ANOTHER LOOK@ME vol.1

 

 

 

「・・・よう。久しぶり」
「黒羽君?」
「工藤新一から聞いた。お前が、今ここに居るって」
「―――・・・ひとりですか?」
「ああ」

 

 

白馬家のワインセラー。
その扉の開く気配に探が顔を向けると、ひょっこりと快斗が姿を現した。

後ろ手にしっかり閉めると、ゆっくりと歩いてくる。

 

 

また伸びたらしい背丈。
快斗は改めてその事実を突き付けられ『ち。』と舌打ちすると、肩越しに奥の窓へ視線を逸らした。

・・・探はそんな快斗を、嫌味ったらしく覗き込む。

 

 

「―――・・・ひと月振りだっていうのに、随分素っ気ない態度じゃないか」
「うるせえ。他に人いねえの確かめて口調変えんの、相変わらずだな」
「別に良いだろう? 僕の勝手だ・・・・それに君以外にはこんな口の利き方はしない」
「は、そりゃ至極光栄」

 

 

至近距離で囁かれる声は相変わらず甘ったるく。
嫌味な程にそれは耳に響いて、快斗は悪態をつきながらも耳まで赤くなった。

勿論それを探は見逃さない。
薄く微笑うと手に持っていたワインを側のテーブルに置き、快斗を壁際に押し付けた。

 

 

・・・そして明るい髪をすき、耳元に光るピアスを触り、その緑色の瞳を覗き込む。

 

 

「全く誰かと思ったよ―――――・・・僕の知らないうちにあんまり変わらないで欲しいね」
「お前の許可取る必要ねえだろ」
「・・・・さっきからロクな言葉を吐かないな、この口は」

 

 

軽く息を付くと、探は目の前の薄い口唇を塞いだ。
静かでも無く激しくも無いそれは、空気の様に快斗へと何度も触れてくる。

・・・掴まれていた髪から電流の様な感覚が走り、幾度目かのキスで快斗は大きく身体を震わせた。

 

 

「っ・・・」
「OK。僕しか知らないままだ」
「馬鹿か!? こんなの他の誰とすんだよ!!」
「さあ―――・・・君はずいぶんと人に好かれるから、心配でね」

 

 

でも、他の誰も居ない事を知っているからこそ探は微笑う。

 

・・・こんな意地の悪い表情を、快斗以外の誰が見た事が有ると言うのだろう?
普段見せる八方美人とも思える立ち振る舞いが『嘘』としか言えない程、目の前に居る男は自分の心を掻き乱す。

 

・・・それともこれが、『探偵』特有の眼差しとでも言うのだろうか?

 

 

 

快斗が黙っていると探は身体を離し窓際に備え付けのテーブルへ向かった。
さっき持っていたワインの栓を抜いている。

そうして快斗を手招きすると、其処の椅子に座らせた。

 

 

「何だよ」
「今日取り寄せたばかりの極上品だ。試飲させてあげるよ」
「・・・へえ」
「最初は少し辛みを感じるが、口の中で泳がすと段々と甘さが広がってくる―――――・・・まるで君みたいにね」
「そーゆー事をさらりと口に出して言うんじゃねえっつーの!」
「今更照れることもないだろう?」

 

 

微笑いながら小さな棚からグラスを取ると、それを渡す。
静かに流れる紅い液体を目で追いながら、快斗は何とかこの男のムカツク表情を崩してやりたいと考え、とある行動に出る事にした。

 

 

 

 


 

 

 

 

注ぎ終わり瓶の口を拭っている探。
快斗は横に立ち、目の前の身体をもうひとつの椅子に座らせる。

しかし驚きもせず『何だい?』と目を向けて来るから、快斗は本当に面白く無かった。

 

背の高い探も、座れば立ってる自分の方が遥かに目線が上。
快斗はその足の間に割って入ると意味ありげに微笑った。

 

 

「・・・・お前も飲めよ」
「君が注いでくれれば、いくらでも」
「上等。直接注いでやるよ―――――・・・これ以上無いくらい、甘ったるいのをな」

 

 

言うと同時に快斗は手を伸ばし、グラスのワインを口に含むと探のそれに噛み付く様に合わせる。
・・・上から流し込むカタチのそれは、相手が座っている状態だからこそ出来る芸当だった。

 

快斗はゆっくりと口唇を離し探の様子を見る・・・・・

 

・・・だが。

 

 

 

「積極的なのは嬉しいが、さっき言った事を忘れてもらっては困るな―――――・・・このワインは暫く口の中で泳がせてからが美味しいと言っただろう? 今のでは早すぎる」
「・・・・っ」

 

 

まるで動じてないばかりか、駄目出しを食らって快斗は再び耳まで赤くなった。

 

 

「甘ったるいのを飲ませてくれるんだろう? 言った事はやってもらうよ」
「わ、解ったよ! もう一回やればいーんだろ!?」
「少なくとも10秒は口の中で―――・・・そう。そのままゆっくり・・・」

 

 

もうヤケだ。
そう思って快斗はもう一度グラスの液体を口に流し込むと、言われるがまま舌でそれを転がし始めた。

・・・しかしアルコールが強いのか、こうしてるだけでも酔いそうになってくる。
そのうち『もう良いかな』と声が聞こえたと思ったら、ぐいと腰を引っ張られた。

 

 

 

「―――・・・っ・・・ん」

 

 

 

両頬に骨っぽい手。

吸われる口唇。

 

 

・・・・・・自分の口内から液体が無くなって行くのを感じ、うっすらと目を開ける。
すると目の前の喉がゴクリと動くのが見えた。

 

 

 

「取りあえず合格かな。もう少し甘さが欲しい所だが」
「・・・あ、そ」
「酔ったのかい? おかしいな・・・そんなに強くは無いと思うんだが」
「るっせー・・・・・・お前ばっかで、俺はまだ飲んじゃいねえんだぞ?」
「ああ、それは失礼。じゃあ今度は僕が」
「いい。俺は普通に飲む」

 

 

しかし探は快斗を抱えたまま離さない。
仕方無くその体勢のままグラスに注ぎ、一気に飲み込んだ。

すると更に抱え込まれ膝の上に座らされ口唇を塞がれ――――・・・息継ぎも許さぬ口唇同士の隙間から、僅かに残っていた紅い雫が滴り落ちて行った。

・・・それは、真っ白な探のシャツに確かな痕を残してゆく。

 

 

 

「君を見上げるのもたまには悪く無いな――――・・・」
「・・・・っ・・・て、てめえの性格は相変わらず・・・最悪だ・・・っ!!」
「そんな口聞いても続きは無しだよ。工藤君と服部君が待ってるからね」
「当たり前だ!」

 

 

目の前の股間を撫でながら探は薄く微笑う。
既に固くなりかけのそれを自分でも解っているからこそ、快斗は顔を赤くした。

 

 

 

「全く服部平次と同室が良いなんて・・・・・僕への当てつけにも程がある」
「はあ!? んな事で拗ねてんのか? あの場合あの組み合わせが自然だろうが!」
「自然だろうが不自然だろうが関係ない。もういい。ほら、君はこのボトルを持ってくれ」
「ったくよ~・・・俺の事ほおっといて世界飛び回ってる奴の言う台詞かね」
「・・・・君の為だ」

 

 

 

最後の言葉は聞こえない。
でも、その時の探の表情が一瞬曇ったのを快斗は見逃さなかった。

 

・・・静かにワインセラーを出る。

 

 

 

そうして会話も無いまま、2人は東西名探偵達の待つ探の自室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

Fin