表示に気付いた新一。

 

メールが来ている。

 

 

 

 

 

 

 

服部・・・

 

 

 

 

 

 

時間はほんの数分前。
トイレに行っている間に来ていたらしい。

 

 

ボタンを押してそれを開く。

 

すると・・・

 

 

 

 

 

 

 


工藤、おめっとさん
湯たんぽ届けたるから、
今日泊まらせてなー

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え

 

 

 

 

 

今日?

 

今日って、今日か

 

 

 

 

新一はメール画面を閉じて時刻を見る。

 

十九時三十分。
嘘、マジ

 

 

 

 

 

今から家を出るのか。
それとも飛行機に乗った後なのか降りた後なのか。

 

駅に着いたのかこれから乗るのか・・・・

とにかく、今日、これから服部平次が此処に来るらしい。

 

 

 

 

 

確か年末から実家に帰っていた筈。

 

だから、休みいっぱいは向こうに居ると思っていた。

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

携帯電話が鳴る。思った通りに相手は平次。
深呼吸して、それに出た。

 

 

 

 

 

 

「服部」
『工藤、メール見てくれたか
「ああ。もう帰って来るのか」
『ちゅうか・・・もう目の前やねん』
「は

 

 

 

 

 

その言葉と同時にインターホンが鳴った。
新一は携帯を持ったまま部屋を降りる。

 

 

 

 

 

・・・そうしてゆっくりと、扉の鍵を開けた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーホンマ寒いな今日」
「本当に突然来る奴だな」
「・・・実家はつまらん。工藤居らんし、三日が限界やな」
「ったくお前は・・・」

 

 

 

 

 

平次の髪の毛が湿っていた。
まだ、雨は強いらしい。

 

新一は平次専用の珈琲カップにたっぷりとそれを入れ、渡す。

 

 

 

新一の自室。
そのベッド脇に、二人は背中を付けて隣り合わせに座っていた。

 

 

 

 

 

「で ゆたんぽって何だよ」
「俺に決まっとるがな」
「へ
「寒いと工藤て必ず丸まって寝るやろ それて起きると結構、身体痛くなってへん
「・・・そーゆー事か」
「嬉しいやろ」

 

 

 

 

 

満面の笑顔で言われては、悪態を付く気にもなれない。
新一は苦笑しつつ微笑うと、数日ぶりの体温に身体を寄せ・・・

 

 

 

 

 

同じ珈琲の香りがする口唇に、自分のそれを触れさせた。

 

 

 

 

 

[了]

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