Father’s Day

 

 雨の夜。
 しとしとと、音が鳴る夜。

「寒いな畜生︙︙」

 風呂上り。
 寝間着に着替えた新一。

 冷蔵庫に行ってビールでも飲もうかと思ったのだが、この湯冷めするほどの気温。
 くるりと身体を返し、珈琲を入れた。

「もう日付け変わってんのか︙︙」

 顔を上げ時計を見る。
 現在、夜中の十二時過ぎ。

 なんか面白いテレビでもやってねえかなと新聞を開く。
 そこに、電話が鳴った。

 ︙︙こんな時間に電話だ

 訝しげに眉根を寄せる。

 こんな夜中に一体︙︙
 何かの事件か、それとも誰かが事故

 でも、そんな時は必ず携帯にかかってくるはずだ。

 新一はソファに置いてある携帯を見る。
 特に着信履歴も無い。

 暫くしても止まない呼び出し音。
 仕方なく、出た。

 出て、聴こえてきた声は︙︙

「︙︙もしもし」
『新一』
「父さん

 現在ロスで母親と暮らす、新一の父親である工藤優作の声だった。

 


 

『最近ぜんぜん連絡くれないな。父さん淋しいぞ
「︙︙別に用ねえもん」

 受話器を持ち、タオルで髪を拭きながら新一はソファに座る。
 憎まれ口を叩きつつも、その表情は少しくすぐったいと言った感じで︙︙

 見えないのを良い事に、声だけぶっきらぼうに返す。

『何か言う事あるだろう』
「は
『ほら、今日は一七日だ。何の日かな
「︙︙明日朝早いんだ。悪いけど切るよ」
『お、おい新一
「今年の夏はそっち行くから。じゃあな」

 父親の返しも聞かず、ぷちっと新一は電源を切る。
 『何だかな』と、バスタオルで髪を拭く。

 そして、天井を見た。

「ロスはまだ一六日の八時過ぎだろうがよ︙︙」

 そう。
 日本が一七日であっても、ロスはまだ一六日。

 今日本が二四時過ぎだから︙︙あっちは朝の八時過ぎだ。
 そして、日本の今日である六月一七日。

 それは︙︙

「律儀に父の日を覚えてやがったとは︙︙」

 六月の第三日曜日。
 それは『父の日』。

 きちんと日本時間の二四時過ぎに電話をしてくるあたり︙︙
 そして言葉をせがむあたり︙︙

 本当に、子馬鹿な父親である。

「あーちくしょ、なんか身体あっついなあもう」

 だんだんと顔が熱くなってきた新一。
 前に一緒に暮らしてた時からこんな調子の両親だったが、

 二人が向こうに移り住んでから、向こうの生活習慣に感化されたのかそれは度を増してきて︙︙
 ︙︙こうした、たまの会話が妙に恥ずかしい。

「やっぱビール飲も

 勢いよく起き上がる。
 そしてタオルをバスルームに掛けてくると、冷蔵庫を開けた。

 


 

 そして次の日、ロスの工藤邸。
 自分の書斎のノートを開けて、メールチェックする優作。

「ああああ
「なあに、どうしたの
「有希子 見ろ 新一、俺の事忘れてなかったぞ
「︙︙あら。ホント」

 画面を見て、有希子はくすくす微笑う。

 届いていたのは、日付指定のグリーティングカード。
 ︙︙今頃日本では。

 新一が『見たかな︙︙』と、顔を赤くしながら空を仰いでいる頃。

 

[了]

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